追加 -騒動 そのよん-
『なぁんとも今日もヤミちゃんかわいいねぇ!(^ ^)! おかえりおかえり~( ^ ^) _旦~~』
脳が全く追いつかないレベルの情報をぶちまけられながら日本の上空を飛んでいた一行。
あれもこれもと、知らない話と非日常と店の危機を畳みかけられた。
さらに、着陸に際して現地の応答がないので非常時マニュアルで着陸しますと言われた時、正直一度死の恐怖を感じたりもした。
で。
なんとか関東の地に無事着陸はできたわけであるが。
窓から見た時点で、人じゃないものに取り囲まれているのが見える。
誰か、猿ぐつわ噛まされて人質として捕らわれているのも見える。
怖いなぁ東京…。
ほどなく同時に聞こえてきたのが、已御の着信音と通話。
人質なのか、周囲の変なものの何かなのか。
はたまた、それを差し向けた黒幕みたいなものなのか。
…と、おもったら、そんな明るめの人工音声のようなものが飛行機の中に響いた。
いまいち空気が緊張しきれない。
『うっかりね( ;∀;) うっかり参加チームの調べてた情報が洩れててね( ;∀;) 別世界にヒメの強引な干渉は許さないって急にキレてて怖いんだよお(>_<)』
「………言い訳はそれだけですの? 助けませんからね」
「見えてるでしょ~('ω') 助けてよお殺生だよお後生だよお警察24時だヨお( `ー´)ノ」
話から想定するに、そこの猿ぐつわの女性がどうにも、スマホだけは自由に使えて通話しているらしい。
それなのに緊迫感がないのか?
「…これそのものが、華呼の演技と仕掛けの可能性は、常に頭に入れておいてください…あいつはやる女です」
とんでもないことをぶちまけるものだ。
要は、すべて疑わしいと思うべき、としてみんなには伝わる。
言葉を信じれば狙われているかもしれないのは姫乃。
そもそも一度刺されたり危ないことが決まり切っているのが想。
この、人じゃない何かが、いきなり飛行機に乗り込もうとしていないのは、誰か殺したくない人が一人はいるのだと仮定すると、盾となっているだろう已御。
だが、元から已御の息がかかっていない獣人からすると異世界の通行路のことを知っていれば已御すら殺してそれを奪いたいと思って不思議はない。
確認しない限りは、どいつも安全とはとても言えない。
とはいえ…。
悠長に待っているうえに、要求はその人じゃないものからは一切来ない。
実際、これはどういう状況で何目的なのか…。
「あの、已御さん…このクローゼット、ちょっとおかしい…」
「どうかされました?」
「だいぶされてるね…」
想が、手術から着ていた、いわゆる外出には向かない服を着替えたいと、飛行機の奥にある衣装をまさぐっていたところ。
個人持ちというわけではないような、色々なものが積んである自家用機に已御以外の服があること自体、そもそも幸運というべきなのだが。
種類には結構問題があるようで…。
「ゴスロリかメイドかコスプレ服しかなくないですかこれ…」
「左様です」
「左様て…」
しかも、サイズ均一でないことから見ると、着るのではなく趣味だけで置いたコレクションといった趣。
絶対着ないだろという露出度や、気に入ったメイドカフェの気に入った制服のコピーだったりもするのだろうか。
いや、本物を何らかの権限で提出させるなど簡単か。
仕方なく、想は許可を得て、比較的無難で露出控えめのメイド服を着用。
「…僕が着れるのはこのくらいでしたが、これは、こちらでは普通の服なんでしょうか?」
「私は動きやすければ不満はないですが」
元、ネコふたり。
ディータはメイド、イシカはビキニに毛が生えたようなコスプレ服を選択。
正直、正気ではない。
しかし本人の選択だし、持ち主は多少喜んでいるようなので、何も言うまい。
「しかし、本当に攻めてきませんね」
ディータが警戒している空気を出しながら外をうかがう。
窓や天井を破って襲い掛かるならすぐそれをつぶすつもりだろう。
…猫耳メイドの男性が言っても強さは感じないが。
「わたくしの保護が目的だから手を出さないのか、もしくは…」
「なんだね」
「このマイクロジェット自体が目的か、くらいしか、わたくしには思い当たりませんね」
