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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 3 FORTUNE - 第3章 二人の王
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Part2 2.まだ見ぬ未来

人にしてみれば、そこまで作為された出逢いではなかった。

しかしこの出逢いこそが、薄幸な二人の少年に、やがて歴史における大任を担わせることになる。

――その一番最初の、布石となったのである。


「ラルフ様のお力は、ガルシア様にほぼ匹敵なさいます。まさかあれほどの魔力を持つお方が世に二人もおられようとは、このピエトロ、夢にも思いませんでした」


「ご性情は、控えめでいらっしゃるようだけれど」


感嘆して語る魔導士に対し、シェラは相変わらずの無表情である。


「はい、おそらくはこれまでのご不幸によるものかと……

しかし、生来のご気性でもあるのでしょう。わたくしどもは皆、お二人ともご主人の心づもりでおりますが、ラルフ様にはどこか、ガルシア様に譲られるところがおありのようです」


「……結構だこと。親しきご学友といえど、未来の魔天王には臣下となられるのだから」


(今からともにあれば、ご成長の暁にはこれ以上頼みとなる相手はいない……)


シェラは魔導士に向き直ると、静かに言った。


「よろしいですね、ピエトロ殿。

昔、公爵家に仕えておいでだったあなたをここへお迎えしたのは、すべてあの方の王たる資質を磨くため。よく心得て、ご指導くださいますように」


「ははっ。お二人とも、必ずや当代一のウィザードとなられましょう」


「頼みましたよ」


ピエトロは礼をして、シェラの部屋を出ていった。シェラはふと、窓の外を見る。


(――魔術に限らず、いずれ剣技も学問も。音に聞こえた者を揃えて、ご教育申し上げる)


窓の向こうで、子犬のようにじゃれて遊ぶ、二人の姿が見える。


(レ=オン様に生き写しのガルシア様。きっとこのわたくしが、王位へお導き致します……)


王宮から遥か遠い僻遠の裾野で、一人の老いた女の決心が、大いなる運命の歯車を動かしつつあった。


――


少年たちの生活は単調ではあったが、平穏で幸福な毎日だった。

どこからか招かれてやってくる、さまざまな種族の大人たちが、二人にありとあらゆる知識と技を授けていく。


普段屋敷に仕える者はほとんど女ばかりで、シェラを除く侍女は白魔族の、若く美しい娘たちだった。彼女たちは主人の力を恐れることはまったくなく、ラルフは今までに与えられたことのない充足感を感じ、時には優しい腕に抱かれて眠った。

下働きの者から侍女、教育係まで、自分を恐れる者も敬わない者もいない。


誰より、唯一の「友」がラルフの心の支えとなっていた。


ラルフとガルシアとでは、魔力のほかはまったく正反対だった。絶望することばかりを覚えていたラルフに対して、ガルシアは欲するすべてをその手に得るまで、諦めることがない。


だがその事実が、ラルフにとって友をより重い存在にした。


ガルシアも同様だった。


初めて知った己と同等の存在は、ガルシアには自身の力以上に得がたい宝だったのである。見も知らぬ肉親を恋い慕うよりも、自分には自然の感情だった。

二人は互いを頼みとし、友として兄弟として家族として、年を重ねていった。



「これが、母上の形見だ」


ある日、ガルシアは屋敷の奥の一室で、ラルフに黄金のチョーカーを見せた。物置になっている部屋の奥にしまわれていた物で、薄暗い室内をほのかに照らす。


「父上が、これに魔力で通じる物をお持ちらしい。詳しくは知らぬ」


「……母君は、白魔族だったのだろう? 私の父上と血縁の」


「そうだ。私の肌色は、母上から受け継いだらしい」


手に持ったチョーカーを見つめているその顔は、確かにラルフが知る黒魔族とは、異質の白さだった。


「顔立ちは父上そっくりだと、皆言うがな」


「どんな方だ?」


「知らぬ。会ったこともない」


ラルフは友の横顔を凝視した。まるで翳りのない表情である。


「母上も知らぬ。生まれてひと月で離されて、三年後には亡くなられた」


「……寂しくないのか?」


「別に。肖像画を見るに美しい方だとは思うが、私は憶えておらぬしな。死んでしまわれたのでは、どうしようもない」


ガルシアはラルフに視線を移した。


「お前は母君に会いたいのか?」


「――どうせ会えぬ。それに、父上も母上も私がお嫌いなのだ」


ラルフは目線を床に落とした。ガルシアはじっと友を見る。


「……会えるかもしれぬぞ」


「え?」


「私はいつか、王宮に還る。相手が公爵ならば、きっと会える」


ラルフは驚き、友を見返した。


いつか、王宮に還る。

定められているかのごとく当然といった顔つきで、ガルシアは笑って言うのだ。


「その時には、お前も一緒だ」


ガルシアはチョーカーを布にくるみ、元の引き出しにしまう。


「部屋に戻るぞ。そろそろ、シェラが呼びに参る」


そう言って、物置部屋を出ていく。

ラルフはまだ驚きの目をしたまま、ガルシアのあとをついていった。


いつか、王宮へ。


友の言葉は、まだ見ぬ未来に真実として通じているような気がした。

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