想い -騒動 そのご-
「すごい……」
「現実のほうが、おかしい…なぁ」
「ナニコレ」
口々に、驚きと現実感のなさが漏れ出してくる。
何を見ているのか。
羽輝だ。
「なわけで、ちょっと出てくるね」
と、軽口で急に扉を開けて閉めて、死ぬ気なのかと止められたその直後である。
二丁の銃を振り回し、えらい範囲で吹き飛ばし。
またはその中心だった場所に飛び込んで両手の銃を乱射して見せたり。
少なくとも、マイクロジェットらしいものを囲めるだけの数がいるはずだが。
そして、イシカたちは確実に打って出る準備を整えていたつもりだったはずだが。
暴れ続ける羽輝に近寄れるやつが誰もいない。
弾切れも考えるまでもないらしく、ひたすら軽快に打ちまくり、遠目から見て一定の範囲に飛び込める獣人がいやしない。
まさに、怪物というのか強大というのか。
「はー流石に疲れたねぇ、そろそろ気楽に休んでないで、誰かひとり、捕らえられてる人のとこ行ったり動いてくれない?」
片手でスマホで連絡する余裕すらある。
走るのはすぐ疲れるのか、飛び込んでからあまり動かないではいる。
…それも、障害物がない、撃ちやすいとこに陣取った結果と思うしかないのであるが。
もう、距離を開けて踊りを楽しむ客と演者くらいのきれいな空間ができて、その円状の空間にたまに走り寄ろうとするものが瞬間で消えてなくなる。
重なっていても消えているし、集団で襲う気配がなくても後ろの数人が消し飛んでいるから、攻撃自体が10人近く重なっても消せるくらいのものを常にぶっ放されていて、集団で襲う作戦も使えないのだろう。
さらに、序盤には出力をいじったのか、爆弾のような広い範囲に攻撃するのまで見せている。
何処から出てきた、どこの技術なのだろうか、これ。
「疑わしいもの全部始末するまで、とは行きたくないんだけど、みんな遅いねえ…」
周囲に目配せしながら、滑走路に堂々陣取る羽輝。
そして、たまに転がっている獣人らしい死体…では、たぶんないもの。
どうにも、夢がチラリと言ったように、薬なのか酒なのか、獣人を分裂させる能力を持つものが存在し、それによって分裂していたものは消え去っているようだ。
本体と呼ぶべきものは、焼け焦げているが残っているので、生きてはいるっぽい。
物量としては、人の形に一応見える程度の怪物。
つまり分裂したモノが圧倒的に多く、不気味な怪物の群れにしか見えなかった。
だが、それがわかると意外となんとかなるものだ。
それぞれ考えて動いているだろう分裂体ではあるが、吹っ飛べば消えるだけで即座に増えないなら、羽輝がやっているように躊躇いなく消し続ければいい。
…可能なのは、羽輝くらいなのだが。
「あれ、ヒメから着信?」
撃ち続けながら、スマホを取る羽輝。
『人質かもしれない、黒幕かもしれない人、確保いたしましたようてる様』
エルナのままのヒメか。
そう思い、非常に素っ気なく返す羽輝。
ノマルがいるということは自由に転移ができるということで、ディータを遠くにぽいと転移させて、すぐにその周囲の獣人を締め上げられたようだ。
『…ですが、ディータもろとも攻撃されるようになりまして、少し応援いただけたらと思いまして』
「…面倒だなぁ」
羽輝は、スマホを肩と顎で固定して、銃をちょっといじる。
そのまま、真上に数発発射。
榴弾のように、周囲が一気にはじけて爆発を始める。
もう片方でスマホをしまった後に寄ってくるのを細かく片付け。
目立つ囮はもういらないんだろう、と、態度から言わんばかりに、ふてぶてしい羽輝。
…こんなキャラだったろうか。
そのまま、敵がほぼすべて沈黙するまでには5分もかからなかった。
弾切れらしいものもない。
