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魔神少女と孤独の騎士(旧:異世界で魔王になる方法)  作者: ワシワシ/三月ふゆ
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おまけ 帰還後に同級生たちにやり返した?一幕

帰還後しばらくして、同級生たちからちょっかいをかけられたあと、七子どう対処していたかです


あと、期間限定受注販売でグッズ(一巻表紙絵のアクリルブロックやキーホルダーなど)が発売していただけることになったので、よかったら活動報告をご覧ください。

 篠原七子が異世界から戻って来たのは七月である。


 少女は、異世界から帰還し、夏のアスファルトに揺らぐ逃げ水のように、再び教室に姿を現した。


 窓の外は青空だ。


 彼女の心境は大きく変わり、「さようなら!」とクラスメイトに手を振った後、教室はあまりにも狭くちっぽけに感じられた。


 その日は、篠原七子の運命の分岐点だった。この日を境に、少女はクラスメイトたちからも、自分からも、人間以下の扱いを受けることになる。


 だが、それは回避された。


 彼女の分岐する未来において、その可能性の多くは悲惨なもののはずだった。しかし、少女を加害するはずだった同級生たちは、七子に手を振り払われる形で、あるはずの行き場を失ったのだ。


 だが、この日呆然と見送られた加害のきっかけは、翌日に繰り越されただけでもあった。


 ——昨日、篠原七子は様子がおかしかった。しかし、よく考えてみれば、たまたまああいう風に生意気な抵抗をしただけだろう。


 そのように彼らは、思いなおしたのかもしれない。七子が『逆らった』こと自体、あまりにも不可解に感じられた。再び抵抗するか否か、おそらくしないであろう。そう見込んで、彼女は空き教室に呼び出されたのだった。


 しかし、この試みは成功しなかった。


 七子は一度応じたが、加害される段になって、はっきりと拒絶を口にしたのである。その上、逆上されてつかみかかられた際に、少し不思議なことが起こった。


 七子は、じっと相手を見つめただけである。


 ところが、この凝視に、つかみかかった男子生徒の方が耐えられなかった。まるで、猛獣を前にしたかのように、急に震えだし、同級生たちに「どうしたんだよ」といぶかしがられながら、手を離してしまったのだ。


 納得のいかない彼らは、何度か七子をいいようにしようとしたが、その試みはすべてうまくいかなかった。


 面子をつぶされたと思ったらしい彼らは、反動で陰湿化した。


 スマートフォンを使って誹謗中傷や盗撮、七子の私物を隠したり、破損させたり、はっきりと犯罪方向へエスカレートしたのである。


 しかし、今度こそ七子はひとりで抱えるようなことはしなかった。篠原家は弁護士に相談し、学校に提出した。今度こそ、話は大事になった。


 生徒同士のちょっとした喧嘩ということで、『和解』という形に話し合いをするよう校長や教頭に対し、篠原家からも弁護士を通して法的処置をする用意がある旨が伝えられた。


 仮にここで学校側が望む形で『和解』し、何もなかったように合意したところで、きっと代償のようにどこかの時点で似たようなことが起きるのだろう。


 それは、今度は七子ではないかもしれない。七子は一番嫌な未来を回避した。でも、もっと未来で、別の抵抗できない誰かが、酷いことをされるのかもしれない。


 七子が大人しくここで踏みつけられなかった代わりに、別の誰かが? それで一安心するの? 七子は、そんなことに荷担したくない。自分は助かったから、近くか遠くかわからない未来で、別の誰かがやられることになっても、私じゃなくてよかった、もう関係ない、という選択をしたら、きっとそれは七子自身を蝕み、いつか自分に返って来るだろう。愛想笑いを続けて、自分の命を投げ出してしまったように。


 そんなことに、合意するために、帰って来たわけじゃない。


 かといって、まだ起きていないことへの過剰な罰も求めていなかった。


 異世界で、自暴自棄になって魔神化し、多くの人々に死をまき散らした愚を二度と犯すわけにはいかなかった。


 七子は被害者になったこともあるし、加害者になったこともある。同時に両者になり得る。いつだって、どちらにも簡単に転ぶのだ。


 正しさを妄信したり、馬鹿にしたり、無力なのだと諦めたりして、考えることを止めたら、きっとすぐに止まれなくなる。絶対に正しいものがわからないから、ずっと問い続けるしかない。その選択が正しいのかどうか、考え続ける。考えて、また問う。自分にも、他人にも――世界にも。


