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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 3 FORTUNE - 第3章 二人の王
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Part2 8.初めての「支配」

ガルシアとラルフが三十六歳、人間にして十二歳ほどの年齢になったころ、二人は同時にウィザードの呪文をすべて修得した。

その魔力は互角だったが、ガルシアはどちらかと言えば炎撃系の、ラルフは雷撃系の呪文を、それぞれ得意とした。

少年たちは逞しい剣士ともなり、その体躯は一見十六・七の若者に見えるほどだった。


そして、穏やかな春の日の午後のことである。

ラルフは一人、部屋で本を読んでいた。元々読書家のラルフは、ウィザードとなって禁呪の解読に入った今では、なおさら本の虫になっていた。


「失礼致します、ラルフ様」


フィアナという名の侍女が、ティーセットを乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた。セイレーンやエルマと仲のよい侍女である。


「ガルシア様は、どちらにおいでですか?」


「森だ」


禁呪を解読しては、実際に術を試して修得する。ガルシアやラルフの強力な魔力では、多少の距離があっても離れた街にいる者に気づかれる恐れがある。

二人が修行するには屋敷内だけでは狭すぎるため、今では近くの森にも魔力を覆い隠す結界を広げていた。


フィアナはカップに紅茶を注いで、ラルフに差し出した。


「少し、お休みになりませんか」


「……ああ」


本を閉じて、ラルフはふと窓の外に目を遣った。日差しが眩しいほどに照りつけて、部屋の中にいてさえその陽光の暖かさが窺える。


(この天気では、ガルシアも今ごろは……)


――


そのころガルシアは、湖の側で昼寝をしていた。ガルシアは時折こうして、森で休むのが好きだった。彼の知らぬ父が、かつてそうしていたように。


森の湖は小さかったが清冽で、木々に囲まれた周りは涼やかに風が渡り、誰にとっても気持ちのよい空間だった。

ガルシアが葉陰に身を隠して心地好い微睡みに浸っていると、微かな水音がその眠りを妨げた。


「……?」


人気(ひとけ)のない湖だけに、水鳥でもやってきたかと体を起こし、ガルシアは繁みの間からそっと湖面を覗いてみた。

すると湖で戯れていたのは鳥ではなく、見知った女。


……セイレーン。


一糸纏わぬ侍女の姿を、ガルシアは初めて見た。


――


セイレーンは自分に向けられた視線にまったく気がつかず、水浴びをしている。

汗を流し終わり、セイレーンは岸に上がった。立ち木の枝に掛けておいた、白い衣に手を伸ばす。


その時、細い腕を誰かが掴んだ。


「――きゃ!?」


引っ張られ、草の上に座り込んだセイレーンは驚いて、顔を上げる。

自分を見下ろす、逆光の影。暗いその顔をよく見ると、それは主人の一人だった。


「ガ……ガルシア様……!?」


次の瞬間、主人の腕に包まれた。


あとの声は風の中に溶けていく。

風はさわさわと、樹々を揺らしているばかりだった。


――


「……ガルシア様ー! どちらにおいでですかー!?」


エルマは森の中を見回しつつ、森の中をやってきた。


「ガルシア様ーっ!?」


ガサッ、という葉音がしてエルマが振り向くと、繁みの中から主人が現れた。


「ガルシア様! そんなところで何をなさってたんです?」


「少し昼寝をしていた。探したか?」


「いえ、森においでだとフィアナがラルフ様にお聞きしていましたから。

シェラ様からお呼びするようにと言われたんです。ガルシア様が探されていたご本が、手に入ったと」


話しながら、振り返りもせずに二人は去っていく。

その声がだんだんと遠くなるのを聞きながら、セイレーンが繁みの向こうに残されていることに、エルマは少しも気づかなかった。

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