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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 2 LOVERS - 第2章 知られざる日々
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20.カミーユの決意

レ=オンを監禁すると、ドルアーグは急ぎ使者を呼び戻し、子爵邸に足を運んだ。

突然の王の来訪に、使者を送ったとはいえ子爵は仰天した。


「わざわざお越しくださいますとは、誠に恐れ入ります」


「うむ、いや、少々思いついたことがあってな」


ドルアーグは罪悪感に、言葉を濁す。


「ご説得くださいますか」


「……カミーユはどこに?」


子爵は哀愁の表情を隠さず、ため息をつきながら答える。


「自室に軟禁しております。どうにも、意固地に口を利きませんので」


その憔悴した様子に、王の胸は痛んだ。


――


部屋の前にいたウラカは、子爵とともにやってきた王の姿に絶句した。


「二人にしてくれるか」


「お願い致します」


王の言葉に、子爵は深々と頭を下げた。

ドルアーグが部屋に入ると、カミーユは窓辺に佇んでいた。


「――カミーユ」


その言葉に振り返った瞳は、王を見て色を変えた。


「魔天王陛下!?」


カミーユも、どこかやつれて見えた。

妊娠して四ヶ月足らずのその体は、まだ見た目には、ほとんど変貌していなかった。


「済まぬ!」


王は頭を下げて、心からカミーユに詫びた。


「我が息子の不始末をこのような……言葉もない!!」


ドルアーグは、レ=オンが一方的にカミーユに無体を働いたのだと、思い込んでいた。

王室の権威を慮って、カミーユが黙殺してくれているのだと。


「お顔をお上げください、陛下」


カミーユは控えめに、微笑んでいた。すべて、見通しているかのように。

そして、静かに決意の言葉を口にした。


「わたくしが育てます」


「カミ……」


ドルアーグはその時、カミーユの首のチョーカーに、見覚えがあることに気づいた。


「カミーユ、その首の……」


カミーユはチョーカーにそっと手を添え、目を伏せた。


「わたくしが唯一人、愛したお方の子です。――お許しくださいませ」


カミーユは、慇懃に頭を下げた。

それ以上、何も言おうとはしなかった。


――


(――カミーユ。無事でいるか?)


冷たい石造りの地下牢の中で、レ=オンはじっとカミーユのことを考えていた。


誰にも真実を語ることなく、独りで耐えているカミーユ。子爵はどれほど、彼女を責めたのだろう。

あの華奢な身体に、小さな命を宿して。


恋しくてならなかった。会いたくて堪らない。

髪の匂い、肌の感触、自分の腕の中で流した涙。


(すべて、昨日のことのように憶えている。

何より、今、側にいてやりたいのに――カミーユ!)


二人を隔てる距離はあまりに遠く、声は届くはずもなかった。


――


王は苦悶した。

まさか、相愛の仲とは思わなかったのだ。


黙って牢に籠もるレ=オンと、静かに頭を下げたカミーユの様子は、二人の想いが真実の愛であることを物語っていた。


(なんということか。不相応というわけでもない……)


魔天公爵の眷族ともなれば、王族にも匹敵する血統である。公爵は、白魔族の王なのだから。

そう、白魔族の。


平民ならば、異種族間の結婚は少なくない。むしろ今では、純血を守る村落のほうが少数と言える。


(だが、レ=オンは王になるのだ!)


王族の血を、穢すわけにはいかない。認知はおろか、落胤として誕生させることもできない。

ドルアーグの抱える数多くの側室たちも皆、例外なく黒魔族の女たちである。


かといって、カミーユもまた、公爵の血を引く者である。

魔天王と魔天公爵、二人の王の血を受けることとなる子を、堕胎させることなどできようか。


ドルアーグは王として、最大の決断を迫られていた。

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