11.自覚
「参ったか、レ=オン」
玉座に鎮座している王は、重々しい声でレ=オンを迎えた。
「何事です、父上。玉座の間とは改まって」
「お控えを、殿下。御前ですぞ」
玉座の横に立っている、年老いた騎士が咎めた。
レ=オンがむっとしながらも跪こうとすると、ドルアーグは手招きして言った。
「まあよい。近う寄れ」
レ=オンは騎士を睨んで、王の前に進み出た。
「心して聞くがよい。お前の――」
咳払いを一つして、王は言った。
「お前の、妃が決まった。サーティス伯爵令嬢の、マルガレータだ」
レ=オンは目を丸くした。
聞き慣れない響きの言葉に、すぐには理解が及ばなかった。
王は構わず、話を続ける。
「伯爵といえど、サーティス卿は先々代の王からの血を継ぐ者。ことに魔力に色濃くそれを示し、マルガレータは教養も並々ならず、聡明にして嗜み深い。
未来の魔天王に相応しい、賢妻となろうぞ」
「い……」
ようやく、レ=オンの声が出た。
「いきなり、なんですそれは! 私に、き……」
動転して、まだ言葉が上手く続かない。
「妃など、まだ要りません!!」
「マルガレータでは不満か。面識はあろう?」
「そういうことを申し上げているのではありません!
何を血迷って、そのような……」
レ=オンの頭の中は、混乱した。
その中に浮かび上がってくる、一人の女の顔。
「前々から諸侯らと協議を重ねて、決定したことだ。誰も血迷ってなどおらぬわ」
ドルアーグは淡々と、返答する。
「私は何も」
「レ=オン! そなた、己が身分を忘れたか!」
突然、王の声が峻厳なものになった。
「そなたは王太子だ! この魔天王の位を継ぐ者なのだぞ!
不満を唱えれば、それでどうにかなるとでも思っているのか!?」
ドルアーグはますます声を荒げた。
「いつまでもふらふらと、自覚がないにもほどがある!
神妙に致せ!」
呆然となるレ=オンに、ドルアーグはまた、冷静な調子に戻って言った。
「発表は明朝、正午に婚約式を執り行う。――成婚の式は、ひと月後だ」
「な……!」
「今宵一晩、頭を冷やすがいい。望むなら、牢を提供するぞ」
「父上!」
「衛兵!」
騎士の声とともに現れた十数人の兵士が、あっという間にレ=オンを取り囲んだ。
「――失礼致します、殿下」
中でも屈強の男たちが二人、レ=オンの両腕を掴む。
「夜明けには出してやる」
王は冷然と言い放った。
レ=オンは俯いて、低く呟く。
「お仕着せの妃など、要りません」
「まだ言うか!」
「妻は自分で決めます。……私には」
レ=オンの体が、静かに光を帯びる。
「私には、想う女がいます!」
「――何!?」
風がレ=オンの周りを包み、辺りのものを吹き飛ばそうとする。
「うわっ!」
両脇の兵士の手が離れた瞬間、玉座の間が真昼のように明るくなり、レ=オンの姿が消えた。
「馬鹿な!」
王は驚愕し、立ち上がって周囲を見回した。
王宮は、転位などできないよう結界が張ってある。
だが、王宮内のどこにも、レ=オンの気配はなくなっていた。




