第4部 遠い島 第6章 上陸作戦
ブーゲンビル島 タロキナ海岸 アメリカ陸軍:飛行場中隊上陸用舟艇
1943年 12月20日 10:10
舟艇が乗り上げたのは、海浜に流れ込んでいる幅60フィートほどの河川が作った、釣り針型の小石と泥で出来た砂州であった。
既に早朝から始まった上陸は第3派の上陸を終え、海岸一帯は上陸用舟艇や、降ろされた物資で埋め尽くされていた。このため飛行場中隊は着上上陸する場所がなく、河川の河口内部で上陸できると司令部が睨んだ場所に放り出されていた。横では戦車揚陸艇が泥の深さに苦労しながらM4戦車をなんとか上陸させようと藻掻いている。
タロキナへ上陸したのは、アメリカ陸軍第1騎兵師団とオーストラリア陸軍工兵大隊、そしてアメリカ陸軍第5航空軍の飛行場中隊であった。
上陸順はこの順で、今は最後の航空支援隊と重機材輸送隊が揚陸作業を行っていた。
元第5航空軍司令部付きのケネス・ロバート少尉はこの飛行場設営中隊の基地本部情報士官として今この地を踏みしめていた。
あたりには、木の焦げた匂い、油脂の燃えた匂い、腐った植物の匂いなどが入交り、いわゆる熱帯戦場特有の空気が漂っている。昨晩の艦砲射撃は彼の上陸した場所から北西へ離れた場所に投射されたので、まわりは未だ鬱蒼とした背の高い密林に覆われていて、周囲の様子は全く窺い知ることはできなかった。
ある程度覚悟はしていたが、現状は彼の予想を上回るもので、これまでの洗いざらしの服、毎日のシャワー、きれいな新しいシーツとは完全に縁が切れたという現実を彼に突き付けていた。
乗船していた輸送船から上陸用舟艇に乗り移る直前に聞いた情報では、上陸地点で日本軍は全く見かけず、艦砲射撃により後退しているのではないかということであった。
飛行場中隊は当初の予定と違った地点に上陸したため、正確な現在地も判らず、無線による問い合わせに対し上陸司令部からはしばらく待機せよと、突き放した指示が返ってきた。
このため部隊は、その開けた砂州の場所から密林の傍まで移動することとし、彼らの主任務兵器である大型航空用無線機や発電機、燃料や個人装備を抱えて、ぬかるむ泥の中を歩き出した。
部隊が大汗をかいて樹木林の傍まで到達したときに、主力が上陸した方角から重い重機関銃の音が聞こえだした。すぐにBARやカービン銃のは発射音も混じり始める。
音が聞こえだした時点で、部隊は近くの窪みや倒木の陰、水流が作った小規模な崖下に身を隠していた。
ロバート少尉は水流が作った崖下に身を隠していたが、少し離れた場所で、本部指揮官のオーリハン大尉が上陸司令部を野戦無線機で呼びだしているのが聞こえてきた。
「そうだ、発砲音が盛大に聞こえる」
「・・・・・・・」
「なんだと、同士撃ち、わかった待機する。こちらからは以上、交信を終わる」
送話器を通信兵に返し、思案顔のオ-リハン大尉に中隊先任上級兵曹長が背を屈めて走り寄ってきた。
「大尉、あの音が判りますか?」
「どの音だ?」
オーリハン大尉は顔を射撃音のする方角にむけると言った。
「たまに聞こえる爆発音です、そしてその前によく聞くとガスの抜ける音がします」
上級兵曹長は眉間のシワをさらに深めると
「自分はニューギニアのラビへ派遣されておりましたときに、あの音を嫌というほど聞きました。あれは日本軍のニーモーターの音です」
「あれか、小型の迫撃砲というやつか」
「そうです、何故か射撃音は我々のものしか聞こえませんが、あの発射音は間違いありません」
オーリハン大尉は、通信兵を向くと彼は既に送話器を差し出していた。
「マンディ、マンディ、こちらジャイロ、送れ」
「ジャイロ、こちらはマンディ。送れ」
「マンディ、こちらジャイロ。報告する。日本軍のニーモーターの発射音がする。確認してくれ、本当に同士撃ちか?」
「ジャイロ、こちらマンディ、少し待て」
上陸司令部からの返答には慌てている様子がうかがえた。
「ジャイロ、こちらマンディ。日本軍の砲撃を確認した。対処を行う、そちらは済むまで待機していてくれ。送れ」
「マンディ、こちらジャイロ、了解した、交信を終わる」
大尉が通話を終わり、将校用雑嚢から地図を出し広げだしたときに砂州から乾いた不規則な音がし出した。見ると砂州に揚陸されたM4戦車が3両、こちらに向かってゆっくりと進んでくる。




