東が西武で西東武?
『さぁぁぁ!!! 今日は、怒涛の勢い、さらに投票上位の肩書引っ提げて! オフィシャルズにとうとうやってきたみなと倉庫喫茶のオフィシャルズデビュー戦だぁ!』
試合解説の叫ぶ通り。
グランデと引き分けたあの試合、あの直後の投票で、已御の言う通り目立つ活躍と見せ場に困らない勝負をしたことで得票上位を獲得したみなと喫茶。
昇格には余裕で達成というほどの得票で、優勝賞品のアキバ店舗へつながる道、オフィシャルズへの進出を果たした。
グランデと一緒に。
正直な話、店舗の人気として固定票が人気の店には必ずあるものなので、これはわかりきっていた。
それがなくてゲーム内では人気がある、みなと喫茶。
これが実に異常である、ということだ。
まれにみる驚きとして、解説も取り上げる事態なわけである。
『対してこちら、神戸に本店を置きます無国籍メイド喫茶と銘打つ人気の、こちらも海と港をあしらったといいます、綺貿茶房の勝負!』
今日の相手は、上はチャイナドレス風のデザインと光沢のある衣装にエプロン、下はふんわりと広がるスカートと、制服人気が高いおみせ。
このゲーム開始の最初期からオフィシャルズ参加している、視聴者から見るとおなじみといったチームである。
近頃少々負けが込んでいるので、ここで巻き返したい気合がある。
みなと喫茶として初戦奇麗に飾りたいが、勝手を知っている綺貿茶房のほうが明らかに有利というのが下馬評。
已御も、しくるも、似たようなことは言っていた。
そして、オフィシャルズになって一番変化しているのは、マップ。
プールではもともと利用していた過去のFPSゲームから、ほぼそのまま使っていたものだったが、オフィシャルズでは使用するものがオリジナルとなっている。
オリジナルと言っても、このゲーム用に作っているだけで見慣れた人には見慣れたもの。
現実の街並みがマップ化したものがこれからの戦いの舞台となる。
今回選ばれたのは、ランダム選択からの、某池袋っぽいサンシャインシティの一部と公園の範囲のマップ。
地下、森側、建物側でゲームバランスなぞお構いなしに有利不利が決まるので、とにかく土地勘や感覚的なゲーム知識が問われる。
いわゆる、知らなくても狙撃位置として有利と思える場所を想定する。
隠れて周囲を広く見て敵を把握できる場所をいかに早く確保する。
そういった戦略建てが瞬時にできる者が勝つし、知っている場所ならそれをもっと鮮明にできる。
なお、現実の土地のマップ化そのものは昨今あまり難しいものではないので、使いまわしがあまりないのも強い。
ただ、大阪駅地下でタイムオーバーするなど、計算しきれないグダグダもやはり発生はするが。
『それではメイド同士の真剣勝負、今日もまばたきできないくらいの名勝負に期待して、スターーートです!』
時間となり開始の合図。
初期位置は、みなと喫茶は地上、建物側。
知っていれば有利だと思われるが、サンシャインシティのどこまでがマップで歩けるのを許されている範囲かはわからない。
だから、相手の綺貿茶房が森に居るかどうかも正直不明。
北海道住みの、みなと喫茶に土地勘はないし、場所自体は知ってるだろう已御としくるも、正直行ったことはないらしい。
やはり、綺貿茶房有利の見立てのほうが正しいのか…。
「ちょっと観光に来た気分でテンション上がるね」
「姫乃さんは緊張とかないのね…」
ゆったりとレンガ風の階段をのぼりながら玲が言う。
「だって景色の良い場所独り占めって気持ちいいものじゃない」
「…修学旅行のコースで、ここ入れたいなとは思いましたけど…」
「北海道だと高校も修学旅行の行き先東京なので!?」
合間にふっと挟まる、しくるの突っ込み。
「変わることはあり得ますけどたぶん…」
聞かれたくないやつに聞かれた、と、ちょっとイラっとしつつ、玲は顔色をできる限り変えずに話を続ける。
「悪くはないけど、就職した後来る機会多そうな場所って特別感ない感じしない?」
「どうでしょうねぇ、先輩がそれ以外でも卒業旅行でネズミの住処に行くので下見も兼ねると力説してましたが」
「なるほど、そういう使い方があるか」
想さんも加わり、バーチャル観光地化が進む。
中継されてるんだけど、そこも忘れてるのかな。
しくるは、なんとかならないか、必要な場所確保はできてるのかと、さっきから已御と通信中。
こっちの話も聞いてはいるようで、チラチラ入ってきたりはする。
羽輝は、建物の奥側を何やら行き来している。
ひとりだけやたらダッシュしているのが、やる気があるのか遊んでいるのか、他からは見当がつかない。
つまり、おおむね適当だった。
そのころ、相手側、綺貿茶房はというと。
