闖入者
パルメダットのダンジョン都市マルモットは正にダンジョンがあるからこそ栄えた町だった。
78層もある大きなダンジョンで、下の階層へ行く程魔物が強くなる。
でも、俺たちのパーティは勇者パーティなのでサクサク討伐が進む。
進み過ぎて倒した魔物を全部地上へ運ぶのが大変なくらいだ。
そこでマジックバックが買える程の資金が貯まるとすぐ、一つ買い込んだ。
目の玉が飛び出るくらいの金額だったが、払えない訳ではなかった。5人の共有財産だしな。
それからは食料も大量に運べるし、魔物の素材もわんさか入るしで、快適なダンジョンライフを過ごさせてもらっている。
今日も今日とて70層で狩りをしていた。
最初に感じた違和感は匂いだった。
魔物ではない匂いが自分たちの移動に合わせて漂って来る。
この階層での狩りは結構頻繁に行っていたが、こういう香水に近い匂いがした事はない。
俺ら5人で香水を付けるとすると狩りに支障があるかどうか考える事が無い斎藤くらいだが、どうやら斎藤が原因ではないみたいだ。
皆、靴裏を一旦見て、何か踏んでしまったのかどうかを確かめたが、靴裏からは何の匂いもしなかった。
匂いを気にしながらも狩りをしていると、何かが飛んで来た。
そして斎藤の肩に何かが刺さった。
槍だ。
俺たちは辺りを見回してみたが、特に何も無い。
ダンジョンの罠の一種だろうか?
罠はこれまで矢が飛んで来た事はあったが槍というのは聞いた事も見た事もない。
それにしてもどこから?と皆で辺りを見回す。
俺たちは勇者パーティなので火力はある。
斥候もいるので罠にはかかりづらい。
だけどヒーラーがいないのだ。
こんな風に不意打ちをされ、怪我をすると少し焦ってしまう。
「高橋、水魔法って治療も出来るんじゃなかったっけ?」
そう尋ねると、焦って「出来るのかもしらんが、俺は出来んぞ」と返って来た。
マジックバックの中に入れてあったポーションを槍を抜いた斎藤の肩にぶっ掛ける。
血はすぐに止まったが、本人は痛いと言っている。
今まで怪我らしい怪我をしたことのないパーティなので、こんな風に不意に怪我人が出ると皆少し浮足立ってしまう。
そうこうしていたら再び「シュっ」と何かが飛んで来る音がし、勇者として身体能力が上がっている俺たちは高い動体視力を駆使し、そのある物を避ける事が出来た。
ソレは、「かッ」という音を立てて、俺たちの背後にあるダンジョンの岩壁にぶつかった。
周りを見回してもダンジョンの壁しかない。
何をきっかけにどっから槍が飛んでくるのかが分からない。
これ以上怪我人が出る様ならこの階の探索はやめて地上に戻る事も吝かではない。
返す返すも回復職がいない事が悔やまれる。
みんなでキョロキョロ周りを見回していると、また「シュッ」という音がして槍が飛んで来た。
誰も1ミリも動いていないので、新たに罠を踏んだとか、触れたとかではないと思う。
更にもう1本「シュッ」という音とも共に槍が別方向から飛んで来た。
「あそこっ!」
流石斥候職、井ノ川がダンジョンの壁に隠れてる赤毛の人物を指さした。
これでダンジョンの罠という線は消えたな。
「あれ、乃木坂じゃないか?」
「いや、もうあれは乃木坂じゃない。ハーミットだ」
「うぉぉぉっし!乃木坂の敵を取ろうぜ!」
「待て、乃木坂だけか?山口はいないか?」
そう言った辰徳の一言に、皆じっくりと周りを見回す。
果たして山口らしい人影も乃木坂から離れた所にチラっと見えた。
ただ乃木坂は1人ではなかった。
斎藤の所の受入貴族の子息がその陰に庇われる様に立っていた。
「周りのヤツを殺せ!」
そう大きな声で命令され、斎藤の体がグググと不自然な動きをした。
先ほど槍で貫かれていたからか、受けたくない命令だからかなのか、体がスローモでしか動いていない。
あっという間に傍にいた高橋に押しつぶされ、ダンジョンの床に転がされた斎藤の上に、高橋がそのまま馬乗りになった。
「ちっ!別のヤツを狙ったのに、何も斎藤に当らなくてもよかったのに」と言う、山口の声が聞こえた。
「斎藤ん所の貴族をヤレ!」
何も考えず俺はそう叫んでおり、高橋以外が乃木坂、いやハーミットの方へ注意を向けた。
斎藤ん所の貴族を潰せば、斎藤は操られなくていいからというたったそれだけの理由で、俺たちはハーミットの後ろに隠れ立つ貴族子息へ一斉に殺意を向けた。




