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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 2 LOVERS - 第2章 知られざる日々
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4.異端の雷皇

数日のあと、二人は三度再会した。

今度は、カミーユのほうが先に来ていた。前と同じ川縁で、クーガを膝に抱いていた。


「よく会うな」


「不本意なことに」


その言い方にまた、腹が立つのを抑えて、レ=オンは横を向いて言った。


「順序から言えば、今度はお前の番だな。今日は私が退散するか」


「お好きなように」


カミーユが言いかけると、クーガがキキャッ、と鳴いた。

カミーユの膝の上で、じっとレ=オンを見上げている。


「……主は、あなた様をお選びのようですわね」


カミーユは立ち上がり、クーガを抱き下ろそうとした。

すると今度は、カミーユの胸の辺りに両前足でしがみついて、離れない。


「――お前もお召しのようだぞ」


はあ、とカミーユはため息をついた。


結局、二人ともクーガの相手をした。クーガは笑っているように、キッキッと高く短い声を上げる。


「主には大層お喜びだ」


「光栄ですこと」


二人の間を行きつ戻りつ、木々の合間を飛び回る。だがやはり、どこか心もとない飛び方に見える。


「クーガの翼は、なんの怪我なのだ?」


「怪我ではありませんわ。おそらく、生まれつきです」


「生まれつき?」


レ=オンはカミーユに、視線を移した。


「いくら呪文をかけても、治りきらないのですもの」


カミーユのほうは相変わらず、クーガを目で追っている。


「傷は塞がりましたけど」


「傷になっていたのなら、怪我ではないのか?」


「……ご案内の上で、ご説明致しますわ。クーガも、そちらに向かっているようですし」


――


二人はクーガの飛ぶあとを追って、西の谷までやってきた。

さして高くはない崖が、北の岩山へと続いている。その下を流れる河が、森の小川に続く源流だった。


「あれです」


カミーユは岸壁の上のほうに見える、突き出た岩場を指差した。


「ここからでは、わからんな」


レ=オンはそう言うと、翔び上がってその岩場に降りた。

カミーユも魔術で「飛翔」して追ってきたので、レ=オンは心中驚いた。難解な魔術ではなくとも、貴族令嬢が修得するような術ではない。


大きな広間ぐらいの広さの岩上に、両手でやっと持ち上げられそうな大きさの青白い卵の殻が、真っ二つに割れて残っていた。


「ここが、変色していますでしょう?」


カミーユの指した辺り、掌ほどのその部分だけが、茶色くなっている。そこだけ殻が薄く、平たい。


「成体が産み落とした時か、あるいはその前からか――卵の一部を傷めて、翼の傷になったのではないでしょうか」


「産んだあと、孵卵している最中ではないか?」


「わかりませんけれど、とにかく私が見つけた時には片翼が曲がっていて……傷が癒えても、あの通りですわ」


下の谷間を、クーガがよたよたと飛んでいる。


「ドラゴンは自身も魔術が使えるはず。人のように呪文はないが、『黙呪』にてあらゆる治癒が行えるのだろう?」


「クーガは、それをしないのではなく、できないのかもしれません。

竜族が本能的に持っている力を、知らないのかも……」


カミーユは悲しげに、目を伏せた。


「――確かにあれは竜として、ことに『雷皇』としては異端だな」


呟きながら、レ=オンは思った。


異端というより、むしろ異常だ。

あの人懐こさは、サンダードラゴンの本性に反する。


「そんな言い方、なさらないで!」


カミーユはレ=オンを睨むと、飛翔してクーガの元へ翔んだ。

レ=オンはすこし怯み、そのまま“二人”を眺めていた。

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