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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 1 MASTERLESS - 第1章 神の眷族
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31.復活の真実

島を覆っていた暗雲が緩やかに晴れてゆき、陽の光が差し込み周囲を照らし出す。

下の地割れも徐々に鎮まり、島の半分ほどが沈んで止まった。波のうねりも、次第に収まっていく。


鞘ごと光るラルフの刀の輝きが消え、大気に満ちていた魔力の渦も薄らぐ。

ラルフは残っている島の、樹々が倒れて広がっている場所に降り立った。


「う……」


イレーヌは苦し気に呻いた。

ラルフはまだ、イレーヌを腕に抱いていた。


「無事か」


「はい……申し訳、ございません」


謝ることなどない。利用されただけなのだ。


「あの、少年が……賢者の最長老、でございました。

禁呪の、転生で……」


(苦しければ、心で話せ)


ラルフがイレーヌを見つめて呼びかけたのは、言葉ではなく心の声だ。

喘ぎながら話していたイレーヌは、どうにか頷いた。


(禁呪の転生を使い、若い肉体を取り戻したようです。ほかの賢者は、すでに死者であったかと)


(理解した。あれは、ただの狂信者だ)


(――そう、思われます。さきほどのドラゴンに、わたくしの魔力が流れ込んでいる感覚がございました。

わたくしを媒介に、ディヴァイン・ドラゴンを復活させる企みだったようです)


神が顕現したのではない。

まして復活など、最初から起きていなかった。


人間の噂――「ディヴァイン・ドラゴンの復活」は、イレーヌをおびき寄せるためのもの。

おそらくは賢者たちの予言として、セイントサイドから流されたのだ。


予言だとディヴァイン・ドラゴンの名を出せば、人間は信じる。ガルシアとて、真偽を確認せねばならなかったのだから。


そして、相手が「神」の名を騙る以上、調べられるのはガルシアかラルフか、イレーヌだ。

ガルシアもラルフも、安易には動かない。動いたところで、他者に魔力を利用される弱者ではない。

イレーヌが狙われたのは、そのためだ。


だが、妄信者が操れるものなど知れている。


イレーヌは、「ディヴァイン・ドラゴンを復活させる企み」と言った。

正確には、神を模した偽物が、イレーヌと最長老の思考から作り上げられただけだった。

真実「神」であったなら、いかにラルフがイレーヌと同調したとはいえ、呆気なく滅ぼせはしない。


ルーンに魔力が蓄蔵されていたのは、事実だ。

最長老の賢者は、禁呪の「転生」を利用していた。賢者には世界に知られぬ禁呪が伝えられ、その力で寿命を永らえ、ルーンに魔力を蓄えていたのだろう。

その力をイレーヌの魔力で解放して制御し、あのドラゴンの幻影が生じた……


そんなところだ。

神など、この世界には存在しないのだから。


ラルフが考えていると、ふと、大気の流れが変わった。見上げた空から、飛竜が降りてくる。


その背にいるジークは、ラルフとイレーヌの姿を見つけて、驚いたようだった。

ふわりと、飛竜がラルフの前に降りて頭を垂れる。

ジークも飛び降り、跪いた。


「公爵閣下。お力になれず、申し開きのしようもございません」


片が付いたことは察したらしい。ジークがいたところで戦力になったかは怪しいが、イレーヌの側近としては正しい振る舞いだ。


「立て」


ラルフが命じると、一度頭を下げてから立ち上がった。

その目は、ラルフの腕の中の主人を見ようとして――すぐ、ラルフに目線を合わせた。


「イレーヌを連れて、陣営に戻れ」


ラルフが少し腕を前に動かすと、イレーヌがラルフのほうを見た。視界の端でそれに気づきながら、ラルフはただ、ジークを見ていた。


「は……失礼致します、イレーヌ様」


ジークは躊躇いつつ、イレーヌをラルフの腕から受け取り、ほんのわずかに眉をひそめた。


「案ずる、な……」


イレーヌはジークに力なく声をかけ、再びラルフに顔を向ける。


「私は王宮へ報告に行く。陣営にて、王の沙汰を待て」


「御意」


ジークの答えが終わる前に、ラルフは風を纏い、姿を消した。


――


ルーンが崩壊したため、島を覆っていた結界が消滅していた。

転位が使えるようになったと気づいたラルフは、直接ガルシアの目の前に現れた。


執務室の椅子に座していたガルシアは、ラルフに同調していたからか、驚きも見せずに呟いた。


「大儀」


落ち着いた口調で短い労いだけを口にしたのは、イレーヌの無事も悟っていたのだろう。


「敵は倒した。神などではない、人間の騙りだ。

イレーヌの魔力を狙うルーンの者どもに、人間が踊らされた噂にすぎぬ」


「ルーンは?」


「崩壊した。賢者もすべて死した。

神の復活など、やはりありえぬ」


「そうか」


ふっと、ガルシアが小さく息を吐いた。


「イレーヌは陣営に帰し、ジークに守らせている」


「わかった。お前も戻れ」


「承知」


ラルフは再び、転位で消えた。


「――行くか」


ガルシアは独り言ちて、立ち上がった。

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