3.森の主
……とは、言ったものの。
レ=オンは王宮に帰っても、あのドラゴンのことが気になっていた。
賑やかなロメオに近い辺りに、サンダードラゴンの伝承などあるはずもない。
カミーユは、ドラゴンを「主」だと言った。
あのドラゴンを産んだ成体は、すでにいないだろう。
ほかに誰かがいるとすれば、おそらくカミーユである。
――まさかそう何度も、顔を合わせることはあるまい。あの娘も、毎日屋敷を出ているわけでもなかろうし。
数日後、またレ=オンは森を訪れた。
「サンダードラゴン!」
森の、先日出会った辺りを歩き回り、そう呼んでみる。
「ドラゴン! ……あー」
レ=オンは少し躊躇して、
「クーガ!」
今度はカミーユの呼んでいた名を、叫んでみた。
すると後方から、何かの羽ばたく音が聞こえた。
「……クーガ! いたか」
ドラゴンは嬉しそうに、レ=オンのほうへ飛んできた。
「私を覚えているか?」
返事のつもりかわからなかったが、ドラゴンはレ=オンの顔を一舐めした。
グルルル、と喉を鳴らして、甘えているように思える。レ=オンはドラゴンを抱きながら、その場に座った。
「よし、よし。……ん?」
よくよく見ると、右の翼の付け根に傷痕らしく、鱗の剥がれたところがあった。
そういえば、クーガの飛び方は、どこかぎこちない。
治ってきているようにも見える。
自然治癒か。それとも誰かに……
ふと、カミーユのことを思い出した。
「あの娘か?」
その時、クーガが大きな声で鳴いた。
レ=オンが振り返ると、やはりカミーユが、そこに来ていた。
「……レ=オン様」
レ=オンは座ったまま、驚いているカミーユを見上げた。
「ご遠慮くださいと、申し上げませんでした?」
無表情のカミーユが、落ち着いた口調で言う。
「主の許可は得ている」
レ=オンはクーガに向き直って、その体を高く抱き上げた。
「私がお気に召したらしいな」
クーガはキイキイと小さく鳴いて、懐いているようである。カミーユは面白くなさそうに眉を顰めたが、
「気まぐれな方ですから」
そう言うと、レ=オンの横に座った。
クーガはカミーユの膝の上に移動して、長い髪の先にじゃれついた。
「この主の親は?」
レ=オンはクーガを見ながら、尋ねた。
「存じません」
カミーユも、クーガから視線を動かさずに答える。
「私が出会ったころには、もう独りでした。ここから西にある谷で、孵化したばかりでしたわ」
「西の谷? ――なぜそんなところに」
「さあ……」
突然、クーガはぱっと翼を広げて、もたつきながら宙を飛んだ。
「クーガ」
カミーユの声に応えるように、一度だけキイッと鳴いたが、降りてこようとはしなかった。
「確かに、気まぐれだな」
レ=オンの言葉には応えず、カミーユは立ち上がって背を向けた。
「帰るのか?」
「落ち着いてお会いできる時に、出直して参ります。今日のところは、お譲りしますわ」
振り向きもせずにそう言って、カミーユは立ち去った。
「……可愛げのない」
レ=オンはその後ろ姿を見送って、一人毒づいた。




