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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 3 FORTUNE - 第3章 二人の王
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Part2 17.王の出陣

「ディヴァイン・ドラゴン、ですか!?」


「……そうだ」


ダリウスの悲鳴にも似た叫びに、その前に座るレ=オンは落ち着いた声で答えた。薄暗い執務室の中には、二人のほかに誰もいない。


「南部の、すでに二つの城が落ちた。援軍も奪回どころか壊滅状態だ」


「そ……それは、一体」


ダリウスは恐れわななき、二人の間の卓台に両手を撞いて、体をぶるぶると震わせた。


「“本物”なのですか……!?」


「わからぬ。ただ、『救世主』と名乗る男の魔力は、相当のものらしい。魔族のウィザードをも凌駕する」


レ=オンは眉根を寄せ、厳粛な面持ちで宙を睨む。ダリウスは拳を握りしめて、必死に叫んだ。


「『救世主』がなぜ、我ら魔族の地を強奪しようとするのです! 神の裁きならば、戦乱を起こしてばかりの人間どもの上にこそあれ――騙りに決まっています!」


「かもしれぬ。いずれにせよ、強敵だが――」


レ=オンは立ち上がり、背を向けて静かに言った。


「魔族の威信に懸けて、倒さねばなるまい」


「私を、お遣わしください!」


ダリウスは跪いて懇願した。


「神の名を騙る不埒者など、このダリウスが成敗してご覧に入れます!」


「逸るな、ダリウス」


「しかし……」


レ=オンは息子を振り返って言った。


「私が出る」


「父上……!」


「魔天王の名において、侵略者を許しはせぬ」


その顔は、誇り高い王のものである。


「ならば、私もお供を」


「ならぬ。そなたは王太子だ。世継ぎの身で、子もないままに万一のことがあらばどうする」


レ=オンの表情が、ふっと和らいだ。


「王宮を護るが、そなたの使命だ。母上と弟妹(きょうだい)を、私に代わってお護りせよ」


「……父上」


「頼むぞ、ダリウス」


子を思いやる父の姿が、そこにあった。


――


議会で決議がなされた夜、レ=オンは妃の部屋を訪れた。


「では、ご出陣なさるのですか」


「ああ。父上もともにな」


やはり表情を硬くしたマルガレータに、レ=オンは穏やかな声で言った。


「諸国の平定以外の戦は初めてのことだが、いつもと変わりがあるわけではない。そう心配致すな」


レ=オンの在位中、これまで他種族との衝突に王が出向いたことはなかった。


「……ですが」


今度の敵のことは、マルガレータも伝え聞いていた。「救世主」と名乗るウィザードの、傑出した魔力のことを。


「お前らしくないな、マルガレータ」


レ=オンは妃を気遣い、優しく抱き寄せた。


「王宮の警護はダリウスに任せた。お前は王妃として、城を取り仕切れ。私が戻るまで、だ」


「――レ=オン様」


滅多に見せぬ不安の表情を隠し切れないでいるマルガレータは、俯いて呟いた。


「ご武運を、お祈り致しております」


レ=オンは微笑んで、静かに唇を重ねた。


――


三日後、王と上王は王宮から出陣した。敵は二万以上の大軍、対して彼らの率いる兵も戦地に集結する時には、さらに上回る数となる予定である。


「コロシアドに向けて、出発ーーーっ!」


王都に鐘が鳴り響く中、王旗を翻し三千の兵が騎乗して行軍を始めた。王妃と王太子は城の門前から、諸侯とともにじっとそれを見守っていた。


「魔天王に勝利の栄光を!」


「レ=オン陛下、ドルアーグ上王陛下、万歳!!」


軍の中頃を行くレ=オンは、一度だけ妻子を振り返った。戦装束に身を包み、険しい表情をしていながら、その瞳だけは暖かな色を宿していた。


ふと胸によぎる、愛しい姿。

死んだ女と、生きている妻と。


(生きて戻る。お前のために……マルガレータ……)

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