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南太平洋戦記-間に合った世界  作者: 鴨下英二
第2部 マッカーサー・キャンペーン

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第2部 マッカーサー・キャンペーン 第3章 泥田坊

ブーゲンビル島 タロキナ 舞鶴第4特別陸戦隊

1943年 10月14日 7:30


 夜泣きトカゲの声には未だ馴れない。

起きると、各小隊、分隊ごとに受け持ちの地域に散っての土工工事を開始する。

聞いた話によると、朝は点呼のみで、訓示などは随分前に無くなったとの事。

 暗い密林の下、場所によっては膝まで没する泥の中へ入ると、北丹2等水兵は

何度も欠伸をかみころしつつツルハシをふるい、昨日の続きの水路掘りを始めた。

 密林の中は暑いというより蒸す、全部脱いで褌一本で堀りたいところだが、こ

こには天敵がいる、マラリア蚊、ヒル、名前も知れぬ虫々、とても脱いで働くわ

けにはいかない。

 昨日の朝、テント前で同期の咲田2水に、これじゃ舞鶴土建隊じゃ~と言うと。

咲田2水は少し笑って

「ほれ、お前の足元を見ろ」という。

北丹2水は、眼を落して足元を見るが、乾いた硬い地面が広がっているばかりで

なにも見えなかった。

「あのな、俺がここに来た頃はこの辺りは泥田のようじゃった、スコールのあと

は立って寝ておった」

「すると、これは溝堀の効果なのか?」

「ああ、それだけじゃない。地下に割石を入れた排水路もある。宿営地廻りは

特に念入りにしろとの司令のお達しじゃ」

「う~ん、すごいもんだなこれは」

「だろ、この前ブインの水上機の操縦士としゃべったが、昔に比べてこのあたり

は川が増えて、上空から見ると海べりに濁りの線がいっぱいできとるそうじゃ」

そう言って咲田2水は横手にあるケーブルショベルの運転席によじ登った。

始動スイッチが入り、後ろから始動の際の白煙が盛大に吹き上がった。

 これも北丹2水にとっては不思議で、作業でこれほど土木機械が使われている

工事は本土でも見たことが無い。

 咲田がショベルの運転をしていると知ったときも驚いたが、それらの機械のほ

とんどがアメリカ製であったことも驚きの一つだ。

 その時に、これはどうしたことかと咲田2水に聞いたところ、キョロキョロと

辺りを見廻してから、これは秘密じゃから他に言うなと前置きしてから

「鹵獲品の横流しと盗みじゃ」

と小声で囁いた。

「それは、またごつい銀バエじゃなぁ」

驚いて言うと、咲田2水は唇の前に指を1本立てた。



ブーゲンビル島 タロキナ 舞鶴第4特別陸戦隊

1943年 10月14日 23:00


 宿舎のテントのハンモックで寝に入っていた北丹2水は、ショウエイマルが来た

という多数の声で目が覚めた。慌てて起きだし、蚊燻の煙にむせながら皆と一緒に

飛び出し海外線へ走った。

 月明りで外はかなり明るい。

 河口の内側に隠されていた、大発2隻は既に沖へ向かっている。岬のすぐ沖にあ

るプルアタ島の島影に停泊している貨物船の船影が見える。

 あれが舞4直轄の貨物船か、いやその話は本土に居た時分聞いていたが眉つばだ

と思っていた。

 海岸には司令の源文朗大佐の姿も見える、肉の厚い体に髭面、見た目は学校の

配属将校のような姿をしている。

 そして、ブーゲンビルで北丹2水を驚かせているほとんどの物は源大佐の持ち

込んだものだ。

 正直よくわからない人だと北丹2水は思っている。

 デリックで降ろされた荷を積んだ大発が帰ってくると砂浜に乗り上げた。

前口が開き、皆2列になって積み荷を浜へ運び出していく。

 一斗缶に入った燃料、大量の食糧、甘味や煙草、医薬品、武器、弾薬等々、

大発は5往復した。

 最後にキャンバスの浮が周りに付いたごつい筏の上に戦車、北丹2水にはそれが

戦車に見えたものを牽引して帰ってきた。

 土盛や板を引いて浜へ上げたその傍に源大佐や陸戦隊の士官が集まり、なにやら

見聞している、一人が「・・・ブレンガンキャリア」と呼んでいるのが聞こえた。

 どうも新しく銀バエした土木重機、そのときには戦車でないことがわかったが、

ブレンガンキャリアというらしい。

 照栄丸は、喫水の上がった姿で碇をあげ、かなりの加速で出てゆく。

ありゃあ、蒸気タービン船だな、漁師の家で育ち海軍へ入った北丹2水はそのあた

りだけはかなり勘所が働く。

 

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