別れ
「ファイアアロー」
高橋の突き出した右手から火魔法が矢の形で飛んで、斎藤ん所の貴族の額に突き刺さった。
彼は目を見開いたまま、後ろにバーンとひっくり返った。
呼吸はしていない様だが、だが、まだハーミットが残っている。
悠長に息をしているかどうかの確認をするには、山口とハーミットをどうにかしないといけない。
ハーミットは盾職だから固くて難しいかと思ったが、3人で囲めばあっという間だった。
みんな乃木坂の体を乗っ取ったというその一つだけでも、怒り心頭なのだ。
かたき討ちとばかりに、それぞれの得意な攻撃をぶっぱなした。
実際に誰の攻撃が致命傷を与えたのか分からないが、オーバーキルだったのは明白だ。
「斎藤、まだ命令は残ってるか?」
「ああ?」
「だから、命令にまだ服従中だったら簀巻きのままだが、もうロープを外しても大丈夫か?」
「ああ」
斎藤のロープを外し、ハーミットと斎藤ん所の貴族の遺体をマジックバックに収納した。
マジックバックに収納できたということで斎藤ん所の貴族子息の死も確実となった。
このままダンジョン内に放置していても何れは塵に戻るのだが、その前に山口がザイディール国へ運びでもしたらややこしくなるので、一旦は収納したのだ。
「山口をどうするんだ?」
皆が思っていた事を斎藤が聞いて来た。
「山口ぃ、お前はどうしたいんだ?」
これまでの流れで俺が大きな声で尋ねた。
だが、山口からの返事は無い。
救出しに行った時も人の話を聞かないヤツだったのだ。
これからもその性格は変わらないだろう。
しばらく待ったが山口からの返事はない。
「俺は、ここを離れた方が安全だと思う。そして、山口はこのままここに転がしておこうと思う」
「「「なっ!」」」
「まてまて、ずっと転がしておくのではなく、2日間手枷足枷が外れない様にしておく。2日後、魔法を取り除くので、それまでの間俺たちはどこかへ逃げ延びる事が出来ると思う」
「っ!!びっくりしたぞ。彰人!」
「山口は返事をしないくらいには、俺たちの事を信用していないみたいだからな。勇者の力があれば一人でも十分やっていけると思う。だけど、山口ぃ、ザイディール国にだけは帰るなよ。体を乗っ取られるぞ。まぁ、帰るも帰らないもお前は自分の判断で動け。俺たちとはここまでだ」
5人で話し合ったわけでもないし、普段俺がリーダーということもないのだが、誰も俺の意見に反対を唱えなかった。
俺は足枷で転んだ後の山口の体を厳重に覆う様にかぶせていた土魔法を解除して、追加で手枷も魔法で嵌めた。
山口の武器である剣は山口が可成り歩かないと到達できない距離に放った。
「悪いが俺たちが逃げる時間が必要なので、2日間はここに居てくれ。高橋、水と食料を少しここに置いてやってくれ」
「おう」
ダンジョンの獲物に襲われない様に、ちょっと窪んだ所に山口を寄り掛からせ、両脇に土魔法で小さな壁を作った。
ダンジョンの中ではそんなに長い時間魔法で作り出した建造物は残らないらしいが、まぁ、半日でも獲物たちの目に入らなければ良いと思い設置した。
実は、手枷足枷は2日間も持たない。
俺はそれを知っているが、山口は知らない。
だから言葉で2日間という時間を植え付けた形だ。
「山口、悪いな。お前をここに置いて行く。お前を殺す事が目的じゃない。生きてくれ。だが、俺たちも生きたい。だから逃げる時間をくれ。お前に望む事はそれだけだ」
そう言って、俺たちはダンジョンを後にした。




