表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 3 FORTUNE - 第3章 二人の王
65/88

Part2 金の炎帝 1.邂逅

私は父を知らぬ。

私は母を知らぬ。

二人の愛を、私は知らぬ。


ただ、母は――私をひと目見て、涙したのだという……


――


「よろしいですか、ガルシア様。

ガルシア様のお父上は魔天王陛下、お母上は魔天公爵のお血筋の方です。

ガルシア様は、お二人の王の血をそのお体に受け継いでいらっしゃる、唯一人の方。誰より高貴な、王の血を持っておいでなのです」


幼いころから繰り返し、鋭い目をした中年の侍女長(シェラ)はガルシアに語った。


「いつか、王宮は真の王を――ガルシア様を、お迎えすることでしょう」


ガルシア・ル・ヴァーツ。それが、彼の最初の名である。

白魔族の血を引く王太子の庶子が、王族籍に入れられるわけもない。魔天王ドルアーグの手配により、辺境のヴァーツ伯爵の庶子として貴族籍に名が刻まれた。母親は、架空の平民となっている。


己の出自を物心つく前からシェラに知らされていたが、ガルシアは自身の境遇を哀しんだことはなかった。

父も母もいなかったが、自分のほかに子供が側にいないため、親の不在を当然のものと受け止めていたのである。


森に囲まれ、町からも遠く隔たった広い屋敷。シェラと、白魔族の侍女たちと侍従と、様々な教育係と。

たった二十人足らずのこの世界が、幼いガルシアのすべてであった。


王子として認知されていなくとも、不満はなかった。日々の暮らしに不足のあるわけでなし、何よりも、自分は一人で愉しむことができたからである。

師である白魔族の老魔導士は、驚嘆して言った。


「なんと、強大無比な魔力を有しておられますことか。レ=オン陛下をも凌ぐ術者となられることに、相違ありますまい」



そしてガルシアが四歳になっていたある春の日、邸内は何やら朝から騒がしく、皆取り込んでいる様子だった。

ガルシアは裏庭で、魔術の光球を作りだしては空高く飛ばし、いつものように遊んでいた。


浮光球(ラボレ)!」


小さな両の手の平から、その体とほぼ変わらぬ大きさの光球が生まれた。光球は一瞬輝いて黒いローブを照らし、次の瞬間には空を切り裂く速さで前方に飛んだ。


光球が庭を囲む茂みに当たる直前、光は霧散し、消滅した。


「……!?」


ガルシアが驚いていると、茂みの向こうから、見たことのない者が現れた。


自分と同じぐらいの背丈の、白い肌、白い髪、白い衣の少年。侍女たちと同じ、角を持たない白魔族だ。

空色の、もっと澄んだ瞳を見開き、ガルシアを見ている。


「――光弾(レ・ブン)!」


ガルシアが放った光の矢は、少年目掛けて宙を飛んだ。が、やはり少年に当たる直前で掻き消えた。


ガルシアと少年は、驚きの目でお互いを見つめ合った。


「……ふん……?」


ガルシアは、にやりと笑った。


――


「ガルシア様、ガルシア様ー!」


邸内では、侍女たちが小さな主人の姿を探し回っていた。


「中にはいらっしゃらないのかしら」


「裏へ回ってみましょう、エルマ」


二人の侍女が裏口から庭へ出たところで、ラルフを連れてきた侍女と鉢合わせになった。彼女も慌てている様子で、挨拶もそこそこに言った。


「ラルフ様も、おいでになりませんの。ちょっと目を離した隙に……」


「まあ、ラルフ様も?」


「ルイーゼ、あの茂みの向こう!」


一人の侍女が指差した方向に、光が瞬くのが見えた。三人は顔を見合わせて、光のほうへ向かった。


「ガルシア様!?」


「あら……」


「ラルフ様!」


そこでは、二人の少年が無邪気に笑っていた。交互に光球を作りだしては飛ばし、受け止めては消してまた作り、まるでキャッチボールをしているようである。


「ガルシア様」


「ルイーゼ!」


侍女に気づいて、ガルシアが振り返った。


「まあ、ラルフ様!」


侍女たちは一斉に、二人に駆け寄った。


「もう、お友達になられたのですね」


エルマが微笑むと、ガルシアはラルフの顔を改めて見る。


「お前、誰だ?」


「……はい? お名前も知らずに遊んでらしたのですか!?」


エルマが呆れ顔で言う。ルイーゼはガルシアの横にしゃがんで、


「魔天公爵様のご子息の、ラルフ様ですわ。今日からここで、お暮らしになります」


と、ラルフを見ながら紹介する。ラルフの後ろのセイレーンもそれに倣って、主人の肩に手を置いて言った。


「ラルフ様、ガルシア様です。このお屋敷のご主人様ですわ」


「今日からはお二人とも、ここのご主人様……お二人は同じ公爵様のお血筋ですから、ご親戚に当たられますわね。仲良くなさいませ」


ルイーゼがそう言うと、ガルシアはまた笑った。


「よし、来いラルフ!」


そう言うが早いか、ガルシアは空に飛び上がった。


「……っ!」


ラルフも続いて、ガルシアを追う。


「ガルシア様、ラルフ様!」


エルマが呼んでも、その声は二人には届かなかった。


「あらあら。お二人とも、すっかり仲良しね」


ルイーゼは空を見上げて、微笑する。


「あの大人しいラルフ様まで……道中、ひと言も口を利かずにいらしたのに」


セイレーンがなかば呆然となって、呟いた。

少年たちの笑い声は、晴れ渡った青空にいつまでも響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