「ユン、リーメイはラーク、今のところ誰とも接触してないでいいわね…見つけたらすぐに報告を」
────用語解説
ラーク
本隊と別行動の、本隊ではない別の役割の存在。
偵察や陽動など、限定はせず、まとめて適宜の役割を果たす分隊をこう呼称するようだ。
これに、さらに目立つ行動をとるよう明確な陽動をする行動や戦略をまとめ。ベイトとよぶこともあるらしい。
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「罠だけ設置してますけど、相手が建物に陣取る気だとしたら無駄になりそうですわ」
「サポート、今のところ動きはないのね?」
『せやね』
スタート地点は地下。
某池袋中心部からのサンシャインシティ入り口にあたるところ。
接敵までには結構な距離があることになる。
交戦地点を選び放題ながら、手探りなのは一緒。
だが数か月程度としても、このゲーム古参の定石というものがあるか無いかは大きい。
そこを綺貿茶房はしっかり見せつけるよう実践していた。
出撃メンバーに指示をだす通信役が、決定したマップを確認したら即時検索。
現実の写真を洗い出し、概要を伝えながら、メンバーの移動を見て「無かった場所」を洗い出していく。
いちおう、行き来で問題がありそうな個所などを運営が見てマップを変えている可能性があるのを綺貿茶房は知っている。
この場合、地下や隣接する公園からビルに出る道が限定的過ぎてゲームとして面白さに欠けると、通路の階段やはしごが実は追加されているのだ。
さらに一番大きいのは、某店舗から地上、公園に向けた広い傾斜の道。
駐車場がないので駐車場行きのスペースも使い大きく変更されている。
現実まんまである可能性は、実際、綺貿茶房の経験上低かった。
なのでそこを早く発見し、罠を張る。
もしくはそこを起点にあいてのやろうとすることをひっくり返す。
変更点の場所に陣取って相手に知られないように土地勘がある相手を逆に追い詰める。
これを何度も成功させたのが綺貿茶房の戦術を確立させたのだ。
のんびりしている間に、綺貿茶房はしっかりと相手を仕留める陣地を整えている。
それと同時に居場所も探ってはいるのだが…。
勢いで来る様子はなく、少し警戒。
まさか休憩できそうな、ひなたのスペースで、実際に来たらここでランチしたいよなどと談笑しているとは思うまい。
解説も困ってあまりこちらにカメラを向けていいのか考える、ほのぼのぶりだった。
「どうー? 撃たれたりしてる?」
「すごい平和ですよお」
「確実にいるはずなんだけどなぁ、むしろこんな無防備でだれか死んでないのおかしいだろ」
羽輝が、ちょいと不思議だなと言いたげに不満そうな声を上げる。
「地下が丸ごと作られているなら、そこの打ち合いメインになると読んで陣取ってる可能性はありますけど…」
「そんなどっしり構える度胸のメイド、多いもんかな」
「私たちも相当ですけどね…」
想も、それなりに思案するものの、今の作戦優先としてなるべく素でいる。
「いやぁ、でも、バーチャルでもいい景色で、空が青いと気持ちがいいですねえ」
「姫乃さん度胸座りすぎ」
何も考えてないと言うほうが正しい気もする。
やがて相手側に、その話声がわずかに聞こえることになる。
綺貿茶房の偵察のひとりが、しびれを切らせて想定より深く探ったあたりで。
「マップとしては地下のほうが戦いやすいはずだけど、地上をメインにしたいわけね、相手は」
ならば、受けて立つ。
一番大きいであろう変更点の、公園への出口を使い一気に奇襲する作戦を決行。
追加出口を始点。
スナイプと奇襲の人員を確保し、既存出入り口からの裏取りも狙う。
綺貿茶房、まさに経験上の万全の作戦だった。
────用語解説
裏
直接ぶつかって交戦をする場所を正面、表と定義することで、相手の側面、背面を別の形で狙う時、それは表と逆、裏と呼称される時がある。
裏を狙う、裏をつく、など人により変わることがあるが、裏を取る、裏取りは比較的よく使われる。
相手が見張っていたり、戦おうと待ち構える視線のある場所を正面とするなら、そこを避けて仕掛けることも裏取り、となる。
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変わって、また、みなと喫茶の側。
想たち元からいた3人は、閃光手りゅう弾をそれぞれ手持ちにもって、思い出していた。
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「不思議なこと言っていい?」
「なんだね?」
「ここかなり詳しく知ってる気がするんだよね、気のせいだと思うんだけど」
