23.王子誕生
さらに月日が流れた。
マルガレータも式を挙げてから半年ごろ、懐妊が明らかになった。レ=オンはそれまで以上に妃を気遣い、その夫婦仲は人も羨むほどだった。
が、マルガレータは、レ=オンが自分にカミーユの影を重ねて見ていることを知っていた。
――
それからまた数ヶ月後、カミーユが産気づいた。
「姫様、しっかり!」
ウラカが枕元で、必死に声を掛ける。
「う、うぅ……っ!」
体が引き裂かれるような痛みの中、カミーユは祈っていた。
――どうか、女の子であって。
私に似ていて。
女子であれば、王位に関わることはない。
父が誰ともしれぬ容姿であれば、母子が引き離される懸念もないのだ。今のまま、この地で私生児として養育することができる。
「あ、あぁーっ!」
カミーユが一際大きな声で叫んだすぐあとに、産声が上がった。
元気な赤子の声が、邸内に響き渡る。
「……産湯を!」
「ご出産です、王宮にお知らせを!」
侍医や介護の侍女たちが、忙しく動き回る。
「――この、お子様は」
そこにいた医師も皆、生まれた子を見て驚愕していた。
「見せて……」
カミーユが弱々しく言う。シェラが産湯を使わせて、枕元に子供を抱いてきた。
「男御子にございます」
白い肌に、黒い髪。
小さな角を持って生まれたその子は、恐ろしいほどレ=オンに似通っていた。
「……あ」
カミーユの目に、涙が溢れた。期せずして、喜びの涙だった。
「レ=オン様……」
――
すぐさま、王宮に使者が飛んだ。
「お生まれになりました!」
執務室で、王は身を乗りだして聞いた。
「して……!?」
「男子ご出生にございます……!」
使者の言葉に、王は愕然となった。
「母子とも、健康でございます。お子様は一見黒魔族ですが、肌は白く、お顔立ちは……お父上に、そっくりかと」
使者は遠慮がちに報告した。
「……男!」
ドルアーグは頭を抱えて、下を向いた。レ=オンそっくりの、孫の誕生である。
傍らに立っていたスエロが、
「殿下にお知らせしてまいります」
そう言って退出した。
ドルアーグはしばらく、動けなかった。
(なんという皮肉だ……
本来ならばこの儂の……レ=オンのあとを継ぐ魔天王の孫として、国を挙げて祝われるべき第一王子の誕生が……)
――
「ご誕生です。カミーユ様は無事、男子をご出産なさいました」
――男。
スエロに聞いて、レ=オンは複雑な思いだった。
「……そうか」
「お子様は、レ=オン様によく似ておられるそうです」
カミーユの無事なことは、レ=オンにはピアスから感じ取れていた。
(私の、息子か……)
「――使者に伝言を」
遠くを見る目で、レ=オンは言った。
「カミーユに……許せ、と――」
――
その言葉を、子供を抱きながらカミーユは受け取った。
「レ=オン様に、お伝えください」
腕の中の、我が子を見つめて。
「ありがとうございましたと……」
カミーユの心は、穏やかだった。
生まれる前は、自分に似ていることを願った。混血とわからぬ容貌を望んだ。女の子であれば、王に取り上げられずに済むと――。
だが今、カミーユは喜びに包まれていた。
自分は確かに、愛する人の子を産んだのだと。
手元で育てることが叶わないとわかっていても、カミーユにはその子が愛しくてならなかった。
やがて開いたその瞳が、父と同じ金色であるのを見た時も、カミーユは嬉しそうに微笑んだ。
「ねえ、ウラカ。私は幸せよ」
「姫様……」
「私の、ガルシア……」
かつて、魔族を統一した初代魔天王の名前である。
名付けたのは、顔を見ることも叶わない父親だった。




