はなび おもいで
飛行機でいろいろあった日。
いや、その前に、想が通り魔らしいものに刺されたり、さらにその前に慰安旅行的なものがあったり。
色々ありすぎたあれから、二日経った。
已御の別宅というところに一行は案内され、そこで一度、一息ついて休むという案に乗ったのであるが…。
さすがに、羽輝も仕事のパートナーが急にごめんの一言で遠くに消えてしまうとなると、堪える。
しかも、病院の時もそれに近いものを味わってるので二度目をこの短いスパンでである。
完全にグロッキーで、食べ物食べたら部屋で横になる、それだけの生き物になっていた。
家族である夢も、同じようにダメージ受けそうなものなのだが、こっちは割と平気っぽい。
表面上だけなのか、そうじゃないのかはわからないが。
「お店に帰る前に、お祭りに行きませんこと?」
みんなで顔を並べて食べる朝食のなか、已御が切り出したのは、もちろん気分転換。
さすがに、自分が代わりになると言っても、このタイミングは間が悪すぎることが理解できているらしい。
已御としても、いろいろ計画はあったのだが、一度すべて順延である。
「そうですよね、花火大会もあるそうですから、ぜひみなさんで!」
「…皆さんじゃないでしょ、しくる…二人になる予定で組んだって前置きしましたわよね」
「あ、そうでした!」
計画一つ、またいま、破綻。
「わたししってるよぉ、お祭り、食べ物が山ほど並んで売ってるよねえ」
「オレも、大きい祭りは行きたいぞ、テンチョ」
「…のんきだねぇ」
関係者どころか姉妹が消えたことに拘らずに明るくふるまえる夢。
良いか悪いかを置いておいても、今、この子のこの行動は周りを引っ張るのに必要な大きな意味がある。
一番近い関係のものが立ち直っているのに、周囲が辛そうにしている必要はあるのか、という圧だ。
「…夢ちゃんは、帰ってくるって思ってる?」
「どうしてそれ聞く?」
「そんなに元気だし…」
羽輝としては、元気になれ理由も、家族なりの信頼などがあるのか等も、何でも聞きたかった。
「テンチョは、そもそもアイツが必要だったのか? そんなに?」
「…だって、調理責任者と防火責任者は想さんだったから…いないと…」
「あの広さに防火担当いらないと思うよ、羽輝ちゃん」
姫乃がやんわりとつっこみ。
いつのまにかアティ=エルナの部分はなりを潜めて、今はたぶん元の姫乃である。
イシカとディータは、周辺を調べるのに動物のほうが便利と、猫に戻って別行動中なので、姫乃が呼ばない限りは見かけない。
凛乃は居座りたがったが返された。
…ということで、しくると已御。
喫茶の面々の羽輝、姫乃、そして夢。
あの時病院にタクシーで向かった時点のメンツそのままに結局戻ったことになる。
主犯としてとっ捕まえた華呼は、証拠までは引き出せなくて処分保留のまま開放。
ホレヨガなる獣人の集団を呼んで騒ぎを起こした誰かに関しては不明のまま。
匂わせ程度の話では、過去に単独でこちらに飛ばされた獣人の末裔が中国に多くてそのコミュニティが存在する…ということくらいだった。
ただ、その過程で一つだけ吉報があったのが。
「……ああ、玲ちゃん、いま家なの?」
電話越しながら、無事が伝えられて羽輝もホッとする。
華呼の持つなんかしらの伝手で、想と夢を作ったとされる研究機関と接触できる、ということで、華呼がそこは協力してくれて交渉してくれたらしい。
羽輝に伝わることはない裏取引というやつだ。
脅しと脅しの連鎖の上で、妥協点として差し出す犯人を用意させたうえで事件自体は実質解決。
報道などが落ち着いたらそのまま消滅することだろう。
要は、それがうまくいったという報告だ。
「じゃあ、今東京なんでもうちょっと戻れないから、店開けるなら店長代理名乗って開けてくれていいから、がんばれー」
相手からはすごい悲鳴なのか怒声なのか区別付きづらい玲の声が聞こえているが、まぁいい。
ある程度、後を引きそうだったものが片付いた。
ちょっと気分は上向きになっただろう。
「…では、浴衣の寸法合わせでもしましょうか」
やっと、落ち着いて笑える時間と空気が、できそうに思えた。
「においだけで満腹になりそうな、すごい通りが出来上がってるね、羽輝ちゃん!!」
「いや、屋台の列見たことないわけではないでしょ姫乃さん…」
「量はすごいよ! 食べきれるかな!」
「…もしかして全部食べる気でいる?」
「いやいや、流石に無理だよそれはぁ」
「やりたそうに言うなよ」
色々と、起きたりわかったり、見え方が違うものもあるが。
それでも、やはり、楽しいものは楽しい。
知り合って、仲良く過ごして、気分を分かち合う。
日常のようで日常ではない、この詰め込むような人込みの中で…。
なんなら、癒されているのを感じていた。
「…でも、なんでくっついてんだ已御は」
「わたくしだっていろいろしましたし、報酬くらいはいただきますわ」
「…まぁいいけど」
がっちりと腕組みされて引っ張られて、こっちは気遣っているのか演技なのかわからないが、それでも今までにない笑顔の已御。
「明日は、わたくしの直轄のコンカフェもしっかり見ていただいて、もうちょっと惚れ直していただきますので楽しみです」
「…そういえば、そんな話あったなぁ」
「ちなみに今のメイド対抗戦の優勝最有力候補でもありますから、頭を下げるのは羽輝さまかもしれませんわよ?」
