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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 2 LOVERS - 第2章 知られざる日々
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3.森の主

……とは、言ったものの。


レ=オンは王宮に帰っても、あのドラゴンのことが気になっていた。


賑やかなロメオに近い辺りに、サンダードラゴンの伝承などあるはずもない。

カミーユは、ドラゴンを「主」だと言った。


あのドラゴンを産んだ成体は、すでにいないだろう。

ほかに誰かがいるとすれば、おそらくカミーユである。


――まさかそう何度も、顔を合わせることはあるまい。あの娘(カミーユ)も、毎日屋敷を出ているわけでもなかろうし。


数日後、またレ=オンは森を訪れた。


「サンダードラゴン!」


森の、先日出会った辺りを歩き回り、そう呼んでみる。


「ドラゴン! ……あー」


レ=オンは少し躊躇して、


「クーガ!」


今度はカミーユの呼んでいた名を、叫んでみた。

すると後方から、何かの羽ばたく音が聞こえた。


「……クーガ! いたか」


ドラゴンは嬉しそうに、レ=オンのほうへ飛んできた。


「私を覚えているか?」


返事のつもりかわからなかったが、ドラゴンはレ=オンの顔を一舐めした。

グルルル、と喉を鳴らして、甘えているように思える。レ=オンはドラゴンを抱きながら、その場に座った。


「よし、よし。……ん?」


よくよく見ると、右の翼の付け根に傷痕らしく、鱗の剥がれたところがあった。

そういえば、クーガの飛び方は、どこかぎこちない。


治ってきているようにも見える。

自然治癒か。それとも誰かに……


ふと、カミーユのことを思い出した。


「あの娘か?」


その時、クーガが大きな声で鳴いた。

レ=オンが振り返ると、やはりカミーユが、そこに来ていた。


「……レ=オン様」


レ=オンは座ったまま、驚いているカミーユを見上げた。


「ご遠慮くださいと、申し上げませんでした?」


無表情のカミーユが、落ち着いた口調で言う。


「主の許可は得ている」


レ=オンはクーガに向き直って、その体を高く抱き上げた。


「私がお気に召したらしいな」


クーガはキイキイと小さく鳴いて、懐いているようである。カミーユは面白くなさそうに眉を顰めたが、


「気まぐれな方ですから」


そう言うと、レ=オンの横に座った。

クーガはカミーユの膝の上に移動して、長い髪の先にじゃれついた。


「この主の親は?」


レ=オンはクーガを見ながら、尋ねた。


「存じません」


カミーユも、クーガから視線を動かさずに答える。


「私が出会ったころには、もう独りでした。ここから西にある谷で、孵化したばかりでしたわ」


「西の谷? ――なぜそんなところに」


「さあ……」


突然、クーガはぱっと翼を広げて、もたつきながら宙を飛んだ。


「クーガ」


カミーユの声に応えるように、一度だけキイッと鳴いたが、降りてこようとはしなかった。


「確かに、気まぐれだな」


レ=オンの言葉には応えず、カミーユは立ち上がって背を向けた。


「帰るのか?」


「落ち着いてお会いできる時に、出直して参ります。今日のところは、お譲りしますわ」


振り向きもせずにそう言って、カミーユは立ち去った。


「……可愛げのない」


レ=オンはその後ろ姿を見送って、一人毒づいた。

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