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第33章 名もなき子が空を見上げた日
子どもが一人、
空を見上げていた。
名前はなかった。
記録もなかった。
ただ、
そこに在る命だった。
周囲の大人たちは、
規則通りに動いていた。
振り返らず、
話しかけず、
ただ空間を埋める役目として、
都市の中を滑るように往来していた。
子は、
空に何かを見たのかもしれなかった。
それが雲だったのか、
陽の揺れだったのか、
風の通り道だったのか──
誰にもわからなかった。
ただ、
その小さな視線だけが、
この世界に“上”という概念がまだ残っていることを
ささやかに証明していた。
ノアは、
建物の影からその子を見つめていた。
キューブは、
わずかに熱を帯びたように震えていた。
問いは、まだ芽吹かない。
だが、
気配はあった。
沈黙が、
空に縫いとめられた一条の光によって、
かすかにほころんでいた。