 結果的に、警察に被害届を出し、加害側男子生徒たちは、カウンセリングを受けることになった。 


 当事者たちにとって、思いもかけぬ大事になったのである。


 その後、加害男子生徒に心を寄せていた女子生徒や、その友人の男子生徒たちから呼び出しを受け、またもや七子は責められたが、


「ええと」


 少女は考えた末に、逆に聞き返した。


「それはつまり、松山くんや川島さんは、私がものを隠されたり、壊されたり、盗撮されたり、もっと酷いと暴行されることになっても、黙って我慢しているべきだったって言ってるんだよね?」


「そ、そんなこと一言も言ってないだろ……!?」

「大事にしなくてもよかったじゃないって言ってるの! 校長先生たちが、和解するように話し合い設けてくれてたのに、弁護士とか、大げさに……頭おかしいんじゃない!?」


「ええ……と……和解って、私がさっき言ってたことを、全部私に許せってことだよね?」


 七子に煽る意図は全くない。少女は本当に不可解で、相手が要求していることを確認したかっただけである。 


 そもそも七子は相手を痛めつけたいとか、仕返ししたいとか、そういうつもりではなかった。ただ、分からないから質問した。七子に以前のようにニヤニヤ笑いながら嫌がらせをしようとしてきたクラスメイトたちが、本当にそうしたいと思っているのか。そこから疑問だった。


 これまでの七子は、自分の気持ちを抑圧し、他人の気持ちを当て推量にご機嫌伺いすることに、莫大なエネルギーを割いて来た。それを止めてみると、七子はずいぶんと身軽になったのを感じていた。自分の中のワーキングメモリに余剰ができ、その分、ぐっと視野が広がったのである。


 すると、周囲からの悪意が、決して七子自身に向けられたものではないのだろうということがなんとなしわかったのだった。


 水が高きから低きに流れるように、ただそこに存在する低いものに、悪意は流れ注ぎ込んだ。その低い場所やものと判断されたのが、以前の七子だったのではないか。


 七子は人間ではなく、共同体の共有利用物として悪意を注いでもいい器だと、合意形成が暗黙になされていた。七子自身も、自分はそう扱われても仕方ない存在なのだと、誰よりも自分をジャッジし、その合意形成に自ら加わっていた。だから、周囲は七子が七子を扱うように、同じく扱ったのだ。


 抗えば良かった、と思う。せめて、自分自身が、なぜそうしてしまうのか、自分と話をすれば良かったのだろう。


 自分で自分をそうされても仕方ないと扱うことは、七子自身ですらも味方になってくれない、敵になるということだった。


 その結果が、繰り返す『自分殺し』だ。


 目の前の同級生たちを見つめる。彼らは、明確に及び腰になっていた。それが今の七子にはわかる。


 人間も動物なんだな、と最近の七子はふと思ったりする。ちゃんと、相手が自分より強いか、弱いか、しっかり嗅覚を働かせている。殴ったら、仕返しされないか、周囲に味方はいないか。判断して、それから加害するのだ。逆に、相手が上位だなと思ったら、腹を見せ、抵抗を止めてしまう。


 相手が大声を出したり、威嚇したり、冷笑して七子を貶めようとしてくるのも、それらが通じないとわかってそそくさと退散するのも、全部一連の根がつながっているように思える。怖がっているんだ、という気がした。色んなものに対して、怖がって、自分は強いんだぞ、と体を大きく見せている。そうしないと、低いものになるかもしれない。低く見られてしまうかもしれない。低いところに、水は流れてくる。本能的に、高い場所に逃げようとしている。他人を蹴落としてでも。怖がっている動物相手に、七子はどうこうしようと思えなかった。


 七子は、きっと本当は何も変わっていない。いる場所は同じだ。でも、その場所は高低が上げ下げされる。七子がただ静かにしていたって、周囲は相対的に上げたり下げたり勝手にジャッジする。そのジャッジに振り回されるのを、『一抜けた』すれば、それはもう何の意味も最初からないことなのだった。


