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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 2 LOVERS - 第2章 知られざる日々
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8.変わらぬ日々を

三日後、カミーユはクーガを送った川岸に来ていた。

流れる水に想いを馳せながら、考えるのはレ=オンのことだった。


――多分もう、おいでにならない。


「主」はもういない。レ=オンは以前、泣く女は嫌いだと言っていた。


(私ももう、ここに来ることは……)


不意に、後ろから風が吹いた。

カミーユが振り返ると、木立からレ=オンが現れた。


「レ=オン、様……!?」


「カ……」


レ=オンは息を切らせている。

カミーユは目を見開いて、その姿を見つめた。


「……レ=オン様、どうして」


「おまえ、が……」


「え?」


必死に息を吐きながら、レ=オンは途切れ途切れに応えた。


「お前が、泣いている、ような……気が、して……」


「――っ!」


カミーユはじっと、レ=オンの喘ぐ様を見ていた。柔らかな風が、二人の間を吹き抜けていく。

ようやくレ=オンの息が整ったころ、カミーユは言った。


「……泣きません」


まっすぐな瞳で、レ=オンに向かう。


「もう泣きません」


その顔は、穏やかに微笑んでいた。

レ=オンは、なんとも言えぬ表情をする。


「ご心配なく。レ=オン様も、泣く女は嫌いだとおっしゃったでしょう?」


一瞬、レ=オンの顔に羞恥の色が浮かんだ。


「私も、涙は嫌いです」


そう言って、カミーユはふわりと翔んだ。



しばし呆然となったレ=オンも、やがてそのあとを追った。


――そうとも。女が泣くのは好かぬ。


女の最も醜い姿は、泣き顔だと思っていた。


なのに。

カミーユのその姿は、レ=オンにとって嫌悪すべきものではなかった。

むしろ、その逆だった。


……女の泣き顔を、初めて、美しいと思った。


――


二人で花を摘んで、小川に流した。岩場に残されていた殻を砕いて、まとめて流した。

クーガの手向けに、思いつくことはすべてやった。


そして森での「密会」は、そのあとも続いた。


「なぜ、おいでになりますの?」


「お前は、なぜだ?」


見合わせた、互いの視線にどきりとする。


「私は……クーガに出逢う以前から、ここに来ておりますから」


カミーユは、顔を背けて言った。


「私とて、クーガを知らぬころに、この森を見つけたのだ」


レ=オンも同じように、横を向く。


「それに、ここに来ると退屈せぬ。

私にこれほど無礼を働く者など、王宮にはおらぬからな」


「――私こそ、こんなに横暴な方は、ほかに知りません」


顔を合わせないまま、しばし沈黙する。

先に、レ=オンが呟いた。


「なら、別に……よかろう」


「……はい」


自らの想いを持てあまして、思わぬことを口にした。

二人とも、同じだった。


(別に……いい)


(このままで……)


――


二人が森ですることといったら、その後も他愛のない遊びばかりだった。鳥の巣を見つけては喜び、魚を追っては笑った。


クーガがいたころと、変わりはしなかった。相変わらずの口の悪さで、相変わらずの戯れ合い。

何もわからぬ、子供のように。


それでも会わずにいられない二人だけの時間は、永遠のものに感じられていた。

そう信じていた。


だが二人の間では変わらぬように見えて、小さな魂の触れ合いは、確かに彼らを変えつつあった。

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