わたしはだあれ? ─異世界 そのいち─
猫だ。
目の前には、全身真っピンクの猫がいる。
寝ぼけたまま、いつか買ったぬいぐるみでも見ているのだろうか。
だが、頭の中では、私はそれが姫乃さんだとわかっていた。
納得したというか、理解したというか……確信はいているのだ。
なんでなんでしょうか。
「ヒメ、今回はちょっと急じゃない?」
「困りごとって、なかなかなくなりませんで…はい」
猫がそのまま喋ってる。
声は確かに姫乃さんなんだけど、それにしてはシャキシャキって具合に喋ってるし。
あと、私も呼び方、どうした。
「実は最近、防衛サポート用のメタワンが立て続けに壊される報告があって」
「それだけで呼ぶの、結構割に合わなくない?」
「1件だけなんですが、その目撃報告が、完全武装したオーガだって…言うんですよ」
「ありえんなぁ」
「しかし、それが正しくなくては…リノートの国境近くに集中しているのでそれは…」
「……侵略の恐れ…と…」
「大きく動けば警戒も不信も招きかねないですし、ここで安易に危機と発信すると相手が相手ですし、関係がいきなり悪化します…」
「だから少数で動いて確認したい、わけだ」
なんだろう、私、事情通だな。
理解していないのにわかってる感じでしゃべっているの、確かに私なんだけど私っぽくない。
「だからって好き放題に呼ぶ労力もリスクも、まるでないように呼ぶと、イシカもディータも怒るよ?」
「そこは権限というものがありますので!」
また、わからない用語がいくつも…。
イシカ? ディータ?
「ヒメ! お帰りであれば、真っ先に宣誓の間にお越し願うといったばかりではないですか!」
「ほらディータがおこった」
「…しかも、よりによって、うてる様をお呼びに…」
「悪かったね、それでも私が自由に来れるわけじゃないことは記憶しといてよねディータくん」
「理解はしているのです」
いかにもファンタジー、といった姿なのだが猫耳のアクセサリを頭につけているのがちょっと笑わせにきている。
余分なものを取り除けば、男性アイドルという感じの優男に見えるんだけどな…。
「先にバレたなら仕方ないわ、参りましょうか、うてる様」
「私も、とうとうヒメにまで様付けされるようになったのか」
まったくだ。
そして言うと同時に、猫がくるりと回って、姫乃さんになる。
「…それと服はちゃんと着て」
「もうもう、照れちゃって」
本当に全く性格違うなぁ、姫乃さん。
いつものことなのだろう、ディータが持っていた布を渡して、ぱっと軽く身にまとう。
そのまま、準備をする場所に向かうのだと思うが。
3人まとまって歩いていると、その道が結構長くて、大きいお屋敷っぽい雰囲気が見えてくる。
…いや、城か?
だが、それより私にとっては目を引くものが。
の う
も て
の る
途中にある絵、像、ツボ。
いろんなものに、そう書いた紙が、ぺたぺた貼っているのが、なんか目立つ。
どう見ても自分の字に違いないので、とても気になる。
なんだよあれ。
ついでにもうひとつ。
数か所、鏡があるところを通り過ぎたが、そこで見る私。
どうも、10歳いくかどうかの姿。
なるほど、これは間違いなく夢だな。
自分の行動を自分で自由にできていないのも含め、主観視点で眺めるタイプの夢だろう。
その割に記憶にないものがたくさん出るが。
「げっ……うてる…様…」
「なんだあイシカ、お前の頭にも貼るぞ、あれ」
「やっても態度も性格も変わったりしませんから!」
あの、私の字のやつのこと言ってるな?
