4.異端の雷皇
数日のあと、二人は三度再会した。
今度は、カミーユのほうが先に来ていた。前と同じ川縁で、クーガを膝に抱いていた。
「よく会うな」
「不本意なことに」
その言い方にまた、腹が立つのを抑えて、レ=オンは横を向いて言った。
「順序から言えば、今度はお前の番だな。今日は私が退散するか」
「お好きなように」
カミーユが言いかけると、クーガがキキャッ、と鳴いた。
カミーユの膝の上で、じっとレ=オンを見上げている。
「……主は、あなた様をお選びのようですわね」
カミーユは立ち上がり、クーガを抱き下ろそうとした。
すると今度は、カミーユの胸の辺りに両前足でしがみついて、離れない。
「――お前もお召しのようだぞ」
はあ、とカミーユはため息をついた。
結局、二人ともクーガの相手をした。クーガは笑っているように、キッキッと高く短い声を上げる。
「主には大層お喜びだ」
「光栄ですこと」
二人の間を行きつ戻りつ、木々の合間を飛び回る。だがやはり、どこか心もとない飛び方に見える。
「クーガの翼は、なんの怪我なのだ?」
「怪我ではありませんわ。おそらく、生まれつきです」
「生まれつき?」
レ=オンはカミーユに、視線を移した。
「いくら呪文をかけても、治りきらないのですもの」
カミーユのほうは相変わらず、クーガを目で追っている。
「傷は塞がりましたけど」
「傷になっていたのなら、怪我ではないのか?」
「……ご案内の上で、ご説明致しますわ。クーガも、そちらに向かっているようですし」
――
二人はクーガの飛ぶあとを追って、西の谷までやってきた。
さして高くはない崖が、北の岩山へと続いている。その下を流れる河が、森の小川に続く源流だった。
「あれです」
カミーユは岸壁の上のほうに見える、突き出た岩場を指差した。
「ここからでは、わからんな」
レ=オンはそう言うと、翔び上がってその岩場に降りた。
カミーユも魔術で「飛翔」して追ってきたので、レ=オンは心中驚いた。難解な魔術ではなくとも、貴族令嬢が修得するような術ではない。
大きな広間ぐらいの広さの岩上に、両手でやっと持ち上げられそうな大きさの青白い卵の殻が、真っ二つに割れて残っていた。
「ここが、変色していますでしょう?」
カミーユの指した辺り、掌ほどのその部分だけが、茶色くなっている。そこだけ殻が薄く、平たい。
「成体が産み落とした時か、あるいはその前からか――卵の一部を傷めて、翼の傷になったのではないでしょうか」
「産んだあと、孵卵している最中ではないか?」
「わかりませんけれど、とにかく私が見つけた時には片翼が曲がっていて……傷が癒えても、あの通りですわ」
下の谷間を、クーガがよたよたと飛んでいる。
「ドラゴンは自身も魔術が使えるはず。人のように呪文はないが、『黙呪』にてあらゆる治癒が行えるのだろう?」
「クーガは、それをしないのではなく、できないのかもしれません。
竜族が本能的に持っている力を、知らないのかも……」
カミーユは悲しげに、目を伏せた。
「――確かにあれは竜として、ことに『雷皇』としては異端だな」
呟きながら、レ=オンは思った。
異端というより、むしろ異常だ。
あの人懐こさは、サンダードラゴンの本性に反する。
「そんな言い方、なさらないで!」
カミーユはレ=オンを睨むと、飛翔してクーガの元へ翔んだ。
レ=オンはすこし怯み、そのまま“二人”を眺めていた。