已御そのものだけであれば、いくらでも説明がつく恨みはあるだろう。
しかし、獣人や変な怪物相手では、むしろ無意味なほど担がれている姿しか見ていないのだから感覚は鈍る。
已御の視点からすると、華呼がそんなにしても欲しいものを考えることのほうに優先が行くほどに。
『まーねまーね(≧▽≦) 私だったら欲しいものがあるとすれば、そこのスキャナだよねえ(゜◇゜)ゞ 』
「答えだ…」
「答えですわね…」
繋ぎっぱなしなのか、切る手段がないのか、ずっと外の人質については忘れたような会話もしっかり聞いてた模様の人質さん。
かなり広い範囲を拾って聞いていたようにも感じる。
…なんでなんだろうね。
そこも当然気にはなるが、それより…。
人質『華呼なら』スキャナが欲しいかな…という話。
ここでのスキャナというのはゲームの参加者が自分の姿をゲームに登場させるための外見データを事前に取る機械。
それにいくつか体内を探る要素が付けられていたようで、獣人を見分けたり想の異質な要素を見つけられたのは前に話で聞いた通りだ。
この飛行機にもある。
製造されたのは二台だけで、これと別に大型車に付けられたタイプが主要都市を巡回して事前に登録された参加者の登録と同時にスキャンを行っていた。
現在、こっちは整備中で解体されているので、新規参加はこの飛行機から対応するわけである。
つまり稼働可能なのはこれだけ、そしてこれが欲しいと。
見事につじつまが合ってしまう。
相当な無理をしてでも奪い取りたいとしたら、こうしてもおかしくないかもしれないと。
それに、猿ぐつわされて縛られていそうなやつが、手元のスマホで文字か入力した単語を合成音声で伝えるだけならともかく聞くのはどう準備したのか…。
自作自演臭が、考えれば考えるだけ強くなっていく。
やっぱり、言ったのが素直に本音で、捕らえられていないのではなかろうか。
「…そんなわけですので、一度ナラサワに確認取りたいことがありますから切りますわよ」
『そんなこと言うなよお(>_<) こっちにちょっと関心持ってくれよお(≧▽≦)』
ぷち。
「…で…えーと、ナラサワぁ、あなた研究室で誰と誰にあの書類渡したか確認できます? そうそう、正確にね、くれぐれも」
「そいつに対しては常に圧が強いな已御……」
電話口だけとしても急に態度が変わる已御に、羽輝も慣れはしても戸惑いはする。
そこに。
「よびすてはどうなのですかあ! ヤミねえたまはワカイナのすべてをショーライしょってたつのにもっともふさわしい、えーと、わがままでえげつないセーシンのシヨーチヨなのですよ!」
「凛乃…?」
不意に、変な幼い子の声がした。
想やケダモノ2名が出たあとのクローゼットルームからだ。
ほどなく、ひょいと顔を出す声の主。
未就学児といった感じだが、実に可愛い。
「ワカイナそのものといっていい、なんだっけ! チカラのネジフセルできるつよーいワカイナをつくれるのは、ヤミねーたまだけだってトトさまいってたのですわ!」
「…身内っぽいけどこの子、言ってることほぼ悪口じゃない?」
「凛乃はまぁ、権力的な意味での強権を持ったおおきな輪腕という夢を持っていますので、多少は大目に見ていただいて…刷り込みですけど」
「刷り込み言うな」
凛乃。
輪腕の三女にして、どうにも已御を過大に評価している言動が見られる少女。
のちに、革新的デバイスの会社を手に入れて言葉通り輪腕の地盤を確固たるものにする人物である。
「うわぁ、いーなぁこんなかわいい衣装に囲まれる生活、私も着たいけど誰かにお金払うのお?」
「…まぁ、ヒメもディータもいるなら、いるか…がっかりだよお前」
「しくるにだけは言われたくないね! オレ今こんなに機嫌いいんだから少し堪能させてくれてもいいじゃないの」
クローゼットのさらに奥から聞こえる声がもう一つ。
羽輝がうわあ…と、げっそりした声をだすと、それに即座に答える。
顔なじみなのだろうか。
いや、それ以上の腐れ縁…もしくは、いなくていいのに出てくると、少なくとも羽輝は思っている存在。
「ハロー、ヒメ! あと、初めてのみんなとこの素敵な衣装集めてる趣味の良い人!」
「…相変わらず壊れてんだよなぁノマル…何しに来たんだはよ帰れ」