広間にもう1人、今度は女性の姿が現れたと思ったら悪態をつかれる。
「そもそも、お前らがヒメに、リノートともアノーとも穏便な折衝できないと思われているから、私を呼んでんだって自覚を持て!」
「…ぐ…そういう言われたくないところだけは的確に毎度…」
「どんな相手でも、敵にまわしたら必ず、勝ちは羽輝のものって言ってんでしょ?」
「悔しいからそこはノーコメントで!」
私の態度が、私が辟易するくらい上から過ぎる。
弱みを握っているのかもしれないが、もうちょっと相手を乗らせて、やんわり操るくらいにしてくれないか。
「…で、簡潔にするために私から言うと、内密の調査でヒメ自身が出たがって、私がお供って予定になってるけどご意見は?」
「却下です!」
「させるわけないでしょう!」
「反対2票、さてどうしますかねヒメ」
すごいな、私が話を回して、すっごい空気が悪いけど、コスプレ組ふたりともしっかり付き合ってる。
「もちろん、2人の意見は尊重します」
割と毅然と、姫乃さんもはっきりものを言う。
「うてる様とふたりっきりなのが心配だから、両方自分も連れて行けって、そういうことよね?」
「「は!?」」
コスプレふたり組は、そもそもここに居たまま指示役にしたかったのだろうと思うよ?
外から見てる私でもわかる空気じゃ…いや…。
「あなたたちの意見を聞くからには、私の絶対変えない意見も聞いてもらいます」
「ヒメ、ですからね…」
「じゃああなたたちだけでメタワン再起動してきたら? できたらわたし、そのまま帰るから」
「相変わらず無茶な話を振りすぎです…」
どうにも、今のところ聞くだけだと、メタワンというものの扱いが問題らしい。
姫乃さんにしか使えないモノっぽくて、時間をかけるより姫乃さんが直に行くことが最善だと、姫乃さんは確信してごり押ししているのではないだろうか。
そこに、ほかのふたりは、危険に晒さない配慮を強く言いすぎている、と。
観客の羽輝から見ると、そういう予測ですが、いかがか。
「メタワンの処理だけは困りものかもしれませんが、それを後処理に回せるのなら…むしろうてる様だけで済む話ではないですか」
「ひどいこと言うなぁ…こっちに来てると見たら、嫌がった末に使い走りさせて、あわよくば処分とか考えてんだ、イシカ」
「そこまで言ってません!」
「イシカ…」
姫乃さんも、そこに絶対わかっていて乗っかった。
「考えてませんヒメ! そっちが! そっち側だけが国のことを考えていないんですよヒメ!」
「いーしーかー…」
「わかりました! イシカもいきます! それでいいのでしょ!」
「いいのです!」
あれだけで折れるなら、言い合いだけで実はそこそこ仲はいいな?
こいつら。
「なら僕も行くことに決まりそうですね…しかし」
ディータも続いて口を開くが。
「出たとして、うてる様が求めるような報酬もうありませんよ、どうなされるのですヒメ」
「いや、もう決まってるしでしょ」
答える私。
何する気だ私。
言うなり、ポケットから紙を取り出し、壁に貼る。
「「ああ、やっぱり…とうとう」」
「は~い建物これうてるのもの~」
「これで本当に何も残ってませんねえ」
あの紙だ。
どうやら、呼び出してその代償というのか、必要な報酬というのか、それを宣言して、いただくための紙だったらしい。
…その割には、馬鹿みたいにあらゆるところに貼ってなかったかな。
そんなに私頼みになってるくらい、この夢の私は頻繁に呼ばれてるのか?
そんで成功して、あらゆるものにこの紙を貼って?
…大丈夫かな、現実味にかけるこの国は。
「大丈夫だよ、私が死んだらこの紙全部無効なんだから貰わせとけって言ってるじゃない」
「…ありえない話で希望がありそうな仮定を作らないでください」
希望っつったかお前。
イシカ。
「そろそろ、私も入れ墨でその文字付けたほうがいいでしょうかね、うてる様」
「「「やめて」」」
姫乃さんがジョークにしては過激なことを。
本当にどうなっているのか、この世界というか、この夢。
話の流れから察すると、私は以前あの「うてるのもの」の紙を姫乃さんに貼ったのか?
それで、特に拒絶されてないのか?
私さ…もうちょっと自重しよう?




