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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 3 FORTUNE - 第3章 二人の王
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Part2 19.愛の終わり

王宮に戻ってきた伝令は憤懣と哀惜に震え、涙を堪えながらその報を伝えた。

広間に集う人々は、白・黒両魔族の貴族、魔天公爵、王妃、王太子に近衛兵。皆、愕然となった。


「無念に、ございます……!!」


「――残る者は?」


魔天公爵――すでに代替わりしているエヴァンの息子パルマンは、父に似た端正な顔立ちを沈痛な思いに曇らせ、伝令に尋ねた。


「ガーナの王城まで撤退致しました。陛下のお力により全滅を免れた兵は、約三千名にございます……」


誰もが恐れつつ、涙を流していた。ある者は慟哭し、ある者はすすり泣く。


「陛下が、最期に……」


「なんということか、ドルアーグ上王陛下までも!!」


公爵の傍らに立っていたダリウスが、ぽつりと呟いた。


「私が、征く」


両の瞳から溢れ出る涙を拭おうともせず、声を震わせる。


「父上の仇は、私が()る!!」


「――王太子殿下!」


ダリウスは何かに取り憑かれたように、無言で広間を出ていこうとした。


「殿下、お鎮まりください!」


侍従たちが慌てて駆け寄り、必死に押し留める。


「ええい、離せ! 離さぬか、無礼者!」


ダリウスは侍従を振りほどこうと、手を振り回し叫ぶ。


「なりませぬ、殿下!」


「殿下!!」


「離せーーーっ!」


「おやめなさい、ダリウス!」


諸侯の中から突然、マルガレータの厳しい声が制した。


「王太子殿下がそのように取り乱すなど、お見苦しい……落ち着きなさい」


涙も見せずに諌める母を、ダリウスは呆然と見た。


「母上……」


マルガレータは硬い表情で、伝令に向き直る。


「――大儀でした。お下がりなさい」


「は……ははっ!」


伝令は一礼して、退出した。


「今すぐ、動くわけには参りません。今後のことは皆が冷静になってから、大臣や議会の方々で話し合いを。

そのうちに、詳細を携えた伝令がまた戻るでしょう」


マルガレータは厳格に、諭すような口調で言う。


「会議にはわたくしも出席致します。……ダリウス」


と、息子のほうに目を向ける。


「軽率な行動はなさらぬように。レ=オン陛下亡き今、ご自分がどのような立場にあるか――おわかりですね」


王妃の威厳ある態度に、一同は圧倒された。


「わたくしは、しばらく失礼致します。ご用意ができましたら、会議室へ皆様お集まりください」


そう告げて、マルガレータは広間を立ち去った。残された者はしばしの間唖然としていたが、やがて感心とも疑念ともつかない声で、誰彼ともなく口を開き出した。


「……なんと、気丈な方であられる」


「ご夫君の突然の訃報に際しても、あのような……」


「いやしかし、王妃様のおっしゃる通りだ。ここは冷静に、慎重に対処せねば」


口々に、諸侯たちは話し合う。

ダリウスは無言で立ち尽くし、母の去った扉を見つめていた。


――


「皆、下がりなさい。少し一人で休みます」


「はい、王妃様」


私室に戻ったマルガレータは、まだ何も知らない女官たちを追い出して、扉を閉めた。そのまま扉に寄り掛かり、どうにか立っていた。


(いつもと変わりがあるわけではない)


夫と、出立前に交わした会話が頭の中に反響する。


(お前らしくないな、マルガレータ)


最後になった、口付け。


「レ=オン様……!」


蒼い瞳に涙が溢れ、幾筋も頬を伝わり流れ出す。


(お前らしくない)


マルガレータは震える自分の両腕を、必死に掴んだ。胸が張り裂けそうなほど激しい想いが、体中を駆け巡る。


――なぜ、あの時言えなかったのだろう。


これが自分の、本来の姿だと。

妃の誇りも、名誉もいらない、ただ愛する人さえ側にいてくれればいい、愚かな女に過ぎないのだ、と。


……愛しているとさえ、ただの一度も。

ずっと隣にいた、世にも許された夫婦でありながら、たった一言の真実すら口に出せぬまま、終わってしまった。


「愛して……います。レ=オン様……」


今さら、届ける(すべ)のない言葉。


「誰より……も……」


崩れるように座り込み、今はただ悔恨と哀しみに、哭き続けるほかはなかった。

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