「こんだけ頑張って帰れはひどくないかなあ…あと、この子のお姉さんって誰?」
「わたくしですが、なにか」
ノマル。
羽輝の夢で出てきて、なんだか凄いような間抜けなような行動を多数見せた、二つ名だけは多い程度に羽輝が思っている存在。
羽輝が知る限り、限りなく獣人側ではないかと思わざるを得ない感想だが、どんな態度なんだと。
いつの間にか「居た」ことよりもそっちが気になる。
「我もあっちの言い分よくわかるんだけどさぁねぇ…こんな小さい子人質にするのって、やっぱいい気がしないじゃない?」
「「はぁ!?」」
割と一斉に、みんなで叫ぶ。
そのままなのは夢、凛乃、発言したノマルくらいで、7人全く同じくらいの反応。
飛行機のパイロットさんなど、顔を見れてない数人を入れると結構な人数である、この中の人数。
「…また知らない人についていったんですの、凛乃」
「ちがうもん、ナラサワにおくってもらったもん」
「……ちょっと、ナラサワー!? 聞きたいことがありますわ! 至急!!」
即時、問い詰めのスマホを高速でいじる已御。
その横で、ノマルのほうを問い詰める羽輝。
「いつからこの中にいたのかとか、あいつらの仲間としてあの中にいたのかとか、私は本当に混乱しかないわけよ、今」
「そりゃそうだろうねぇ、とはいえ、我も転移はうまくなったんだよ?」
「ああ、あのよく地底に行かされるやつか」
「目視できるなら、そもそも周り壊さず移動できるんだから我はさー、信用してよ」
「それでクローゼットあたりに入ったのはわかるけど…」
「我もオハナシ全体までは知らないのよね、昨日聖地案内するってこっち来たと思ったら、我々の国ができるぞって大盛り上がりで酒盛りしてて、現地がこんなでこの子がいれば何でも貰えるって話しててのこれだもん」
「むしろ複雑になってきてよくわかんねえ話し方なんだよなぁおめぇは」
説明してはいる。
「…縛り上げるとかではなく、どこかに幽閉して輪腕側がら要求を引き出す気でいたのは、今の話かみ砕くぶんでは確かみたいね…あーちゃん」
想が、聞いた範囲の解説を買って出てきたようだ。
「あと、車で運搬されて会社のヤツも幼女を安心させるのに使われてたのと、薬で同じ能力を分裂させたヤツが大量に要るっぽいぞアネ」
「ありがと、夢ちゃん」
夢が、そこに加えてやたら詳しそうに細部を話してくる。
知らないはずの外の細かい話を。
混乱するが、これがノマルの思考を読む形で、夢の側が強引に引き出すという能力を使った情報。
これに関しては、思考盗聴の能力そのものが危険であることを自覚しているので、夢にどう問い詰めても夢からの自白はないだろう。
「…あと、もうひとつ、コイツ飛行機の底の一部に移動するとき外壁に穴開けてる、飛べないぞたぶん」
「……もうバレたの」
「ノマルてめえ?!」
「仕方ないだろう二人分のスペースごと移動なんだから!」
あまり上達はしていなかったらしい。
「…それでもさ」
「なんだよまだなんかあんのかノマル」
言いながら、服の内側を胸のあたりからガサゴソしながらしゃべるノマル。
「いやだけど一応、あんなに借りはあるから、こういう時に返さないとって気持ちはあるのだと、知っててもらいたいってのも、あるわけよ」
「邪魔しかしてねえよ」
「だから…」
そして、取り出す。
「あんたに借りてたもの、ここで返すのがちょうどいいって思ってさぁ」
取り出したのは、銃。
コンパクトで銃身は短いが、デザインからして弾丸が詰まっている感じはしない。
モデルガンかアニメのコスプレ用にも見えるが。
「プラズマブリットの…ポイゾナファンクションじゃん、なんで持ってんの、これ」
「ちょっと前あんたに借りたのよ、忘れてるとは思うけど」
「…じゃあ、いいか」
知らない異世界では、羽輝にとってはなじみがある武器。
名前も、すいっと記憶から出てきた。
ふたつ。
「最低限、これがあれば見えてるやつらは問題ないな」
「「はい!?」」
已御、しくる。
続いて数人が、羽輝の言葉に目を丸くする。
「ケダモノ程度の相手の勝負、うてるのものってこと!」
手に取って、ずいぶんと悪い笑みを羽輝はしてみせた。




