おそらく日常のストレス ─異世界 そのに─
「おはようございますヒメ」
「お元気そうで何よりですヒメ」
「また何かあったんですかヒメ」
旅支度ということで、建物のあちこちを回っているが、姫乃さんの人気は高い。
…らしい。
思うより、通りで会う人たちはフレンドリー。
立憲君主制の王様っぽいと思っていたのだが、実は名前に騙されてただけで権力があるわけじゃないのだろうか、ヒメというのは。
ディータたちともども、頭は下げられるが絶対的な地位のかかわりを感じない。
あと、私は人気低いな、今までの様子を他人を通じて眺めると。
やっぱり。
着替え、食料、野外活動用の装備の持ち出し…。
周囲の人たちの服の統一感であったり、何か所も場所が細かく分かれているのを見ると、会社の中…、いや、そういうのはドラマでしか見たことないので、馴染みというなら学校を思わせる感覚だ。
で。
あらゆるところに本当に、あの紙は貼ってある。
本当に、私ってやつは。
「ご機嫌うるわしゅう、ヒメ」
「ノマル!?」
そこに、姫乃さんが、足先から頭の先の寝ぐせまでピンっと伸びて驚く程度には、何か因縁ありそうな人がやってきたようだ。
「うわぁ、余計なやつが来た」
「あなたが現れるときには、どうにも感覚でわかっちゃうようなんですよね、我」
わたしも因縁らしいものがあるらしい。
ノマルというそれに、いぶかしい顔してるのがわかる。
「相変わらず何も起こらないのが、ほんと不思議なんですよねえ」
「いや怒ってるが? わりかし心の底からムカついてるが?」
言いながら、ノマルがわたしをべたべたさわる。
胸に平手を当ててたたいたり、肩や腕をもんだり、頭をなでたり頬をつついたり。
玩具かお前の所持品か、私は。
その後、なんでか早口になって興奮したイシカが、ノマルに今回の事情を細かく説明し始めた。
国境近くに謎の被害が出た云々。
ヒメが出向くと言ってきかない云々。
ここまで洗いざらい話して大丈夫な人とは思わないのだが。
あと、端々にくっついていた情報を集めると、このノマルは世界を旅する結構有名な存在らしい。
古龍の代弁者?
滅びなき地の英雄?
伝説と永遠の旅人?
そういった単語をイシカが言っていたようだが、さっぱりだ。
ファンなのかな。
「いいでございましょう、我が同行して解決して差し上げます!」
「よろしいのですか!」
「…期待するのやめとけ、解決したって問題の原因だけ1度消える代わりに山か谷が1つ無くなるってだけだぞ」
「あなただけには言われたくありません!」
「あんだぁ?」
頼りになりそうな言葉のノマルに、まぁいきなり食って掛かるのは私。
クソガキだなこれは…まごうことなく場を悪くするだけの存在だな私。
「まぁまぁ、ここは、ノマル様の力を全力で借りるのもこちらのメンツとかありますし、対処が無理な時はパワーの面で助けてもらうということでひとつ」
「……ま、ヒメを立てるなら、我はそれでいいけど?」
「…私も、それじゃあ引きますか」
まとまったらしい。
ヒメの仲介がなかったら、髪の毛の引っ張り合いにはなってたな。
「では、参りますか」
ディータの一言で、なんとか出発。
何日もかかる長旅だったら、たどり着く前に夢から覚めるだろうな。
そう思っていたが。
「さぁて、敷地の結界を離れたなら、やりますか」
建物を出て、門を抜けたあたりで元気に笑って言うノマル。
伝説の、などという割に、見た目は軽装で歳も少女と言う見た目。
こういっちゃなんだが、私から見て威厳というものが見えない。
あと、服もゴシック調なのかアンティークメイド調なのか、旅で絶対着ないだろという服なのは気になっちゃあいた。
「…鍵の中の小さき心、見つけてシルシル…私の望み…」
呟くようにノマルが言うと、少し輝いたようにあたりが見えた後に、すっと暗くなった。
…しまった、門から出たなら建物、どんな姿してるか見たかったな。
「ここどこ?」
「何か息苦しいというか、土のにおいがすごく…」
「ほらこれだ」
完全な暗闇だが、自分だから自分が動いたのは一応わかる。
上に向けて銃を構え、何の前触れもなく発射。
肌がちょっとしびれたような感覚がするが、上を見ると晴れた空が見える。
「今回は運がよかったねぇ、地下の水脈があったらまた100m単位で埋まってたんだろ」
「…また?」
「反物質化重力崩壊プラズマ弾単発で上が見えなかったから、本当に地下の奥の奥行かされたことがあったのは忘れん」
「恨まれるようなことですかねぇ、まったく」
「人だったら死んでるんだよ」
言ってる意味はわからない。
まぁ、こういうのが原因か、積み重なった関係が今ということ、なのだろう。
「でもいいじゃないの、ついたんだよ?」
「そもそも場所の特定はしてねえよ」
「お話は、とりあえず上にあがってからにいたしましょう」
ディータが、ひょいひょいと上に。
その足場のあたりを見て、なるほど、埋まってたんだと気が付く。
自分たち一行の周囲が結構広いスペースで空間だったのと暗いので、そういう発想がなかった。
ゲーム的な転移?
それで土に直に埋まらず、周囲の空気ごと移動した…とか、考えるといいのだろうか。
まぁいいや、夢だし。
順番に引っ張り上げ、私は最後。
「な? 我が言った通りじゃないか」
「この状況で言うことがそれかね…」
「ここの方を…悼むべきというのは、それも言う通りですが」
おそらくは、国境付近であるのは確かなのだろう。
現場、というのも、表現として正しい。
上にあがると、見る限りあるのは、焼け野原。
色々なにおいで、きっとむせ返るような焼けたにおいがまだ残っているに違いない。
いるのだ。
おそらく近くに。