「じゃあ、イシカとノマルでまだ襲う気でいる奴がいるか警戒はしといてくれよ」
「我なの!?」
「…ヒメに任せてもいいんだよ、今、あいつらの話の輪に入れないやつに周りの様子見てもらうのは絶対必要なんだし」
「やるよやるよ、まったくもう、借りなんて返さなくてよかったわね!」
追い出されるように、救出された…のかもしれない人質、華呼と已御の会話から離されるノマル。
獣人たちの側になりそうなものを減らす動きだと、反発されなくて一安心する。
『…あのーさぁ(´▽`*) その、銃でここら辺にいたの壊滅させた人、とっても怖いんで近寄らないようにできませんか( ;∀;)』
「却下」
「そのままで」
むしろ狙って見せるのが今の羽輝。
「華呼にはとても悪い流れで恐縮なのですが、貴女がすべて仕組んでいるしここを襲った主犯だという仮定で話が進んでいますので、どうかお気を悪くされませんよう…」
『気がよくなるわけないよなぁ( ゜Д゜)』
ちなみに救出されても猿ぐつわのまま、救出の際結構荒事しているが見て取れていたディータもずっと隣にいる。
その目の前で、椅子に座って値踏みするような目の已御と、殺しそうな目の羽輝。
近くには、なぜかニコニコの凛乃。
想、夢、しくる、姫乃は観客だが、それぞれの立場と能力によっては、こっちこそ危険の割合が高い。
特に、しくるは黙ったままな時間こそ長いが、どうにもそれは已御に危害を加えそうだったことによる苛立ちによるものっぽい。
地味に羽輝とは違いシャレにならない殺意が漏れている気配がある。
開き直って何が悪いのなんて言った日には、真っ先にかみつきそうだ。
物理的に。
だが、実際はそうはならない。
『私だって利用された側だってさぁ( ;∀;) きっちり聞いてよお( ^^) _旦~~』
そうして聞く、半信半疑のままの一部始終。
それによると、固定化されているアキバの通行路というものが、かなり魅力のあるものらしいということ。
異世界の通行というものは、そもそも本来、魔法陣などといったほんのちょっとの時間、ある決まったものしか通れないゲートができるくらいが精いっぱい。
偶然できることがあるホールというのはすぐ閉じてしまい再現性を確認できない。
そうであるはずのもの、という定説だったからである。
それを、うち破って今ずっと通行できることのヤバさ、これに偶然こっちに「置いていかれていた」獣人など、いろんなコミュニティが狙っているのだと。
それを出し抜くために水面下でそう言った組織が海外でバチバチになったりもしてるのだとか。
…そんなニュースはどこからも聞かないが。
そこに、獣人関連の組織からかなりの好条件で実質的な占拠を持ち掛けられ、さらに獣人の確実な判別は好ましくないから奪うか壊すべきという利害の一致が見られた…と。
そこはさすがに断ったが、さらにそこから脅されることとなり…。
まぁ、確かに、知らないところでそんなに大事があるのだとしたら、それも起きるかもしれない。
が。
すべては、信用に足りないところを発端にして、さらに仮定の仮定である。
そうだねと鵜呑みにできようモノではない。
「…信じるとしても、どうしても確証か物証、それでしか人は動かないというのはそちらの持論だったはずでは…?」
『そうでしたかしらウフフ(´▽`*)』
政治家みたいなことを言ってはぐらかしにかかってる雰囲気。
「そこはどっちでもいいさぁ」
「…面倒なのが戻ってきたな」
「大丈夫ようてる、一応、今んところゲートも、こっちの情勢も調べたりいじったりする気はないって」
「今は…ねえ」
ノマルがいつの間にか横にいた。
「今のところは、普通の人が荷物ごと持ち込んで当たり前になっちゃさすがにこっちに迷惑だから、罪人として持ち帰るだけで精一杯よ、我だけだと」
