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浮気調査から始まる商業帝国築き上げた件について  作者: 白鼠


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17

私は佐藤に電話をかけた。今回はすぐに出た。


「小林様」


「仕事は終わったか?」


「終わったところです。帰り道です」彼の声には少し息切れが混じっていた。歩いているようだった。


「一度会おう。いつもの場所だ。川辺のあの喫茶店で」


彼は二秒沈黙した。「はい。二十分で」


私は電話を切り、車を発進させた。喫茶店へ向かう道すがら、吉田という男のことを考えていた。葵からもらった差し込み記録盤には、彼に関する項目が少なくない——外に囲っている者がいる、息子が米国で会社を経営している、金の出所に問題がある。しかし旧市街再開発の件における二億の差額については、葵は触れていなかった。知らないのか、それともわざと言わなかったのか。どちらにせよ、吉田が突然佐藤を調べ始めたのは、ただごとではない。佐藤に何か、佐々木の副社長が自ら問いただすほどの価値があるのか? 彼の祖父が残した借りか? それとも別の何かか?


私が到着した時、佐藤はもう窓際の席に座っていた。彼は仕事着に着替えていた。佐々木会社の警備部門の濃い藍色の制服で、胸には社員証を付けている。彼は軍隊にいた頃のように、背筋を伸ばして座っていた。目の前には水の杯が一つ置かれ、珈琲は頼んでいなかった。


私は腰を下ろし、米国の深煎り珈琲を一つ頼んだ。


「吉田が今日、お前に会ったそうだな」私は率直に切り出した。


彼は私を一目見た。「どうして知っているのですか?」


「結衣から聞いた」私は隠さなかった。「彼女は変に思って、私に調べさせた」


佐藤の表情が微かに変わった。ごくわずかだが、私には見えた。


「彼が来て、いくつか尋ねられました」彼は言った。「私の祖父のことです」


「どんなことを?」


「祖父が生きていた頃、佐々木の家とどんな付き合いがあったか、何か私に遺したものはないか、と」彼は一呼吸置いた。「それと、松本美月という女を知っているか、と」


私の指が机の上で一瞬止まった。


松本美月。吉田が松本美月を調べている。


「どう答えた?」


「知らないと」佐藤は水を一口含んだ。「実際に知りません。祖父はその名を私に話したことはありません」


「彼は信じたか?」


「信じるかどうかは彼の問題です」佐藤は杯を置いた。「私はただ真実を言っただけです」


私は背もたれに寄りかかり、この情報を頭の中で整理した。吉田が松本美月を調べている。これは何を意味するか? 彼は松本美月の存在を知っているが、中身は知らないということだ。彼は佐藤を試している。佐藤の祖父が孫に何を遺したのかを知りたいのだ。もし彼が松本美月のことを知れば、それはすなわちおじい様の弱みを知ることになる。間もなく退職する古参の臣が、突然、主人の秘密を探り始める——。


「小林様」佐藤が私の考えを遮った。「あなたは何かご存じなのですか?」


私は彼を見た。彼の目はとても静かだったが、指が机の上を軽く叩いていた。この仕草が彼の緊張を露わにしていた。


「吉田はお前の身元を調べている」私は言った。「質問しているだけではない。人をつけて追わせている」


佐藤の指が止まった。


「なぜですか?」


「お前の祖父だからだ」私は言った。「お前の祖父は佐々木の家のあるものを握っていた。吉田は知りたいのだ。そのものがお前の手にあるかどうかを」


佐藤は長く沈黙した。窓の外の川面を船が通り過ぎ、汽笛の音が鈍く響く。水の向こう側のようだった。


「祖父は私に何も遺していません」ようやく彼が口を開いた。「ただ一言だけ遺しました——『佐々木の家を訪ねよ。奴らがお前に生きる道を開けてくれる』と」


「その生きる道が何かは言わなかったのか?」


「いいえ」佐藤は首を振った。「彼が死んだ後も、それがどういう意味か私には分かりませんでした。ただそういうものがあるとだけ知っていました。それだけです」


彼は私を見た。その目には、私が今まで見たことのないものがあった——怒りでも、悔しさでもない。とても深い疲れだった。


「小林様、あなたは一体、私から何を得ようとしているのですか?」


この問いはとても率直だった。率直すぎて、私は避けるつもりはなかった。


「知りたいのだ」私は言った。「なぜ吉田が突然お前に興味を持ったのかを。お前の祖父のこと、松本美月のこと、それから旧市街再開発の件——これらのことが絡み合っている。私ははっきりさせる必要がある」


