羽輝、キレた? -日常 その きゅう-
「おう、おっぱい出せ」
唐突な羽輝。
定休日明けの朝礼での一言が、いきなりこれである。
「なんだセクハラか? やめてやろうか?」
「…何か悪いもの食べた?」
冷めた目で見る人もあれば。
「まぁ、ようやくそういう雰囲気を希望されるように?」
「…仕事に必要ならいいですけど」
まあまあ納得している中途参入メンツもいる。
お前らはむしろ無言でいろ。
「して、そのココロはあ?」
姫乃が、特に気にする様子もなく、こっちはいつものように対応。
話を進ませる役になっている。
「だってずるいもんさあ! なんで君らだけなのか!」
「だから何だよセクハラ店長」
「見るがいいさお前らの目で!」
スマホを取り出す羽輝。
「…やっぱり今日限りでやめてやろうか?」
「これでその反応になるう?」
「いや、なるだろ!」
ゲーム画面の玲がスマホ画面にある。
上手い角度で、ちょうどパンツが見えるところを撮影した感じで。
言い逃れできないくらいにセクハラかな?
「…ちょっと待って、その下、下のほうを読んで!」
「めんどくせえなぁこのセクハラ店長は…」
しぶしぶ。
玲がスマホを取って下の文章を読み上げていく。
「玲ちゃんjkアホかわいい…姫乃ちゃんぼけーっとしててかわいいグッズ欲しい…玲ちゃんまた落下かわいい…なんだこれ」
どうにも、ゲーム中の実況コメントやチームごとの感想を抜き出したりする、まとめのサイトらしい。
広告が次々出てきて、玲からすると何度も見たくないものを見せられているとしか言えない顔だ。
自分たちを知らない誰かが適当に書いたそれら。
陰口で埋まっていない、または好意的な意見が多いこと自体は、むしろ悪い事ではないように思える。
「…そのちょっと下、まだ下」
「くっつくなセクハラ店長がよお」
二人で画面をのぞき込むのが、押し合うようにくっついて暑苦しい。
「おっぱい…でっか………揺れてる揺れてる…何読ませてんだマジで…こわ………鬼神みてえだ…つえー羽輝様…化け物だな……」
これか。
読み進めていると、羽輝の活躍している、無双してるあたりなのだろうか。
賞賛も含めてなのだろうが、言いたい放題だ。
たしかに女にそろって投げかける言葉ではないのかもしれない。
「……いや、実際そうじゃない?」
「おかしいじゃんー!!」
羽輝が年甲斐もなく腕を回して抗議。
「みんなかわいい、胸でかい、エロいでちゃんと言われてるのに、私だけなんで総じて怪物なんだよ! ずるいよ! 不公平だよ!」
「あーちゃん、褒めてると思うよ?」
「言われてることに何の不思議も感じないですが…」
「いやあ、みんな強いのは見てるよねえ」
それぞれ声をかけるが、まぁ深刻さはない。
むしろ飛びぬけた活躍があるのだから言われて当然の空気。
羽輝は、気に入らない。
さらに気に入らない。
「あーんでかわいくないの、私だってこの中じゃ『ある』ほうだろお? 揺れるだけで喜ばれるなら私は目立ってる分かわいくもエロくもあるだろ普通!」
それを上回る特徴があるから、としか言えない。
周囲は、今のを聞いた瞬間すべてわかっている。
「何が違うのか悪いのか確認させてよ! 脱げお前ら!」
「どうしてそうなる」
「私だって何したら納得できるかわかんないんだよ!」
そりゃ大変だ。
「…已御さま、とりあえず迷いなくするのやめてください、空気ちょっと…」
「そう?」
しくるに止められるが、已御はとりあえず脱ごうとしていた模様。
収集つけにくくなるから全員一致でここは反対で済ませたいところである。
「…まったく、ちょっとみんな仲良くなったかなと思ったら余計な火種作ろうとするのやめてくれます?」
「…気に入らねえんだよお…」
体を前後に揺らして、どうしても納得できない羽輝。
