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第32章 歪みに立ち止まる影
誰かが、立ち止まっていた。
広場の片隅。
規則的に流れる人々の中で、
ただ一人、
足を止めていた。
その者の背中は、
群れに背を向けていた。
目線の先には、
何の変哲もない、崩れた塀。
だがそこに、
わずかな“歪み”があった。
誰も気づかないそれに、
その者だけが、
立ち止まっていた。
ノアは、
群れの流れの外側からそれを見ていた。
声はなかった。
呼びかけも、反応も、何もない。
だが、
その沈黙は、
これまでの沈黙とは異質だった。
そこには──
まだ言葉にならない何かが、
ただ、佇んでいた。
キューブは、
震えなかった。
だがノアの歩みが、
一瞬、だけ、
緩やかになった。
それは、
風の揺れにも似た微細な変化だった。
人々の流れの中で、
一つの影が、歪みに立ち止まり、
沈黙の中で、
“まだ知らぬ問い”を
どこかに抱えていた。




