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南太平洋戦記-間に合った世界  作者: 鴨下英二
第1部 米軍反攻作戦 

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第1部 米軍反攻作戦 第2章 作戦名「鋼の顎」

ニューギニア北岸沖 N-501輸送船団護衛空母旭鷹

1943年 11月4日 11:10



 最後の零式艦戦が着艦を終えるのを陰山海軍大尉は、艦橋横の甲板上で見届けると、飛行隊長の山梨中尉と共に艦橋のラッタルを登る。

 「全機帰還はなによりです」

陰山の声は明るかった。

 「護衛のペロ八が、陸さんの三式に封じられていたのが幸運でした」

山梨中尉は航空軍靴を鳴らして登りながら応えた。

 「ただ、空中指揮官が頼み込んできた対潜爆弾は役にたちませんでした」

 「だろうね、密集編隊と言えどあれはよほど運がなければ無理だろう」

陰山大尉は、船団護衛の空母部隊に艦戦の派遣を要請してきた指揮官の参戦要請通信を思い出した。

 一昔前なら、陸軍が海軍に指令を出すなど考えられないが、航空戦に限っては今はそのエリアの指揮官が指令を出せばそれに従わなければならない取り決めとなっている。

 風上に艦首を向けていた旭鷹は、大きく変針して西へ向かい増速を始めた。

先行する輸送船団に急ぎ追いつくためだ。

 基準排水量1万トンの船体は大きくローリングを始めた。



オーストラリア ブリスベン 連合軍南西太平洋方面司令部

1943年 11月4日 16:15


 南西太平洋方面軍傘下の航空部隊の司令部はブリスベン市内のクリークストリートにある複数の商業ビルに分散して置かれていた。

 今、海底に敷設された電信線によって第5航空軍の司令部からもたらされた報告はポートモレスビーの凍った空気を伝播させるに充分な内容があった。

 報告は素早くまとめられ、戦果と損害について簡単な考察が添えられたペーパーとなり、伝令使によって300メートル離れた、クイーン通りとエドワード通りの角のAMPビルに居を据える南西太平洋方面最高司令部に届けられた。

 このあたりのスピードはさすがに合衆国の作った組織であった。

 しかし、誰がこの報告書を最高司令官へ提出するかで軽くひと悶着があり、結局は参謀副長のリチャード・J・マーシャル大佐と主席航空情報官が共同で提出するという運びとなった。


 ビルの8階に方面軍司令官執務室はある。

執務室の入り口で副官の大尉に要件を告げ報告書を渡し、ノックの返事を待ち入ると、壁際の作戦ボードに部屋の主がこちらに背を向けて立っていた。

  連合軍南西太平洋方面司令官ダグラス・マッカーサー元帥は、二人の名乗りに何の反応もせず、しばらくボードを見続けたあとくるりと振り返ると佇立する2人を見た。

 「ニューブリテン島空襲作戦の評価をお持ちしました」

マーシャル大佐が告げると、横合いから先ほどの副官が影のように現れ、報告書のの封筒を窓際の執務机の上に置いた。

 マッカーサー元帥はゆっくりと執務席に座ると封筒からファイルを取り出し読み始めた。

 二人には、逆光で元帥の表情は全く見えない。しかし、元帥が読み進むにつれて

部屋の温度が急速にに下がっていくように感じられる。

 元帥は読み終えると、ファイルをパタリと閉じ封筒の上に置き、そのまま動かなくなった。相変わらず未だ高い南半球の夏の太陽は、元帥の表情を影として隠し、伺い知ることができない。

 沈黙が永遠に続くのではと二人が思えた時に、元帥の右手がかすかに動いた。

 見ると、先ほどの副官がいつの間にか横に立ち目で退出を促している。

 

 二人が退出すると、元帥は副官の大尉に参謀長のサザーランドを呼べと命じ、

再び机の上に置かれたファイルに目を落とした。

 ファイルにはオペレーション・アイアン・ジョーズ-サウスとタイプ印字された題字が表記されていた。




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