表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サービス終了したオンラインゲームに取り残された二人の話  作者: 十兵衛
第四章 魔王城へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/48

第39話 トトという黒魔導士について③




「ねぇ、イヨ君。あの子どうだった? トトって子」


 探索を再開してすぐ、ネコさんが小さな声で言った。

 ネコさんは先程の休憩のタイミングで長い髪を一つに括っていた。普段はそんな面倒な事をしないタイプの人なので、俺はその珍しい姿を眺め見た。


「どうって? どういう意味ですか」


 質問の意図がいまいち理解できなかった。


「どうもこうもないよ。率直な感想でいいからさ教えてよ。ほら、顔が可愛いだとか、背が低いだとか、良い匂いがしただとか、何か感じたでしょ?」


 そんなことを言われても何て答えればいいんだ。俺はトトと呼ばれる少女との短い交流を思い出してみる。


「えーっと、悪い人ではなさそうでした。それと、気が弱そう。あとはー、将来太りそうかなと思いました。やたらにクッキーばかり食べてたから」


 俺はネコさんの注文通り、出来るだけ率直に感想を述べた。

 ふと、そのトトさんの様子が気になって振り返ってみると、彼女はミツメの後ろをふらふらと一人で歩いていた。俺の失礼な感想は聞こえてなさそうだ。


「うーん、まぁ、イヨ君らしいか」


 ネコさんは小さく笑ってそう言うと、俺を追い抜いて先頭を歩き出した。ネコさんの背中では、今しがた結ばれたばかりの黒い髪が右に左に軽やかに揺れていた。




「そろそろ目的地につくはずだけど、用意はいいかな」


 目的地である地下六階に到達し、俺たちは各自で装備を整えていた。ここまでは大きな問題も無く順調に進むことが出来ていた。誰も脱落すること無く、装備も物資も万全に近い。ただ、一つ気になる事があるとすれば、地下五階から六階にかけて出現するモンスターのレベルが大幅に上がっていたことだ。

 地下四階までに出現していたモンスターの平均レベルが三百程度なのに対し、地下五階の平均レベルは四百五十、地下六階では六百レベルに近いモンスターまで現れていた。他のダンジョンで言えば文句なしのボス級モンスターが、このダンジョンでは平然とそこらへんを歩いているというおかしな状態だ。


「大丈夫です。あ、でも、念のためにもう一度支援魔法を貰ってていいですか」


 俺はステータスを確認してから言った。時間経過のせいか、少し前に掛けて貰った支援魔法の効果が幾分弱まっていた。


「あ、はい。ちょっと待ってて下さい」


 トトさんは手早く呪文の詠唱を済ませ、パーティー全体に自動回復の魔法と状態異常抵抗の魔法、各属性への抵抗魔法を唱えてくれた。そこまでレベルは高くないと聞いていたが、魔法の練度はそれなりに高そうに見える。


「それじゃあ、作戦の確認をしましょうか」


 頃合いを見てネコさんが話し始めた。


「まず、前衛はイヨ君とトッドさんに任せます。そして、中衛は私とミツメ君が担当します。ミツメ君はどちらかというと前よりに出て貰って、私は基本的に後衛のカバーに回ることにします。後衛はレイオンさんとトトちゃん。ただ、このダンジョンは魔法攻撃が有効なモンスターが多いから、多分黒魔導士のレイオンさんを優先して守ることになると思う。ごめんね、トトちゃん」


「い、いえ、全然大丈夫です」


 トトさんは小さな頭を小刻みに揺らしながら答えた。


「全員、帰還のお守りは持ってるよね?」


 ネコさんがそれぞれの顔を見渡して言う。

 帰還のお守りとは、プレイヤーが瀕死になった際、自動的に近くの町に転送されるというアイテムだった。このゲームではプレイヤーが死亡した際は基本的に何かしらのペナルティを与えられてから王都にリスポーンする仕様なのだが、そのペナルティを回避できるという冒険者必須のアイテムの一つだった。


「大丈夫です」


 全員が今一度バッグの中身を確認して答えた。


「それじゃ、張り切って行こうか」


 ネコさんの掛け声と共に、俺たちは再び歩き始めた。



「あのー、イヨさんってレベルいくつなんですか? あ、もちろん答えたくなかった答えてもらわなくて大丈夫です。ちょっと気になっただけなんで」


 隊列が変わり、隣を歩くことになったトッドさんが話かけてきた。

 トッドさんは俺やミツメと同じく剣士だった。しかし、これまでの戦い方や装備を見る限りでは、剣士としての経験はそこまで多くはなさそうに感じた。おそらく本職は別の職業なのだろう。


「昨日で八百三十六になったところです」


「ひぇー、八百代ですか。やっぱりダントツでレベルが高いですね。ホント凄いや。私なんか全然で、先週にやっと五百五十レベルになったところです。ちなみに、イヨさんってレベル上げはどうやってるんですか?」


「最近はクエストに行くことが多いです。夜になるとどこのフィールドも人がいっぱいなんで」


「あー、やっぱり今はクエストですよね。分かります分かります。クエストの装備とかはどうしてます? やっぱり火力重視ですか?」


 トッドさんはