Part2 20.現れた遺児
王宮にてようやく会議が行われたのは、三日後の夕刻になってからのことだった。
長テーブルの上座に座るべき者はすでに亡く、そこには王妃のマルガレータが着席し、次席には魔天公爵のパルマンと祖父の元公爵である大上公、そしていくつかの空席を混じえつつ、宰相、大臣、大法官ほか要職に就いている白・黒両魔族の有力貴族たちが、厳粛な面持ちで顔を合わせた。
「王太子殿下はまだ興奮なされておいでですので、席を外していただきました」
中央議会議長である、黒魔族のラングトン侯爵が説明する。
「どうあっても、自らご出陣なさりたいとの仰せで」
「……そうはいくまい。この上、王太子殿下にまで万一のことがあったなら、王家はどうなる!」
「しかし、それでは一体どなたが援軍に」
「ドルアーグ様とレ=オン様、両陛下がお斃れになったのだぞ!? そんな相手に挑める者が――」
冷静に、とは思いつつも、あまりの事態にやはり誰もが動転している。
「ここでダリウスを出陣させるわけには参りません。公爵閣下にも大上公閣下にも、ご身分ある方には自粛をお願い致します。
これ以上の犠牲は、国中に混乱と王室に対する不信を招くでしょう」
マルガレータは、穏やかに意見を述べる。
「いかにも。民を動揺させてはならぬ」
大上公のガルマも、深く頷く。長年付き合ってきた旧友のドルアーグを思い掛けず失い、若々しかったその容貌は一気に老け込んで、顔色も青白く見えた。
「しかし、主だった者はほとんど、すでに王宮を出ているのですぞ!?」
「このままこの王宮にて籠城し、敵の進軍を待つしかないと言われるのか!」
「せめて、エヴァン様がご存命であれば……」
前公爵のエヴァンはもう五十年以上も昔、病で逝去していた。最愛のウィストリアを出産時に子とともに亡くし、悲嘆に暮れて譲爵した挙げ句の突然の死だった。
「……過ぎたことを思い返したところで詮ない。今は人間ともに対抗する手段を、早急に考じなければ」
パルマンは目を伏せて言った。
「その力ももはや、なきに等しいではありませんか!!」
白魔族の貴族はそう叫んだあと、はっとして、マルガレータのほうを見た。
「あ……いや、王太子殿下はおられますが」
「――よろしいのです。確かにダリウスでは、レ=オン陛下を倒した敵の相手とはならないでしょう」
王妃の返答に、皆しんと静まり返る。
(本来ダリウスでは、この戦乱の世に魔天王として国を治めることとて難儀。レ=オン様が後見としていてくださればこその、王だったでしょうに……)
マルガレータは心の中で嘆息する。
「ここに籠城して、どうなるものでもございますまい」
グレイド伯の言葉が、その場の空気をなおさら重苦しいものにした。
「かくなる上はやはり皆、戦地へ……」
「何を言われる、モルティン侯!」
「しかし、どうすれば……どうすればよいのだ!
なぜ、人間の国主どもは動かぬ! 我らが魔天王国を……最も栄誉ある王室を、妄想狂に破滅させる気なのか!?」
侯爵が憤激に堪えられず怒声を上げた時、閉め切られていた扉が勢いよく開いた。
「――申し上げます! ただ今コロシアドの……クイゼムにて異変が!」
黒魔族の兵が息を切らせて、部屋に駆け込んできた。
「何事だ! まさか……」
パルマンが不吉な予感に表情を歪ませると、兵士は転げるように跪いて、ひと息に言った。
「魔族の兵二百ばかりが、エスター卿の城を奪還したとのことでございます!」
「なんだと!?」
「ガーナに撤退した兵が、奪還に成功したのか!」
諸侯たちは立ち上がってざわめく。
「いえ、それが官軍ではなく……」
兵士は顔を伏せ、口籠もる。
「なんだというのだ、はっきり申せ!」
ラングトン侯爵が叱責すると、兵士は困惑した表情で顔を上げた。
「二百の兵を率いる者は黒魔族の男。――亡き陛下の……レ=オン様の遺児と名乗る者にございます……!」
「――何!?」
公爵と大上公が同時に叫び、その場の全員が凍りついたように声を失った。




