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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 3 FORTUNE - 第3章 二人の王
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Part2 7.魔術の「力」

月日は矢のように過ぎていく。

生後十歳まではどの種族も同じ成長速度だが、以後は同じ人類といえど、種族により大きく変わる。

長い、永い少年時代を、ガルシアとラルフの二人はともに歩んでいった。


「ラルフ、出掛けるぞ」


自室で本を読んでいたラルフに、ガルシアが声を掛けた。


「……どこへ?」


「ちょっとした『修行』だ。一緒に来い」


「修行?」


ラルフがついていくと、ガルシアは屋敷を出て森に入り、どんどん奥へと歩いていった。


「ガルシア、どこまで……」


「この辺りでよかろう」


ガルシアはぴたりと立ち止まって、呟いた。


「フェン。出てこい」


ガルシアの前の空間が、不意に暗くなった。不自然なその闇の中に、ぼんやりとした人影が見える。


「――お側に」


男とも女とも見えない長身で、白魔族とは異なった白い髪、白い肌、色のない瞳。

禁呪の主、フェン。ラルフが目にしたのは、フェンがガルシアの「影」となって以来だった。


「戦地に行く。適当なところを案内致せ」


「御意」


「来い、ラルフ」


ラルフを振り返り、ガルシアは手を差し伸べた。

二人に近づいたラルフが手の届きそうなところに来ると、三人の周囲を闇が取り巻いた。闇に飲まれ、自分の体が影に溶けていくようで、ラルフは怯んで目を閉じた。


――転位とも飛翔とも違う、奇妙な空間を抜けていく感覚。天地左右はなくなり、体は平衡を失う。

嵐を駆け抜ける重力を感じたあと、ふと周囲が眩しくなった。


「ラルフ、目を開けろ」


ラルフがガルシアの声に応じて目を開けたそこは、雲の上の空だった。自分の魔力で飛翔しているわけではなく、ただ浮遊している。ガルシアはすぐ側にいたが、フェンの姿は見えない。


「降りるぞ」


ガルシアがそう言うと、光の速さで二人は急降下していった。


「見ろ」


「……っ!」


雲を抜けて降りた場所は、戦場だった。空中に止まったまま、ラルフは下に広がる戦闘に目を奪われた。

人間とダークエルフとが、お互い入り乱れて剣を交えている。双方千人もいないだろう小規模な、しかし本物の戦いだった。


「ここは……フェンはどこに?」


「――あれだな」


ガルシアは少し離れた下の、一人のダークエルフを指差した。長い黒髪を束ねて剣を振るっているその顔立ちは、確かについさっきフェンと同じ顔である。しかし戦闘服で戦うその姿は、明らかにダークエルフのものだった。


「どちらが優勢だ?」


混乱しているラルフに、ガルシアが問いかけた。


「人間とダークエルフと、どちらがより有利に戦いを進めている?」


エルフ側には弓を射掛けている者もあったが、剣士ばかりの戦場では、体力的に劣るエルフに分の悪いことは明らかだった。


「人間が……攻勢に見えるが」


「ふむ。確かにな」


ガルシアは含み笑いをしながら言った。


「まあ見ていろ」


さほど高くはない空中にいながら、戦っている兵は一人として、二人に気づく気配がない。気がつかないというよりも、見えていないようである。


一対一の、日頃教え込まれている剣技とはまったく異質の、蟻のような人々の群れ。実際の戦場を目の当たりにし、ラルフは息を飲んで食い入るように兵士たちを見つめた。

やがて、人間の中でも一際巨体の男が、ダークエルフの指揮官らしい男に接近してきた。

振り上げられた剣が、そのエルフの首を刎ねようとした瞬間、光が人間の胸を貫いた。


「……光弾(レ・ブン)?」


ラルフは思わず声を漏らした。光弾を放ったのは、フェンの顔をしたエルフの男だった。

男は続け様に光球を放つ。それは宙高く舞い上がり、瞬時にわかれて数十、数百の人間の上に、正確に降り注いだ。


一瞬にして、三分の一ほどの人間が斃れた。

人間たちは放心し、その隙にエルフたちが剣を振りかざした。叫び声が上がり、血が流れ、首が飛んでいく。


「あれが魔術の力だ。戦いにおいて、絶対の主導権を握り得る」


ガルシアは驚くほど冷静に言った。


「――戻るぞ」


その言葉を合図に、二人はまた天高く昇った。


「今の戦闘がどれほど重要なものか知らぬが……人間ならば、ただ一戦の敗北にて諦観することもあるまい」


「ただ一戦?」


「あの魔術師は間もなく命を落とす」


「……何?」


「フェンの『同化』は、『相手』が死なねば解けぬのだ」


「同化……禁呪か」


「そういうことだ」


程なくして、来た時の感覚が襲ってきた。体が崩れ、世界は闇色に揺れる。

――気づくと、見慣れた森の中に戻っていた。二人のかたわらには、白い姿に戻ったフェンが立っている。


「また頼むぞ、フェン」


「……御意。ではこれにて」


現れた時同様、影の中にその姿は消えた。


――


少年の日々は、こうして過ぎていった。剣を握り、呪文を覚え、書物に習い――時には、現実の戦いを「見学」して。

二人の天才はあらゆるものに精通し、精神と身体の成長も、並々ならず完成されていった。

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