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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 2 LOVERS - 第2章 知られざる日々
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24.恋の終わりとすべての始まり

ひと月後、子供はカミーユと引き離され、シェラや数人の世話役とともにどこかへ連れていかれた。

どこで養育されることになったのか、カミーユもレ=オンも知ることは許されない。

レ=オンはカミーユの心を思うと、自責の念に捕らわれてならなかった。


「……レ=オン様」


男子出生を知らされていたマルガレータが、レ=オンを慰めるように哀切の目を向ける。すでに七ヶ月にもなるその胎内にも、一つの命が宿っていた。


レ=オンは優しく、妃の体を抱き寄せた。その腕の中で、マルガレータは遠く思いを馳せる。


(カミーユ様……わたくしをお恨みですか? レ=オン様のお側にいられても、あなた様がどれほど遠くにおられようとも……

お子様さえ引き離されたと聞いても――それでもなお、わたくしにもあなた様への妬み心があることを、ご存じでしょうか……)


レ=オンは何も言わず、マルガレータも自身の懊悩を誰に明かせるわけもなかった。


――


同じころ、代替わりした魔天公爵の屋敷で、一人の男子が生まれていた。

エヴァンの第五子、三男に当たる庶子である。


「名は、ラルフだ。そなたによく似ているな、ウィストリア」


エヴァンは愛おしげにその子と、休んでいる恋人を見た。


「エヴァン様……」


儚げな容姿の、か弱い娘だった。

側室の中で最も身分の低いこのウィストリアを、公爵は最も寵愛していた。当然、多くの親族・臣下にとっては好ましくない事実である。


「まったく、ご偏愛がすぎるというものだ」


「男子とはな。のちのち、(わざわ)いの種とならねばよいが……」


これもまた、祝福する者の少ない誕生だった。


――


そしてカミーユに遅れること三ヶ月、その年の暮れ、マルガレータが嫡男を産んだ。


「おめでとうございます、陛下!」


「未来の魔天王のご誕生だ、鐘を打ち鳴らせ!」


人々は第一王子の生誕を、心から祝った。


「陛下には初孫となられますな。ダリウス様はレ=オン様よりも、陛下の面差しを受け継いでおいでだ」


乳母に抱かれた王子の顔を覗き込みながら、駆けつけた諸侯らが祝辞を贈る。


「きっと、豪胆な王となられましょうぞ」


浮かれさざめく人々の中で、ドルアーグはレ=オンに呟いた。


「そなたの、これが第一子だ、レ=オン」


レ=オンは黙って、我が子を見つめていた。


王子はダリウスと名付けられた。

マルガレータは産後の肥立ちもよく、また、レ=オンが手厚くその身体を労った。

人の目には、この上ない夫婦仲だった。


翌年の春、ドルアーグは譲位した。

魔天王レ=オンの即位に伴い、嫡男のダリウス王子が、王太子の位に就いたのである――


――


三年の歳月がすぎた。


「姫様! まあ、外になどおいでになっては」


ウラカが主人の体を気遣い、声を掛ける。


「大丈夫よ、今日は気分がいいの」


カミーユは笑って答える。


王宮から、遠い南の地だった。

誰にも忘れられた町外れの僻遠の屋敷に、カミーユが静養のために移されて久しかった。


出産後、カミーユは病がちになり、床に伏せってばかりいた。体の衰弱も著しく、その笑顔も消え入りそうにか細く見えた。

王族は、黒魔族の中で最も血が濃い。同様に魔天公爵の血縁ゆえ白魔族の血が濃いカミーユにとって、王太子の子を出産したことは母体を弱らせる結果となっていた。


雨季の晴れ間、盛春が近づいている。

病人には酷な季節がようやく終わるところではあるが、夏の長い世界においては、春からの日差しも厳しい。ウラカの心配をよそに庭に出て風に吹かれながら、カミーユは遠い日のことを思い出していた。


(あれは夏の始め、こんな午後のことだった。陽だまりの中、あの方に躓いて……)


(無礼者!)


金の瞳で自分を睨んだ少年。


そしてまた、森で出会って。

小さな雷皇と、はしゃいで笑ったあの日々。そして、その友の死。


(泣くな……!)


慰めの言葉がわからず、代わりに必死に自分を抱きしめた腕。

やがて眩しい夏が終わり、秋とともに訪れた別れの夜。


(お前さえいれば……)


あの夜、少年も泣いていた。


(愛している、カミーユ)


永遠の別離。あの晩に、すべて終わるはずだった。


「姫様、お顔の色が悪うございます。そろそろ、中にお入りください」


与えられた、小さな命。子供は、その父を自らの顔に示していた。


(許せ……)


(……ありがとうございました)


恨む心などない、むしろ感謝していた。自分は、確かに幸福だったのだから。


「ガルシア……」


(あなたの父を、恨まないで。母を、憎まないで。

自分を憐れまないで――きっといつまでも、愛しているから……)


「姫様?」


白く華奢な体が、その場に倒れた。


「姫様!? お気を確かに、カミーユ姫様!!」


(きっと、いつも……レ=オン様……ガルシア――)



その日、レ=オンの恋は終わった。


(第2章完)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

第3章はPart分けがあり、Part1がラルフ編、Part2がガルシア編として彼らの幼少期から始まります。


引き続き、よろしくお願いいたします。

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