乗船
俺たちがこの大陸に着いた時に降りた港と同じ港だった。
陸地と船を繋ぐ細長い板を渡れと命令される。
俺は隷属の首輪のせいで命令されると従わざるを得ない。
でも、井ノ川、お前は違うだろう?
今ここで逃げるんだ!
何なら港湾で働いている人に助けを求めてみるのも手かもしれない。
兎に角、その板を渡るんじゃない!
井ノ川が板に足を掛けて、板に乗ろうとしている。
「井ノ川!逃げろ!頼む、逃げてくれ」と言いつつ、井ノ川の横の騎士に体当たりしようとしたが、声には出せても、体はリーブンの騎士を傷つけてはいけないという隷属の首輪の強制力で騎士にぶつかる事はできず、自分が板の上で転んだだけになった。
「声を出したら話せない様にするって言ったぞ」と、リーブンは悪い笑顔を浮かべた。
そして、「話す事を禁ずる」と俺に向かって命令した。
とうとう、体を乗っ取られるまで俺は言葉を発する事が出来なくなってしまった・・・・。
でも、井ノ川は騎士にロープを引かれ大人しく板の上を渡る。
何でだ?
船が出てしまえばもう逃げられないんだぞ!?
俺は、俺を助けようとする人を俺の手で痛めつけないといけない罠を仕掛けられているが、お前は違うだろう?
お前は俺を見捨てていいんだぞ!!
頼む、逃げてくれ!
でも井ノ川は抵抗すらせず船に乗った。
そして俺たちが乗ったら船はすぐに港を出た。
何でだ!井ノ川。
他に乗客らしい人物を見掛けない。
リーブンがチャーターした船なのかもしれない。
井ノ川は一度も逃げようとしなかった。
俺を置いて行けないってことなのか?
そんな事はいいのに。
辰徳たちだけでも助かって欲しいのに・・・・。
俺は港町に着く前に井ノ川がなんとかしてくれるのではないか、或いは高橋たちが気づいて何とかしてくれるのではないかと淡い期待を抱いてこの数日間を過ごしていたけれど、何も起こらないまま港町へ到着し、そのまま船に乗せられたのだ。
そりゃそうだ。
辰徳たちには俺たちが買い出し先でどんな目にあったのか知る由も無い。
仮に宿泊していた宿を突き止め、夜飲みに出たところまで判明しても、その先が想像もつかないだろう。
今頃、どうしているのだろうか。
俺たちを探して、あの町の中をウロウロしているのだろうか・・・・。
俺の体が欲しいリーブンにとって、井ノ川の体は必要ではないはずなので、俺に対するよりも警戒が低いのではないかと期待していたんだけどな。
奴にとって井ノ川は、彼の体を乗っ取りたい受入貴族への土産であり、それによってその受入貴族に恩を売るための道具でもある様だった。
元々隷属の首輪が数あれば井ノ川の首にも嵌め、付き従っている騎士の誰かに臨時で操る方の首輪を嵌めて移動するのが手っ取り早いらしいのだが、「隷属の首輪は王家に頼んで作ってもらう特注品で、王家が数を管理しているので、一つの貴族家が複数の首輪を貰えない」そうで、結局はロープで手足を縛る事しかできないらしい。
船に乗って数日、対岸がうっすら見えて来た。
ああ、ザイディール国のある大陸に戻って来てしまった。
辰徳たちに俺たちの居場所をどうやって教えたらいいだろう?
折角作ったあの村が、実は敵をおびき寄せる材料になるって事も知らせなければ・・・・。
俺が俺で居られるのは後どのくらいの間だろう?
リーブンは上陸後も休みなくザイディール国に向かうだろうし、王都へ入ればその足で王家に俺の体の乗っ取りを願い出るだろう。
俺のサリーナ、これからどうするんだろうか?
俺を探してザイディール国まで来て銀髪になった俺を見て声を掛ける、そんな映像が頭に浮かぶ。
あああ、もしかしたらザイディール国では体を乗っ取られる前に俺たちを逃がしてくれたソノマに会えるだろうか?
多分無理だろうな。
井ノ川の受入貴族は井ノ川の右手を見てどう思うだろうか?
右手が無い事で無体な扱いをされないだろうか。
ここの所、俺には思考はあっても感情が無い。
リーブンに命じられたからだ。
感情を持つなと・・・・。
だから悲観する事も心配する事も出来ない。
生きる屍の様だ。




