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第14章 忘れられた産声
霧が、地を這っていた。
ノアは、
白くぼやけた世界の中を、
一歩ずつ、進んでいた。
遠く、かすかに声が聞こえた。
それは、
誰かが、
何かを訴えるような、
小さな叫びだった。
だが──
町に近づくにつれ、
その声は、
かき消されていった。
通りを歩く者たちは、
誰も顔を上げない。
誰も耳を傾けない。
産声は、
誰にも届かなかった。
この町では、
生まれたはずの何かが、
最初から存在しなかったことにされていた。
問いも、
願いも、
始まりも。
すべてが、
なかったことにされていた。
ノアは、
静かに立ち止まる。
彼の背後で、
霧が波打つ。
ふと──
霧の中から、
小さな影が顔を出した。
震える手が、
何かを掴もうと、
空をさまよった。
だが、
誰もそれを見なかった。
ノアだけが、
静かに、
その小さな影を見ていた。
そして、
何も言わず、
何も求めず、
ただ、
そこに在ることを、
肯定するように、
一歩、踏み出した。
霧が、
静かに、
流れていった。
産声は、
まだかすかに、
どこかで鳴り続けていた。




