対峙
俺は山口が高橋たちの所へ近づかない様、走った。
斎藤を簀巻きにするためのロープはマジックバックの中だ。
そしてそのマジックバックはリーダーである高橋の腰にぶら下げられている。
「バッグのロープを出せ!」
普段なら色んな指示は高橋が出すのだが、何も考えない内から俺の口より命令がどんどん発せられる。
斎藤の槍は俺が掴んで遠くへ放り投げた。
高橋はロープを取り出し、何とか斎藤を簀巻きにしようと格闘中だ。
でも、一人だと手に余る様なので、「井ノ川!高橋を手伝ってやれ」と更に指示を出し、自分は山口の前に立つ。
「辰徳!とりあえず斎藤を簀巻きにする間は、一人でハーミットを押さえてくれ」
「おう!」
俺は遠慮なく山口に向けて土魔法を詠唱した。
足場を固める魔法だ。
だが、ダンジョン内の土は土に見えても実際は違う。
だから、足枷は土で作られた物が山口の両足に嵌められるが、ダンジョン床に縛り付ける様なコトは出来ない。
だが、山口の2本の足を手錠の様に繋ぐ枷にはなるハズだ!
しかし、間の悪い事に魔法を避けようとした山口の右足が大きく開いてしまい、ヤツの両足首に土魔法で作った枷は嵌められたが、両足を繋ぐ部分は引きちぎられており、ただ単にアンクレットの様に足首に足枷が付いただけで、本来の拘束という意味では全く意味を成していない。
「山口!お前、まだ体を乗っ取られていないんだな?」
「・・・・」
日本語で話しかけるが、返事が無い。
こっちの言葉で同じ事を言ってみたが、同じく返事が無い。
もし、山口が既に乗っ取られていたら問答無用で片付ける。
が、まだだったら、山口を助けたい。
髪の色が暗い色なので、ダンジョンの暗がりに立っていると、判断が付き辛いのだ。
「お前、歴代勇者が体を乗っとる為に殺されるって知っていたか?」と再び日本語で話しかける。
「なっ!」
こちらの言っている事は理解できた様だ。
ということはまだ山口のままだ。
「乃木坂の髪がハーミットの赤色になってる理由を知っているか?」
「そんなの俺の知った事じゃねえぇ」
未だ日本語で話せないという縛り下にあるのか、山口はこちらの言葉で返事をした。
でも、俺の日本語を理解しているということは、まだ体を乗っ取られていない様だ。
だって言語能力は俺たちの体ではなく、魂に刻まれているらしいからな。
体を乗っ取った別人なら、日本語を理解する事ができないのだ。
「お前はまだ怒ってるのか。俺たち自身の命を危険に晒しながら助けに行ったのに、それを断ったのはお前だ!」
「ふん!」
「お前は知らない様だから説明するが、乃木坂の中身は乃木坂じゃない。既にハーミットに乗っ取られて、体は乃木坂だが魂は無い。つまり乃木坂は殺されたんだ。お前もあそこに戻れば同じ目に合うんだぞ!」
「嘘だ!」
「嘘じゃない。その証拠に、今の乃木坂は一度でも日本語で話したか?」
「それはチョーカーのせいで日本語で話せないからだ」
「馬鹿か!乃木坂は既にチョーカーをしていない!」
そう指摘すると、山口の体から力が抜け、両手がダランとぶら下がる。
「今、ここで俺たちの仲間入りをしてもしなくても、あの国へは帰るんじゃない。体を乗っ取られるぞ」
山口にも今の乃木坂が違う人間になっているのは薄々分かっているのだろう。
ただ、彼目線で二度も自分を見捨てた俺たちの言う事を聞くのも業腹なのだろう。
返事をしなくなった。
俺は更に土魔法で山口の両足に足枷を掛け、厳重に拘束した。
先ほどは魔法が掛かる直前に足を踏み出していたので、アンクレット状になったのだが、それを理解していないのだろう、今回は立ち止まったまま同じ足枷の魔法が掛かり、今度ちゃちゃんと手錠の様になっている。
それなのに一歩踏み出したものだから、山口はダンジョンの床に転がった。
「全員で斎藤ん家の貴族をやるぞ!ここでやらなければ、斎藤が命令に従わさせられる危険が常にある事になる。今は兎に角、そいつをヤろう!」
そう言いつつ、俺は辰徳の方へ走りつつ、土魔法で斎藤ん所の貴族に攻撃をした。




