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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 2 LOVERS - 第2章 知られざる日々
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14.誓い

東の空が、静かに白み始めていた。

一晩中聞こえていた虫の音が止み、鳥の声が風に混じって聞こえてくる。

間もなく、夜が明けるのだ。


レ=オンの黒いマントを羽織って、二人はじっと抱き合っていた。


「……レ=オン様」


カミーユが優しく囁く。


「何かお話しください」


「……何を?」


「なんでも……お声を忘れぬように」


腕の中で微笑む白い顔が、レ=オンには限りなく愛しかった。


「まだ憶えておらぬのか?」


そう言いながら、カミーユを抱きしめる。


「……忘れられぬ鎖をやろう」


「――鎖?」


レ=オンは黒装束の中から、あのチョーカーを取り出した。


「母上の形見だ」


「亡き王妃様の?」


レ=オンはチョーカーの継ぎ目を持って、魔力をそこに集めた。


「カミーユ、お前も手を出せ」


「こう、ですか?」


カミーユがレ=オンの手に自分の手を重ねると、ぱっと光が瞬き、チョーカーの一部が削ぎ落とされて宙に浮かんだ。


二人の手から発する魔力を吸い取って、その破片は小さく丸く、たちまち一つの耳飾り(ピアス)に形を変えた。

レ=オンはその耳飾りを手に取ると、自分の左耳に魔力で着けた。


「これは、共鳴体だ」


今度はチョーカーを持って、カミーユの首に嵌め込む。


「これを着けていれば、互いのことがわかる。どこにいようと、異変があればすぐにな」


「レ=オン様……」


チョーカーとピアスが、薄く光った。


「指輪よりも確かに、私とお前を繋ぐ。――我が妻は生涯、お前だけだ」


レ=オンの、真実の言葉だった。


「エリス・レ=オン・ディ・ラングはここに誓う。……お前も誓うか? カミーユ・フォン・ヴァロア」


「……はい」


涙を堪えて、カミーユもそれに倣った。


「誓います。生涯――ほかの、誰の元にも嫁ぎません」


命ある限り、想い合う二人の誓い。

それは小さな、結婚式だった。


――


夜明けの薄暗い部屋の中で、ウラカはじっと長椅子に座っていた。突然、その前の空間に小さな「穴」が空いた。


ウラカが立ち上がると、転位の「穴」から主人が現れた。


「カミーユ姫様!」


駆け寄る乳母に、カミーユは優しく笑いかける。


「ウラカ、ごめんなさい」


「ご無事で、姫様」


ウラカは安堵して、瞳を潤ませる。


「ご安心を、お屋敷のほかの方々は誰一人気づいておりません。お戻りになられること、信じておりました」


カミーユは無言で、窓の外を見る。朝の光が、穏やかに辺りを照らし始めていた。


「――姫様、あの方は……」


ウラカが遠慮がちに問うと、カミーユの目から涙が溢れ出した。


「姫様!」


「……今日だけよウラカ。もう二度と、泣かないから」


――今日だけは、せめて。

忘れずとも、失った恋を抱いて生きるために。


「泣く女は……お嫌いですもの……」


そう言って、頬を濡らしながらも微笑むその姿は、ウラカが知る今までのどんなカミーユよりも、美しく見えた。


――


一方王宮では、玉座にドルアーグが沈痛な面持ちで座っていた。そこへ、近衛の兵士が慌てて駆け込んできた。


「陛下! 王太子殿下がただ今お戻りに!」


「戻ったのか!」


ドルアーグが立ち上がると、スエロに伴われて、息子がゆっくりと玉座の間に入ってきた。


「……ご迷惑をおかけ致しました」


昨日とは別人の振る舞いで、王の前に頭を下げる。


「レ=オン!! お前は……」


「式は正午からとの仰せでしたが、ご用意はよろしいのですか。伯爵家の方々も、もう参られるのでしょう」


「な……」


レ=オンはまっすぐに、王を見上げた。

毅然としたその様子に、王のほうがたじろいだ。


「陛下、急ぎませんと殿下のお支度が」


スエロが進み出て、奏上する。


「……行け!」


睨み合うのをやめて、ドルアーグは顎をしゃくった。


「失礼致します」


レ=オンは一礼して、またスエロとともに去っていった。


「あやつ……」


ドルアーグは独り言ち、息子の様子を訝しんだ。

入れ代わりに入ってきた騎士が、一礼をする。


「陛下、サーティス様ご一行、ルーカスの別邸を出られたと前触れが参りました」


「――ああ、うむ」


ため息を一つ吐いて、ドルアーグも慌ただしく玉座の間を出た。

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