表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MASTERY - マスタリィ【第1部】  作者: 洲澄英里
Period 1 MASTERLESS - 第1章 神の眷族
16/86

15.王の「影」

「二千の兵が消えただと?」


報告を受けた玉座のガルシアは、まるで動揺を見せずに尋ねた。


「はっ! トリュグのほぼ真南にて、ダイス様の軍勢に相違ないかと」


白魔族の若い伝令は、顔面蒼白して答えた。その声も、恐れのためか震えている。


「二千ということは、第三軍のすべてではあるまい。テクスターナには五千からの兵が駐屯していたはずだが」


「仰せの通り、残る三千名はテクスターナに……」


「無事か」


「御意」


王はしばらく宙を見つめると、傍らの魔導士に問いかけた。


「ゾノバ、どう見る」


ゾノバは静かに答えた。


「……転位陣(メティシストラ)、でございましょうな」


「メティシストラ? 転位の『穴』が仕掛けられていたと?」


王の言葉に、老師は深く頷いた。


「おそらく。雨季に入る前、敗走の軍より別れた人間どもの仕業でありましょう。

陛下の軍を狙ってのことだったのでしょうが、ダイス様はその不穏な動きを、察知なされたのやもしれませぬな」


「万一のことを考え、兵を残し自ら動いた、と?」


「そんなところかと。推測の域を出ませぬが――

罠であればご無事なはずもなく、確かめるすべはございますまい」


「ふむ……」


ガルシアは思案げな表情で、伝令に向き直った。


「ともかくも、テクスターナの兵はそのまま留まらせよ。探索は、ほかの者に命じる」


「御意! では失礼致します!」


伝令は足早に去っていった。それを見送りつつ、ゾノバが呟いた。


「しかし……」


「なんだ?」


ゾノバは上目遣いに、ガルシアを見た。


「二千もの兵を気づかせることなく瞬時に葬り去る転位陣など、並の術者に作れるものではありませぬな?」


「それが人間の計り知れぬ力……といったところか?」


ガルシアは薄く笑って答えた。


「しばし考えることがある。下がれ」


「――御意」


ゾノバは深々と礼をし、広間を出ていった。その後ろ姿が廊下に消えていくのを見届けると、ガルシアは一人忍び笑いを洩らした。


ガルシアの許にはすでに一昨日、イレーヌからの密使がダイスの死を報せに来ていた。

報告によれば、「功労者」も第四軍に留まったとの話だった。

それは無理もない。有用な駒が増えたと、歓待してよいだろう。


次に考えるべきは、空席となった将軍の地位と、残された兵士の処遇である。

転位陣に消えた二千名以外の兵士は、おそらくダイスの手駒にはならなかった者どもだ。王に対する、ダイスの裏切りさえ知らぬだろう。ほかの者に、引き取らせる必要がある。

ふと思い立ったように、ガルシアは口を開いた。


「フェン。いるか」


「……お側に」


ガルシアの背後の影に、いつの間にか一人の男が立っていた。いや、男かどうかわからない、整ってはいるがなんとも中性的な顔立ちをしている。


髪は真っ白で腰の下まであり、瞳はほとんど色がなく、銀に近く見える。

白いマントが全身を覆っていて、体格も、種族さえ限定できない風貌である。


「転位陣は閉じたか」


「御意」


応える声も異質そのもので、幽玄な響きは、やはり男女を特定できない。


「行く先は」


「外海にて、助かろうはずはありませぬ」


「大儀」


振り返りもせず労いの言葉を掛けた王に、フェンと呼ばれた「男」は、無言で頭を下げた。


「今一つ働いてもらう。此度はしばらく、『表』で動け」


何処(いずこ)へ参りましょう」


「イレーヌの許へ飛べ。ダイスのあとを継ぐ将軍位、お前に委ねよう。適当な者と『同化』致せ」


「同化の、相手は誰を」


「イレーヌに一任する」


「御意……」


もう一度丁寧に辞儀をすると、フェンは再び影の中に消えた。


――将軍候補の力を有する者となれば、第四軍には二人しかいない。選ぶのはイレーヌの意志だが、一体どちらになることか。


遠く思いを馳せながら、王はまた小さく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