「それとしたって、急にどうしたのあーちゃん……そんなの関係なくお店が儲かればいい方針じゃなかった?」
「うるさい一番人気っ!」
どうにも、羽輝が見ている範囲では、ゲームから見たみなと喫茶のメンバーで想が一番人気らしい。
あれがおおきいから。
動向観察などで生き延びる時間が割と長かったことが多めなのも、理由かもしれない。
「そうそう、そういえば機会がなかったのでしばらく言いそびれていたのですが…」
「おっ、話題の切り替えで空気変えられるその気配り、東京育ちは違うな!」
「…関係ありますかしら…」
玲の助かったという感情のこもった声に微妙に困惑する已御だったが。
「オフィシャルズ昇格祝い、というのを兼ねて、このみなと喫茶の通販ページを作りまして、合わせて間に合わせでグッズを作りましたのですが」
「…聞いてないけど」
「羽輝さまの誕生日サプライズーということにしたかったのですが、どうにも遠くて公開から繋げられなかったので、こういった形に」
「いや本当に聞いてないけど」
「想さまに協力してもらったうえで伝えてたはずなんですが…」
「わたしのほうも、サプライズのタイミング考えてるとこだったから…」
「ダメじゃん…」
ある意味、店の顔になる場所がなんで、どっきり企画のネタ要素に負けてるのか。
あと、支払いのシステムのセキュリティとか連携とかサーバ代とか。
どっからその辺出てきたの。
「驚くより難しい顔してんね店長」
「ページ自体は私が趣味で前から作ってたりはしてたんだよ、あーちゃん」
「初耳だよ…?」
「まぁ趣味で公開する気すらなかったんだけど、已御さんに絵の相談されたときに、ふいと言っちゃった…だけなんだけどね」
「絵??」
急に話が飛んだな。
羽輝は混乱が加速する。
怒りが収まりそうなのは、むしろいい方向ではあるのか。
「うちのお財布事情でも軽くできるものってことでね、イラストの人だけ頼んでコンビニコピーしてコースターをプレゼントって話だった…だったんだ」
想、なにか言いかけて遠い目をする。
「…で、これがその、出場のみなさんの姿を起こしてもらったイラストコースター試作なのですが」
まずい!
玲は瞬間で気が付いた。
まずい。
「これが意外とよさげでしたので、想さんの作っていたというページに決済関係を連結して商品並べて知名度を利用した赤字解消手段にしては、と、思いたったわけでございますが…」
「……おいぃ」
「だめだって!」
「やっぱり不公平じゃねえか! 出て来いよ!呼んで来いよそいつううう! 私だけおかしいじゃん、やっぱりおかしいじゃん!」
書かれたイラスト。
店内の配膳イメージだったり、普通にかわいいポーズだったり色々するみなさん。
個々のキャラが書かれた5枚のイラストだったが。
やっぱり、羽輝だけ暗殺者の漫画のパロディイラストかというくらいバトルに寄ったイラスト。
思った通り、再燃の燃料だ。
「なんでだよお! もうみんな並べ! 何が違うのかひとりひとり上から下まで調べてやんよぉ!」
「姫乃さん足おさえて! もうだめだ物置に置いてくる!」
「いえっさ!」
「開店準備は、しくる頼むわねぇ」
「はーい已御さま」
「言いながらなんでお前は店から出てくんだよ!」
已御は、風呂に誰かがしばらくいる気配があればホテルの自室に戻ろうとする。
じっくり見て録画できるよう整える…わけではないだろう、たぶん。
「玲の胸がなんか育ちだしてるのが前から気に入らなかったんだよお! サイズ言えサイズ!」
「…姫乃さん、しばらく洗うの仕事にしていいから、普段の仕返ししてやって」
「あらあらいいんですか?」
「なんでもいいから、それ書き直せよおー!!」
結局、もう売ってるのでこの考えは無視された。
なので羽輝の不機嫌は数日続き、想も玲も姫乃も、さすがに解消の策を真剣に考えなくてはいけない段階を感じていた。