「そ、そう。そうだろ、許せばよかったのに、おまえ、心が狭いんだよ!」


 どうにか、ふり絞ったように応じた同級生に、七子もまた抑揚を変えずに答えた。


「私、一度目も、二度目も、三度目も、何度も何度も別に大騒ぎにしなかったよ。記録を取ってただけ。あと、嫌なことをされそうになったら、嫌だって断ったくらい。松山くんたちも知ってるよね。見てたし」


「……そ、それがなんだよ?」


「何度も何度も我慢して、ずーっと我慢し続けて、踏みつけられても我慢するべきだったって松山くんたちは言ってるんだよね」


「だから! そんなことは一言も言ってないでしょ!」


「言ってるよ」


 七子は声を荒げなかった。ただ、静かに断言し、相手を見つめた。ひっ、と一人が青ざめ、後ずさる。


「私が踏みつけられても黙っているべきだったのに、痛い、止めて、っていうのが生意気だって、あの人たちは笑って止めなかったし、エスカレートしていったの。だから、止めないなら助けを呼んだだけ。川島さんたちは、そうしないで、許し続けるべきだったって言ってる。許さずに、声を出したから大騒ぎになったんだって言ってるよ」


 七子は一歩前に出た。同級生たちが更に下がるので、もう一歩。


「私が許さないことが、どうしてそんなに許せないの?」


 誓って、七子は全く怒っていなかった。本当に不思議に感じられたのだ。少女は少し考えて、こう尋ねた。


「私には、許さない権利がないって思ってたから? それなのに、そんな権利があるみたいにしたから許せなかった?」


「……ひっ、ひ、ひっ」


 ひきつけを起こしたように、一人がへたりこみ、ズボンの股間やスカートのプリーツが黒く色を濃くしていく。失禁していた。


 一人が泣き出し、恐怖が連鎖したように、一人、また一人と泣き出して、七子だけが、ぽかんとした状態で立ち尽くす。


 こうして、七子はクラスで完全に浮き上がってしまったのである。


 少女は、なぜなのだ……と少しだけ落ち込んだ。


 瑞樹優花とも、一度話し合おうとしたのだが、完全に怯えられて対話を拒否され、多少考えたが、七子はいともあっさり続行を放棄した。


 本当は、事態の確認のためにも、話を聞けるのが一番いいのだが、今は無理なのだろうと、すっぱり思い切ったのである。


 クラスメイトたちとの衝突もそうだが、別に自分を加害してくる人たちと仲良くする必要はなかった。酷いことを要求してくる彼らに嫌われたところで、昨日と今日は明確に変わらない。


 むしろ変わったのは、クラス外のことだ。ダンススクールで新しいコミュニティに参加したこともそうだが、別のクラスの人から、たまに声をかけられるようになって、七子は驚いた。クラスで他人のご機嫌伺いをするのを止めたら、今まで接点のなかった別のクラスの人が話しかけてくるようになったのは、七子が自分の乗る電車の線路を切り替えたからなのかもしれない。とはいえ、いつもべったりというわけでもないし、七子が昼休みに図書館で本を読んでいたら、前の席に座って来て、読み終えた本の感想を言ったり、お勧めはないか尋ねられたり、一緒に本館に帰る程度である。彼らとの距離を縮めるために、また顔色をうかがうのに必死になったり、無理をして合わせたりするのを七子はしなかった。七子が自分を捧げなければ、関係が持続しないわけではなかったから。


 七子はそれで充分だった。


 つまり、七子は七子なりに、マイペースに異世界からの帰還を以前よりずっと気楽に過ごしていたのである。






 その後、十月一日に、再び異世界のエリアス・グリムたちと交信するようなサプライズが起きるのだった。

前書きに書いた通り、一巻表紙絵のアクリルブロックやキーホルダーが期間限定受注販売していただけることになりましたので、一巻の表紙絵とても美しくて私が一番欲しいのですが、この機会にぜひ! 詳細は活動報告になります

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! STOREオープン記念グッズもありがたいです。 七子さんの達観に憧れる……
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