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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 3 FORTUNE - 第3章 二人の王
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Part2 18.父の報せ

王の指揮する軍が「救世軍」と対峙したのは、半月後のことだった。


「征くぞーーーっ!」


「侵略者を掃討せよーーーっ!!」


魔族は未だすべての兵が到着したわけではなく、その数二万足らずであったが、「救世軍」はそれ以上に主力を欠き、総数四千名といった程度だった。元から剣士が大勢を占める人間の、数まで劣っては劣勢は明らかだった。


「氷陣一閃!!」


魔族の後方からはレ=オンが術者と同調して強力な呪文を放ち、荒れ狂う吹雪が人間だけを凍りつかせていく。

それでも「救世軍」は怯まず、一人として逃走する者もなかった。


「なんという……殉教のつもりか?」


ドルアーグはその姿に、恐怖さえ覚えた。


「――『救世主』はどこだ。それらしき者の姿も見えぬ」


レ=オンは冷静に、敵軍の動向を探ろうとした。


(撤退せぬということは、この戦場に『救世主』が現れると信じているからに相違ない。一体どこに……)


その時、遥か遠方に微かな「気」の乱れが生じたのを、レ=オンは確かに感じた。


「――あれか!」


「レ=オン!?」


「父上、あとを頼みます!」


レ=オンはその「気」の中心を捕捉すると、すぐさま転位した。

戦場から遠く離れた崖の上、思ったよりも若い男が、一人で立っていた。


「ほう……気づいたか」


男は余裕の笑みで、転位してきたレ=オンを振り返った。


「さすがは魔天王……と言いたいところだが、たった一人で私に挑む気か?」


「貴様を倒せば、残る人間など恐るるに足らぬ。神に名を借りた蹂躪の輩、この魔天王ルーク・エリス・レ=オンが、その馬脚を白日の下に晒してくれる!」


レ=オンの闘気に、男はまるで動じない。


「愚かな……よかろう、王の首、第一の神への供物としよう!」


二人の周囲を、風が取り巻きだした。大地が静かに、唸り声を上げ始める。


「我が前に光は満ちぬ 闇は還らん」


レ=オンが詠唱を始めると同時に、「救世主」も呪文を唱え始めた。


「地の蟲の声 天に届け 光帝の哭く 愚かなる闇に……」


「我が身昇華し 炎となれ――」


レ=オンの身体が、光を帯び始めた。


「目醒めよゲリアの怒り 混沌に我らを誘え……」


「救世主」のほうは見た目に変化はなく、まだ呪文が続いている。


光身召喚レ・サモライ!!」


レ=オンが白い炎の化身となり、敵に向かって翔んだ。

と、ぶつかる直前で「救世主」の姿が消えた。


「――何!?」


「浄石ここに堕つ 核撃踏破弾アンク・ヒューティリア!!」


遥か遠くで争う軍勢の中で、凄まじい「気」が放出された。


「……なっ!?」


レ=オンは光身のまま、戦場に飛来した。

辺り一面、次々に魔力の誘爆が起こり、閃光とともに魔族・人間問わず兵士の体が吹き飛ばされていく。その中に、乳兄弟と父の姿が見えた。


「スエロ……父上――!!」


一瞬にして、二人は塵となって爆発の中に消えていった。

前方の、軍勢から少し離れた上空に、「救世主」の体が浮かんでいた。


「貴……様――!!」


封印(セル・シン)!!」


「救世主」の眼が光り、向かっていこうとしたレ=オンの体が、何かに掴まれたように空中で止まった。


同時に戦場の四方で、巨人の身の丈を越えるほどの柱が大地の底から立ち上った。古語の呪文をびっしりと刻み込まれた白い石造りの四角柱には、それぞれ拳ほどの水晶が、一面に一つずつ埋め込まれている。

古語を解さずともひと目でわかる、結界を作るための巨大な媒体だった。


戦場全体を、見えない結界が包み込んだ。その中でレ=オンを包む光の炎が、一層激しく燃え上がる。


「『光身召喚』中の身で魔力の誘爆陣に入るなど、自殺行為……自ら持つ力に、その命絶たれるぞ」


「救世主」が、甲高い声で笑う。


「さらばだ、魔天王!!」


「ぐっ……」


レ=オンの身を包んでいた鎧や衣が、炎の中に焼失していく。


「さ……せるものか……!」


(この命と、引き換えにしても――)


瞬間、戦場を覆っていた結界が、発光して見えた。


「何!?」


「救世主」が驚いた刹那、レ=オンは叫んだ。


「……解除せよ(カ・セル)!!」


柱の水晶が粉々に弾け飛び、戦場内の爆発が止まった。


「魔天王陛下!!」


「レ=オン陛下っ……!!」


兵士たちの頭上で、レ=オンの姿が眩いほどの光体となった。


(――レ=オン様……)


(……カミーユ!?)


その光の中から小さな「何か」が上空高く打ち上げられ、消えた。


――


本を読んでいたガルシアは、突然顔を上げた。


「ガルシア?」


傍らに座っていたラルフが、怪訝そうに声を掛ける。


「……今……」


「なんだ?」


「“あれ”か!」


言うや否や、ガルシアは部屋を飛び出した。


「ガルシア!?」


ラルフが驚いてそのあとを追うと、ガルシアは一直線に、邸内の一番奥の倉庫に向かっていった。


勢いよく扉を開け、ガルシアは部屋の奥の台座を見た。

母の形見が捧げ置かれている台上の、そのチョーカーの横に、小さい何かが光っている。


ガルシアはゆっくりと歩み寄り、その光る物を手に取った。

小さな雫ほどの、丸い金のピアスである。


「……ガルシア?」


ラルフもやってきて、呆然としている友の手の中を見た。


「それは……」


「――来たぞ」


ガルシアは、口元に凍るような笑みを浮かべた。


「遂に来た……」


ピアスをじっと見つめる、金の眼が光る。


「我らが……王宮に“還る”刻が!!」

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