開始前、ルーレットで場所がこのサンシャインシティに選ばれた、ほぼ瞬間。
羽輝が、ぼそりといった。
「デジャブってやつかしら?」
「そこから草むらまでの距離とか、射角とか、メートル単位でなんでかわかる気がするんだよ、不思議だろ?」
「……気のせいでいいんじゃない?」
玲がさらりと言うが、他に何か考えがあるわけでは、もちろんない。
「修学旅行でいったりしたのかなぁ…中学の…それほど記憶ないんだけど」
うちは中学でも道外に出なかったぞ、と、玲がちょっと言いたくなるが抑える。
たぶんこれから、順当にいけば高校の修学旅行で行くだろうと思われる。
昔読んだ小説だと高校は海外もアリと希望を持ったものだが、まぁ、フィクションだし諦めは付く。
そんな、少しだけの引け目だったのかもしれない。
「そんなわけで、ちょっとだけ私の作戦に乗ってみないかって思ってね」
「構いませんよ」
「もしかすると、已御様と打ち合わせてもっといい作戦出るかもしれませんから、それで変更の余地を残してくれるなら、どうぞ」
「ういっーす」
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そしてやることが…。
この、観光気分で盛り上がるだけ。
できるだけリラックス。
全員、もちろん意味がわからない。
そして、周囲をあさってゲーム中にゲットした弾やジャマーなどをすべて取らず、閃光弾だけを各自持たせた。
あとは、いざという時のための逃げる方向の指示。
────用語解説
閃光弾
閃光手榴弾、フラッシュバン、フラッシュグレネード、スタングレネードなど、多種の呼び名がある。
光と音によって相手をくらませる、止める、ひるませるといった用途で使われる、直接殺傷力の比較的低い手持ちの爆弾である。
ゲームでは相手だけが食らう仕組みのものが当然あるが、現実ではそんなことはできないのがほとんどなので、事前にそれ用の防護があり、かつ、投げてできるだけ遠くで爆発させることは必要なことである。
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「とりあえず誰か撃ち殺せ、よりはマシな指示だけどねえ」
「…って、ちょっと! うわ!」
「撃って来た!」
のんびりベンチに座っているのを見て、とうとう来た。
とりあえず壁際に避難して、物音が近くにしたと思ったら、閃光弾。
あとは、まとまって、できれば何か隠れるものを捜して道路側に逃げる。
何もわからないが、とりあえず実行していくのである。
綺貿茶房側は、緊張感がない様子を目の当たりにして、1人だけでも確実に仕留めようとしたが失敗した。
スナイパーの移動優先、援護できる角度を確保したら、前衛が追撃。
慎重を積み重ねて徹底する。
…ところを。
1発の、遠くからの銃声。
動いて少し変化があったところを、どこからか狙われた。
「……え、万里代?」
さらにもうひとつの音。
「や、やられてますわ…」
「リーメイ、ビル出入り口からの情報何かちょうだい!」
「それが…!」
通信にも入る銃声。
そのまま通信は途切れる。
ハイドを取る予定だったほうの単独の担当が簡単にやられるとは、思わない。
一番ステルス行動の上手いメイドを配置したのだから。
しかしこれは…。
さらに、迷っている間に打ち込まれた、追加の閃光弾。
「うしろからやられてるの!? 嘘でしょ!」
なにもかも、読まれているのか場所を詳しく知っているのか。
相手の情報を仕入れているからこそ、理解しがたい状況だった。
そして、エイムがうまい1人を早めに見つけて警戒すべきなことも、知っていた。
だが。
建物側でもう一度体制を整えようとしたその矢先。
2発の銃声。
それは、的確だった。
『なんと……なん!と!!!』
裏で、かなりテンション高くすっと喋っていただろう解説も、絶句した。
『交戦から何分だぁ!? 長距離スナイパーライフルで撃った弾は5発、すべてヘッショ1撃ですべて命中、使った弾は5発!!』
そりゃあ驚かれもする。
『みなと倉庫喫茶、圧勝どころかなんだこれは! 前人未到の、漫画のような奇跡のスナイプで勝ってしまったぁぁ!!』
褒めるしかない。
相手の様子を見せて絶望的な雰囲気を出すより、そのほうが盛り上がりはするだろう。
『仕留めるたびに的確に位置を変え、すべてを熟知しているようにビルの上と広間を渡り歩いていたが、本当になぜなのか、インタビューが楽しみであります!』
圧勝以上のものを見せつけ、オフィシャルズデビュー戦を飾ったみなと喫茶。
それは、いろいろと注目される行動なのは、間違いなかった。




