20.カミーユの決意
レ=オンを監禁すると、ドルアーグは急ぎ使者を呼び戻し、子爵邸に足を運んだ。
突然の王の来訪に、使者を送ったとはいえ子爵は仰天した。
「わざわざお越しくださいますとは、誠に恐れ入ります」
「うむ、いや、少々思いついたことがあってな」
ドルアーグは罪悪感に、言葉を濁す。
「ご説得くださいますか」
「……カミーユはどこに?」
子爵は哀愁の表情を隠さず、ため息をつきながら答える。
「自室に軟禁しております。どうにも、意固地に口を利きませんので」
その憔悴した様子に、王の胸は痛んだ。
――
部屋の前にいたウラカは、子爵とともにやってきた王の姿に絶句した。
「二人にしてくれるか」
「お願い致します」
王の言葉に、子爵は深々と頭を下げた。
ドルアーグが部屋に入ると、カミーユは窓辺に佇んでいた。
「――カミーユ」
その言葉に振り返った瞳は、王を見て色を変えた。
「魔天王陛下!?」
カミーユも、どこかやつれて見えた。
妊娠して四ヶ月足らずのその体は、まだ見た目には、ほとんど変貌していなかった。
「済まぬ!」
王は頭を下げて、心からカミーユに詫びた。
「我が息子の不始末をこのような……言葉もない!!」
ドルアーグは、レ=オンが一方的にカミーユに無体を働いたのだと、思い込んでいた。
王室の権威を慮って、カミーユが黙殺してくれているのだと。
「お顔をお上げください、陛下」
カミーユは控えめに、微笑んでいた。すべて、見通しているかのように。
そして、静かに決意の言葉を口にした。
「わたくしが育てます」
「カミ……」
ドルアーグはその時、カミーユの首のチョーカーに、見覚えがあることに気づいた。
「カミーユ、その首の……」
カミーユはチョーカーにそっと手を添え、目を伏せた。
「わたくしが唯一人、愛したお方の子です。――お許しくださいませ」
カミーユは、慇懃に頭を下げた。
それ以上、何も言おうとはしなかった。
――
(――カミーユ。無事でいるか?)
冷たい石造りの地下牢の中で、レ=オンはじっとカミーユのことを考えていた。
誰にも真実を語ることなく、独りで耐えているカミーユ。子爵はどれほど、彼女を責めたのだろう。
あの華奢な身体に、小さな命を宿して。
恋しくてならなかった。会いたくて堪らない。
髪の匂い、肌の感触、自分の腕の中で流した涙。
(すべて、昨日のことのように憶えている。
何より、今、側にいてやりたいのに――カミーユ!)
二人を隔てる距離はあまりに遠く、声は届くはずもなかった。
――
王は苦悶した。
まさか、相愛の仲とは思わなかったのだ。
黙って牢に籠もるレ=オンと、静かに頭を下げたカミーユの様子は、二人の想いが真実の愛であることを物語っていた。
(なんということか。不相応というわけでもない……)
魔天公爵の眷族ともなれば、王族にも匹敵する血統である。公爵は、白魔族の王なのだから。
そう、白魔族の。
平民ならば、異種族間の結婚は少なくない。むしろ今では、純血を守る村落のほうが少数と言える。
(だが、レ=オンは王になるのだ!)
王族の血を、穢すわけにはいかない。認知はおろか、落胤として誕生させることもできない。
ドルアーグの抱える数多くの側室たちも皆、例外なく黒魔族の女たちである。
かといって、カミーユもまた、公爵の血を引く者である。
魔天王と魔天公爵、二人の王の血を受けることとなる子を、堕胎させることなどできようか。
ドルアーグは王として、最大の決断を迫られていた。




