第1部 米軍反攻作戦 第1章 アメリカ陸軍第5航空軍
ポートモレスビー近郊 米陸軍飛行隊・第7飛行場
1943年11月4日 10:20
米陸軍第5航空軍の司令部は、日本軍の空襲が少なくなってからは手狭
な地下から出て、飛行場近辺の唯一まともな建物であるプランテーション
農園主のコロニアル風建物の自宅を借り上げて設置されていた。
一階のベランダ横広間が、今回のラバウル島空襲作戦の指揮中枢となっ
ており、多くの参謀や課員が詰めていた。
今、その司令部は脱力状態にあった。
誰も言葉を発しない中、ラバウル空襲部隊第2派の状況報告だけが淡々と
なされている。
第1派の残存機が、時折飛行場に着陸するが、窓から見える帰還機の姿は
は酷い状態だった。まともな機体はほとんど無い、乗員も歩いて降りる
ものと、アンビュランス(軍用救急車)に運びこまれるものが半々だった。
司令部がお通夜なのは無理もない、今日半日で第5航空軍は半数の機体と
乗員を失い、事実上壊滅したのだ。
第1派の損害が明らかになった時点で
ーもう中止すべきではないか、そのような声が幕僚から上がったが、ブリス
ベンの南西太平洋方面司令部から攻撃続行の命令が出ている中で、その選択
は取れなかった。
窓際で帰還機を見つめる第5航空軍のジョージ・ケニー中将の後ろ姿を
見ながら、情報課員のケネス・ロバート小尉は偵察写真ファイルを次々に
綴じていった。何かをやって気を紛らわせなければ持たない、司令部に漂う
重い沈黙は損害の数だけではなく自分達の未来をも予想していたからだ。
中将は左遷で予備役編入か、自分は激戦の続く中部ニューギニア戦線へ
の転属だろう。いや、俺だけじゃない。図面台の向こうには命令書の束を
めくりながら青い顔をしている作戦課員のクレンメンティ小尉がいた。
同い年で同期だが、G2(情報)とG3(作戦)の所属の違いのせいか馬が
あわないやつだった。
こいつも一緒に前線送りか、一瞬だが唇の端が吊り上がったのが自分で
もわかった。無論そんな変化は瞬時に打ち消す。
ロバート小尉は、考えうる最悪の未来予想を頭から追い出すと、机に高く
積まれている写真に向かった。一番上に日本軍のラバウルにある飛行場を
数日前に高空から撮影した写真が載っていた。
飛行場の駐機場は空いていた。
それを見てロバート小尉の手がとまった。
いつの間に、日本軍はあれほど大量の迎撃機を用意していたのだろう。
ニューブリテン島南方 赤毛のミランダ号
1943年11月4日 9:45
垂直降下で襲撃を行ったジャップのイシワーラ、連中がタイプ2と呼んで
いる戦闘機は下方から再び上昇を始めている。
「アツマレ、アツマレ」編隊指揮官機のサリバン大尉から、抜けた機の跡
を詰めるように指示がとぶ。
俺たちの編隊は中央部にいたためか他の編隊に比べると被害は少ない。
護衛機のP38は何処に行ったのか、全く姿を見せない。
「8時方向上空に敵機」
音声マイクに怒鳴ったために、割れた声が伝わってきた。
「高度差2000フィート、突っ込んでくる」
俺は風防に顔を押し付け、後ろを覗きこんだ。
ジャップの小型機は、それぞれ3機編隊に分かれ、矢じりの形で緩降下して
くる。
薄い機体色に赤のミートボール、エンジンカウルが機体より少しデカい。
馴染みの見慣れた機体、日本海軍艦上戦闘機ののジークだ。
「ジーク、ヴィック編隊、暖降下」
俺も叫んでいた。
ジークは暖降下を続けると、俺たちの編隊上空で胴体下から何かを放り出す
とそのまま右へ流れていった。
放り出された黒点は編隊のどの機にも当たらず、下方へ落ちていく。
次の瞬間それは爆発した。
「やつら飛んでる機体を爆撃しやがった」
さすがに機長も驚いている。幸いどの機体にも被害は無いように見える。
俺が機長に目を向けた次の瞬間、衝撃は上から来た。
今度の爆発は編隊の上空で起こった、弾片が赤毛のミランダ号にあたる金属
音が聞こえる。
爆撃は3派を数えた。幸いなことに俺たちの編隊で落とされた機体は無か
ったが、薄く燃料の漏れをおこしている機体がでている。
その機体は無線報告でやり取りをした上で翼を翻し帰還していく。
その時には、編隊の上空には再びタイプ2のイシワーラが群れていた。
その向こうには先ほどのジークが編隊をくんだまま上昇していくのが見えた。
畜生め、ジャップはまだやる気まんまんだ。




