第1部 米軍反攻作戦 第3章 赤毛のミランダ
米陸軍航空隊 赤毛のミランダ号 ニューギニア北岸
1934年11月4日 時間不明
操縦席から見える範囲でも、機体には数カ所ささくれ立った弾痕がある。
怖いのは、左エンジンが止まり、ペラと一緒にカウルが吹っ飛んじまったことだ。
俺は漏れたオイルで曇った風貌越しに右手のニューギニア島影を見つつ両手両足を使い機体を安定させようと懸命にもがいている。
横に座っている機長のロビンソン中尉は、両手をダラリと垂らし、機体の動揺に合わせて首が揺れている。
まだ意識があったときに、俺に途切れ途切れに言ったことは
「片肺じゃ山越えは無理だ、島の東側を廻れ、味方の所までたどりつけ、大丈夫、マイクお前ならできる」
それが最後の会話だった。
ときどき、息をつくエンジンをなだめながら、赤毛のミランダ号は飛行を続けていく。
あれは、初めて経験するゴツイ闘いだった。
俺たちがラバウル沖へ向けて変針した時には、編隊の3分の1が殺られてしまっていて、事前の取り決め通り第2目標のラプラプ飛行場へ目標を変更するとの命令が流れてきた。
ラプラプ飛行場は島を横断しなくてもよいが、より北東に遠く、全く気乗りがしない。
俺たちの左手にいた編隊は、ニューブリテン島から車懸かりで飛んで来るジャップに殺られて、もはや編隊の体をなしていない。
高度は既に爆撃高度へ入っている。
海岸線を超えたところで、上方からジャップが降ってきた。
濃緑の機体カラー、イシワーラに似たずんぐりした胴体、6発の機銃、噂に聴くジャップの海軍局地戦のジャックだ。
おそらく基地直属の防空隊だろう。
左右から、みるみるうちに俺たちの編隊が喰われていく、指揮官機は最初の一撃で落とされている。
右手上空で旋回して襲撃コースに入ったジャックがいきなり火を噴いた。
その後方から2機の逆ガルウイングの戦闘機が追い越していく。
海軍のコルセアだ、やっと海軍のイカども来やがったか。
機長のロビンソン中尉は翌端を振り、編隊に残っている後続の2機に続くように指示をする。
高度をさらに下げ、梢をかすめるように飛ぶ。
上空は大混戦となっている。
ロビンソン中尉は歴戦の操縦者らしく、ラプラプ飛行場を大きく迂回し、逆方向から飛行場へ侵入していく。
爆撃高度へ上昇した時にも、ジャップの対空機銃陣地は俺たちの攻撃に気づかなかった。
横一列横隊で抱えてきた爆弾をばらまくとスロットルを開き高速離脱をはかる。
後ろで爆発音が連続して聞こえているが、命中したかどうかは判らない。
このまま、逃げ切れるかと思ったときにジャップの濃密な対空陣地に飛び込んじまった。
他の2機のうち1機は空中で爆散、もう1機はパイロットが殺されたらしく地上へ突っ込んだ。
俺たちの機体も穴だらけになったが、まだ奇蹟的に飛んでいる。
俺もピンピンしている、が、ロビンソン中尉は跳弾の破片を背中にくらったと言い、かなり苦しそうだ。
海岸線を超えたところで、左エンジンがおかしくなり、筒外爆発か、何かが起き、いきなりプロペラとエンジンカウルが吹き飛んだ。
「左の燃料コックを閉じろ」
傾き急旋回を始めようとした機体を操りながらロビンソン中尉は、俺に命じた。
上空では相変わらず乱戦が続いている。