「…たしか全員獣人なんだよな」
「ええ、課金アイテムの効果ということで半獣も見せられてますから、その身体能力合わせると強い強い」
「そりゃ怖いや…」
「でもたぶん、羽輝さまが勝ちますわよね」
「…私は、センパイを応援しますが」
しくるは、後ろからちょこちょこ警護のつもりでついてくる。
そういえば、こいつは直接獣人なんだった。
ずっとみなと喫茶にいるのかも、ちょっとわからないのだよな…と、ふと思ったりもした。
「あ、そろそろ花火の時間ですから、移動しないといけませんわよ」
「まだたべたいのー!」
「姫乃さん、どこから出てるのそのお金…」
「ひみつ!」
実際、謎である。
そうして…。
「指定席買って見る、とかの方式じゃなかったんだね」
「すぐに出来ますけど、それがよかったのです?」
「…いや、わかってるって褒めてんだよ」
「…うれしい」
ちょっとだけ、歩み寄ったようなイチャイチャを見せる羽輝と已御。
「飲み物かってきたらよかったなぁ…イシカいける?」
「…ジハンキというもので買う時だけ姿を戻して裸になりますが、問題ないでしょうか」
「……問題あるね」
姫乃は、どっさり買ったケバブとたこ焼きを引っ提げて河川敷の坂に猫と陣取る。
「人目が多くて、ちゃんと見れないなぁ…オレ向きじゃないか…」
夢は、ちょっと不満気味である。
地元では山の、人目のないところで自分の能力で浮いたりしながら好きに眺めるのが普通だったため、勝手が悪いようである。
羽輝は、已御としくるにサンドイッチされるように並んで立ち見の見学。
さすがに、金がかかっている連発の花火は見ごたえがある。
「…こっちには、こんなことをしてくれる神様が、いるんですよね」
「どうしたよ、しくる」
急に、小さくつぶやく雰囲気のあるしくるにちょっと驚く。
「私の世界ですね、神って概念がないのですよ」
「へぇ…」
いきなりだが、あっちの世界の話をこうして聞くのは珍しい。
そもそも、已御が明らかにするまで隠していたのだから、それはそうだが。
「概念や、出会えないものに祈るのではなく、最初から精霊などの応えてくれる強大なものに頼るのですから、そういう文化が生まれなかったんでしょうね」
「なるほど」
「だから、花なんかに願いを囁いて、そういった力に願うのです…力をください、叶えてくださいって」
そういえば、想さんが向こうに行ったように、向こうから来た人は懐かしさを思い出しながらも、こっちをどう見ているのか。
今まで考えたこともなかったことを、ふと思う。
「こんなに大きい花なら、きっとすごいたくさん叶う気がしてしまいます」
「だといいな、いっぱい願っとけ」
「……みんな、初めて打ち解けてずっと過ごせると思った友達たち……どうか…どうか…敵に、ならないでください…どうか…」
「しくる…」
花に願うより、それとみせて羽輝に言っているとしか思えなかった。
それが、本当に本音なのかどうか、少しは考える余地はあった気はするが。
暗がりとたまに花火で光る中で見えた涙は、ちょっと強いものを感じざるを得なかった。
それと、それを見ながら、羽輝はやっぱり仲間というもの、友達というものについて確信したものがあった。
……つまり。
「ということで、私は出かけます!」
「止めると、逆に大変なことになりそうですわね」
せっかく来たアキバ。
喫茶店に行く予定だったが、実際に今いるのは地下。
そう。
通行路と呼ばれている、異世界の道である。
「何があったって、絶対連れ帰ってくるからね、夢ちゃん」
「…オレはそんなに戻ってもらいたいと思ってないけど」
「またまた」
すごい笑顔だ。
吹っ切れて、想を連れ帰るために異世界に行くと決めた羽輝。
その意志と覚悟と、手に持った謎の武器は相当にヤバい。
「アイツはオレほっといても、迷惑がかかりそうだし痛いのは嫌だしと、だいぶ考えたんだと思う…行かせてもいいと思ってるの」
「でも私は嫌!」
もはや迷いのかけらもない。
「とりあえず、ノマルと喧嘩しないように私は付いてくから、すぐ戻るよ」
「だと、いいですわねぇ…試合日程決まってますから」
「ほとんど会話しないで、気持ちも聞かないまま、はいさようならなんて、許さないからここは雇用主権限として、しっかり言って連れ戻す!」
姫乃もいっしょで、ノマルとはすぐ合流できるようにする手はずや合図などがあるのだろう。
手早く済ますために必要なサポートとして、この中では最良なのはわかる。
「では、そろそろ、いってきます!」
「いってらっしゃいませ」
さすがに勢いで飛び出せない已御。
こちら側での準備と衣装などを即時で整えるのはさすがといえる。
…そして。
異世界に一人、そしてその相棒が一人。
無害と言い難いメイドが、解き放たれるのであった。
完
そういったことで、これからはタイトルは異世界の羽輝は有害であるにタイトル変えざるを得ないもので続きはそっち…でもなく。
日付の記念日ネタのつもりが何となくネタを詰め込みたくなって長なってしまったのと、10万字超えた時点で一定のブクマつかなかったら終わらせようとは決めていたので、あとの羽輝の活躍は別の異世界物書く時のゲストになるという方向になります。
こんな駄文でしたが、お読みいただいて時間をいただいた方々、ここまでお読みいただいた方、本当に感謝しかありません。
ありがとうございました。




