第1部 米軍反攻作戦 序章
どこかの世界のどこかの大日本帝国です。この世界より経済発展をし、
もう少し幸運にみまわれ、幹部が小学生のようだと言われない組織を
用意しました。この世界の太平洋戦争ではポートモレスビー攻略戦
失敗後ぐらいから書き始めます。
南太平洋戦記-間に合った世界
米軍陸軍航空隊 ニューギニアオーエンスタンレー山脈上
1943年11月4日 8:35
B-26の機内通話は特定の相手だけに伝わる秘話回路などありゃしない。
通信士のバーンズがこっそり聞いている部隊間通話の内容を機長のロビンソン中尉に伝えることはすなわち機内の全員に伝わることとなる。
「先に行った部隊は酷い事になっとなります、指揮官機がみんなやられて、残っている連中も逃げとるようです」
アパラチア訛りの聞き取りづらい声が続ける。
「司令部からの問いには、誰も返事する者がおりません」
俺は横手のパイロット席に座るロビンソン中尉をチラリと見るが、中尉の表情は全く変わらない。
そう、我らが愛機「赤毛のミランダ号」の機長ロビンソン中尉は新米の俺などとは違い本物の爆撃機乗りだ。 ニューカレドニアの追撃戦やソロモン防衛戦を爆撃機乗りとして生き抜いた数少ないパイロットだ。タコマで戦時の短期訓練を受けてやっとこB-26マローダーを飛ばしている俺とは違う。
そう思うといくらか気が楽になった。
「右下に友軍機」
機銃手の強張った声が聞こえた。
かなりの高度差、おそらく7千フィートくらいの所をよろめくように低速でB25が1機反航してくる。
第1派の生き残りだ、あれで1万3千フィートもあるオーエンスタンレー山脈を越えれるのか。そいつは・・・という考えを頭から振り払うと担当しているエリアの監視に集中しようとした。
しかし忙しく動かす目とは別に、脳裏に沸き起こる思考は止められない。
俺たちの乗ってるマローダーよりも頑丈で武装も多いB25の編隊が粉砕される、それはかなりヤバい状況なんじゃないか。そもそも第5航空軍のお偉いさんも、だからこそ第1派にB-25を当て、第2派にそれより柔い俺たちB-26を当てたわけだ。
そこまで考えた時に気づいた、B-25が弱いんじゃない、ジャップが強いんだ。
でなければ、2個航空群96機のB-25が壊滅するはずがない。
「編隊を密にするように指揮官機が言っとります」
バーンズが指揮官機からの連絡を伝えた。
先の第1派が壊滅していることは指揮官機も知っているはずだが、編隊長のサリバン大尉はやりきるつもりだ。
日本陸軍第574野戦電測監視哨 ニューギニア某所
1943年11月4日 8:05
「発信、方位高度そのまま」
纐纈少尉の声が聞こえた、轟伍長はダイヤルスイッチを回して波を出しはじめた。電波警戒機は波の発信こそしないが既に通電で暖気してある。
「感度大、敵第2派と認める」
「規模は?」
「先とほぼ同じ、同高度」
電信兵は既に報告のための暗号を組み終わっている。
「最大強度で発信」
そう命令した纐纈少尉の顔は気持ち上気しているように見える。何日も風呂に入っていないのでよくわからないが無理もない、それは波を出したからには場所が露見したことになるからだ。
轟伍長たちの部隊は、より前方に配置されている潜入監視員からの電鍵連絡を受けると、その方角にむけて短い間電波発信をおこないそれを後方へ伝えるという役割を担っていた。
さらに後方の設備の整った監視哨は友軍機の誘導をも行うと聞いていたが、それを見たことはなかった。
日本陸軍C8NS空中式指揮官機 ダンピール海峡上
1943年11月4日 8:20
「ダカワからは何機上がる?」
飛行総隊指令の紅田陸軍少佐は機内の中央にある縦板に貼り付けられた航空図を見ながら聞いた。
「8機の2式重と3機の2式が出ます」
側面に備え付けられた多数の無線機に取りついていた一人の通信兵が答える。
「モミは全機上げろ、ブタはやはりだめか?」
「修理に今日一日かかるとの返事が来とります」
「ヴナカナウより入電、現在全機発進中」
「ケレヴァとマラガナは空中待機に入りつつあります」
鉛筆で敵編隊が書き入れられた航空図をみながら、紅田少佐は頭の中で加減算を行っていた。
来襲する米軍機が先の1派と同じB25なら全く足りない、いや護衛のP38の数が多い場合はさらに問題だ。
こいつを使うか、紅田少佐はニューギニア北岸を西へ向けて退避中の輸送船団の印に眼を落としていた。確か指揮官は陰山大尉とか言ったな、以前にラバウルで合った海軍士官で物分かりのよさそうな風貌だった。
「N-501船団を呼び出せ」
紅田少佐は命じた。
米陸軍航空部隊 ダンピール海峡南方上空 赤毛のミランダ号
1943年11月4日 9:30
ジャップの迎撃機は初め小さな黒点の集まりに見えた。
それは直ぐに左右に分かれ、距離を詰めてきた高度はこちらよりやや高い。
味方の護衛であるP38も2つに分かれ高度を稼いでいる。
ジャップは上空で機体を捻り光らせると、文字どおり突っ込んできた。
識別表で見慣れたオリーブドライや白めの淡色ではない、ジュラルミン無塗装のトニーだ。
鼻のとがった液冷エンジンのその機体は、日本機の中では速度が早く重戦のP38から見てもなかなかやっかいと聞く。
その空中戦の中を俺たちは進んで行く、まだ殺られた機体はない。
そのとき、いきなり背の機銃座が撃ちだした。いやコパイ(副操縦主)席からは全く見えない。数瞬後、そいつは突然現れた。隣の4番機シルバーバックス号の翼の横を垂直にジャップの機体が落ちていった、いや落ちて行くように見えた。
次の瞬間シルバーバックス号の右の翼は根本から折れると、石のように落ちていった。
「ヘビータイプのイシワーラだ、35ミリを積んでいる」
ロビンソン中尉が前方を睨んだまま絞り出すような声で言った。
「ローラーリズと激しいジャネットが殺られた」
後部銃手のサンチョの声が聞こえた。
風防に手をあて見渡すとあちこちから墜落した煙の尾が見える。
右手の飛行隊は指揮官機が落とされたらしく、次席の機体が指揮官機
の位置に付こうとしている。が、また直上から降下してきたジャップに
撃たれてよろめいている。
運が良いのか悪いのかわからないが、通常タイプのイシワーラに撃たれたようだ。




