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MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 1 MASTERLESS - 第1章 神の眷族
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26.要求と受容

里の広場に集められた人々は、言葉もなく立ち尽くしていた。自分たちの守り神であったはずのドラゴンの来襲と、白い聖騎士の冷徹な視線と――何よりも初めて目にした、フェアリアの姿に。


「そう怯えるな。そなたらの命を奪いに来たわけではない」


イレーヌは優しく言った。


「ただ、少々聞きたいことがあるだけだ。

ルーンの――『賢者』たちの居所を、教えてくれさえすればよい」


里の人間は圧倒され、誰一人声も出ない。


イレーヌは人間たちを見渡した。隠れ里とはいえ、質素な衣服は共通するものの、老若男女がとりどりに揃っている。

ふと、その中の戦装束の男に目が止まった。


「そなた、ここの将か?」


兵士を取りまとめていた、激しやすい男である。

イレーヌが近づくと、男は数歩下がった。


「ディヴァイン・ドラゴンの復活が真実ならば、その伝説の護り主たる『ルーンの賢者』は、予兆を感知していよう。それを確かめたいのだ」


「い……いや、しかし」


兵士を怒鳴りちらしていた男も、イレーヌの前に、威勢を保つこともできない。

敵に対する恐れというよりは、その美貌に驚愕し、怯んでいる状態だった。


「素直に答えるが身のためだ。――二度と、話せなくなるぞ」


魔女の瞳が、冷たく光る。

男は恐怖を感じて、体を硬直させた。


「ち、違う! お……俺は、里の者ではないのだ!

王の……リュ・ジオス王国の、国王の命令でここに!」


「何?」


「噂の、真相を知るために遣わされて……そ、その復活の、噂だ。

た、たまたま侵入者があるというので、その、行きがかり上、応戦……い、いや、防衛に回っただけで」


しどろもどろに男が説明すると、イレーヌは腕を組んだ。


「人間の王も、真実は知らぬわけか。――そなた、よく里に入れたな?」


イレーヌが問うと、男は必死になって答えた。


「それは、王は……王が、里への道を示してくれたからで」


「『道』があるのか?」


「も、もちろん」


「……ほう」


イレーヌはドラゴンを振り返った。


「なるほど、私は運がよいわけだ」


また人間たちに向き直って、微笑んだ。


「王がこの里への道を知るのなら、この里の者はルーンへの道筋を知っているな? 誰ぞ、それを」


「……私が!」


人々の後ろから、幼さの残る声がした。


「私が、ご案内致します」


イレーヌの前に出てきたのは、利発そうな顔立ちをした十三・四歳の少年だった。枯れ草色の髪に、同じ色の瞳はあどけないながらも、妙に落ち着きを感じさせる。


「そなたは?」


「ハートミィ・ナダと申します。賢者様に、最近までお仕えしておりました」


――


王宮に報告をしたのは、ジークだった。


「セイントサイドはもはや落ちた――というわけだな」


「御意」


「ふむ……」


玉座のガルシアは相変わらずの、何を考えているのかわからない目で、宙を見た。ジークは常よりも顔と体を強張らせ、その前に俯き跪いている。


「よかろう。言われた通り、イレーヌ一人でルーンに赴かせるがいい。

いかに人間の力を越えた『賢者』どもといえど、あれ(イレーヌ)に容易く仇なせることもあるまい」


何かあったとしても、万一の時には居所もわかる。口にはしなかったが、ガルシアはそう思っていた。

イレーヌには、そのための「目印」をすでに与えてあった。


彼女の首に嵌められたチョーカーである。

チョーカーはガルシアのピアスと魔力で繋がっており、彼女の無事と位置とを常に伝える物だった。


「では、そのようにお伝え致します」


ジークは顔を上げずに答えた。


「セイントサイドには援軍を向かわせる。それまでは、ドラゴンと親交を深めておくことだ。……イレーヌにも、その旨伝えよ」


「御意」


ジークが立ち上がり、礼をして退出しようとした時だった。


「ジーク・リフ・アラート」


王が呼び止めた。


「いかなるときも、イレーヌの命じるところに従え。己が身の選ばれたことを忘れるな」


瞬間、ジークの体が凍りついた。王はただ、微笑んでいる。


「行け」


「……失礼致します」


広間を出て仄暗い廊下を歩きながら、ジークの心には嵐が吹き荒れていた。

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