「…あー、最初からそのつもりだけで、獣人どもの仲間になったフリでもしてたな…」
「あっちだって、どの程度安全でどの程度行かせていいかと頭をひねってる真面目なやつはいるんだよ、たぶんね」
「いちいち、不安しか感じないのよおめーは」
「ごめんねー?」
お互い、なかなかに嫌いあっているはずだが会話は軽快である。
「なわけで、生焼けのヤツは持ち帰るつもりでイシカにひとまとめにしてもらってるから、そっちの問題はあとで結果だけ聞かせてほしいわけ」
「…うちらに、そんな必要あるっけかなぁ」
「頼むわよ、流出に関して情報がないと、あちら側の聖地に近寄るやつは処刑って過激派が出るの止められないんだわ、今」
「いや、思ったよりあっちの世界が深刻だなぁ!?」
軽い口調で結構ヤバゲな情報が漏れてきた。
「……ノマル様、リノートあたり、もしかしてかなり過敏です?」
「学園がパワーバランスいじろうとしている、と主張しているのが一国だけじゃない、って空気で示し合わせてるから、今はその答えは正確にはノーだね…」
意味が分からない向こうの事情だろうか。
急に、しくるが近寄ってきた。
一礼してすぐに挨拶もなく話しかける。
「とりあえずさ、ホレヨガが定住する土地欲しさに聖地に集まりだしているって噂がとにかく今、誰が仕組んで広めてるのかって騒ぎになりだしてるんでこっちの情報も欲しいのよ」
「そ、そうなんですね…」
ノマルに急に話しかけてすぐ、とても暗い顔になる、しくるに違和感がある。
獣人だから、色々向こうのことが知りたくなるのはおかしくないが。
「ノマルさま、意外と少なかったですよケモノたち」
「サーンクス、イシカ」
どうやら、羽輝が蹴散らしまくったケダモノたちを一か所に集めるという仕事が終わったらしい。
「…なわけでね、我は急いで帰るから、誰でもいいんで現状まとめて欲しいってことで」
言いながらダッシュ。
ずいぶんと急いでいるのは嘘じゃないようだ。
様子を見に、ただ何の気もなく羽輝や夢などもついていく。
何をするのか、物珍しいという気持ちは当然あるのだろう。
「…10人くらいしかナマのはいなかったのか…」
「ホレヨガで自由になっているか国境超えて逃げられるものなんて、そうそういないですよ」
詳しいことは、向こうの世界に詳しくないとわからない話題なのだろう。
ただ、転がっていて野積みされているこれらは、ノマルの行動を見る限りは、あっちから来たアキバの通行路ができて以降の存在っぽく感じる。
罪人というワードからするに、あっちのルールが適用する範囲のやつらだろうな、と思えるからだ。
こっちで普通に暮らしていた者たちを無差別に連れて行こうと判明したのなら、多少は羽輝も考えるところはある。
「…で、これどう持ち帰るのさ」
「ゲート開きっぱなしなら、世界の通行が地続きって判定だから、我なら、このまま転移もできるって寸法よ」
「便利だこと」
「球体の範囲で持ってくから、ここからは君たちは入らないでよ?」
少し足で線を引いていくノマル。
「じゃあ、頻繁に来ないようにね、邪魔だから」
「我も頻繁にやりたくないから、自体がまともになるようそっちからも祈っててよ」
どっちも乾いた笑い。
数時間もない出会いだから、またしばらくお別れだ。
「ほんじゃあねーぇ」
そこに…。
「待って! 私もそっちに…そっちで生きてく!」
急な声だった。
その声は誰かと言うと…。
「想さん…?」
「ごめんね、私この世界で生きるのもう無理だと思うの…ごめん、あーちゃん…夢…お店…やめる…」
振り返りはしなかった。
走りこんで、止まって。
そのまま、多くの何かとともに。
想は、異世界で生きたいと。
ノマルとともに、消えていった。