「はっきりさせた後は?」


「はっきりさせた後は」私は彼の目を見た。「お前が巻き込まれないようにする」


この言葉が口を出た時、自分でも少し格好いいと思った。しかし佐藤はその格好いい言葉に乗らなかった。


「あなたは私を守っているのではありません」彼は言った。声は穏やかだった。「あなたは吉田に彼の欲しいものを渡させまいと防いでいるだけだ。それであなたを守っている」


私は否定しなかった。


「そうだ」私は言った。「だから何だ?」


彼は一瞬呆けた。そして笑った。その笑顔はごく短かったが、とても真摯だった。


「だから、あなたは少なくとも私を騙さないのですね」彼は立ち上がり、袂から一枚の名刺を取り出して机の上に置いた。「吉田さんは今日帰り際に、これをくれました。よく考えて連絡しろと。言っていました——いくつかのことは、私の祖父にも関係があるし、結衣さんにも関係があると」


彼は私を見た。


「彼が何をしようとしているのか、私には分かりません。ですが、彼が理由もなく私を訪ねてくるような方ではないことは分かっています」


彼は背を向けて歩き出した。その背筋はあのまま真っ直ぐで、風に吹かれても倒れなかった木のようだった。


私はその名刺を手に取った。吉田。佐々木会社副社長、住宅地産事業部長。裏に手書きで一言。「佐藤、あなたの祖父が言い残せなかったことがある。私が話して聞かせよう」


名刺を袂にしまった。そして鈴木に電話をかけた。


「吉田を調べろ。特にこの三年間、彼が佐々木資本と業務のやり取りをしていないか」


「前に止めろと言ったのでは?」


「変えた」私は言った。「吉田が松本美月を調べている。私は知りたいのだ。彼がどこまで知っているのかを」


鈴木は二秒沈黙した。「松本美月の件は、私が調べている時にも確かに誰かが動いていました。あなたの者かと思っていました」


「私ではない。吉田だ」


「それは厄介ですね」鈴木の声が沈んだ。「もし彼が松本美月を調べているなら、彼はこの件の存在を知っているということです。主人の秘密を知っている古参の臣が、動く理由は二つ——退職前に一稼ぎしたいか、誰かに唆されているかです」


「どちらだと思う?」


「分かりません。ただ、はっきりするまでは、この件に手を出さない方がいいと勧めます。吉田は佐々木の会社に三十年いる。容易い相手ではありません」


私は電話を切り、喫茶店に座ってあの米国の深煎り珈琲を飲み干した。


吉田が松本美月を調べている。佐藤がその中間にいる。結衣が問いかけている。おじい様が二階の窓の向こうで見ている。


これらの糸が絡み合う。まだ終わっていない一局の碁のように。そして私の手にある札は、まだ足りない。


携帯が震えた。結衣からの報せだった。


「佐藤に会えた? 彼、何て言ってた?」


私は返した。「会った。彼は大丈夫だ。吉田が彼を訪ねたのは、いくつかの旧事を尋ねるためだ。彼の祖父に関わることらしい」


「どんな旧事?」


「まだはっきりしない。調べている」


彼女は「うん」と一文字返し、その後、声の記録を送ってきた。私がそれを開くと、彼女の声は少し迷っていた。「小林、吉田さんは会社でとても力を持っているの。彼を調べる時は、気をつけて」


「分かっている」


私は立ち上がり、喫茶店を出た。川辺の風は強く、私の白い胸元をはためかせる。私は街灯の下に立ち、向かいの佐々木の建物を見上げた。吉田の執務室は十八階にあり、灯りはまだともっている。


この男は残業している。あるいは、誰かを待っている。


私は携帯を取り出し、葵の番号を開いた。指を発信の上で止め、二秒間ためらい、そのまま画面を閉じた。


やめた。あることは、自分の目で確かめる必要がある。

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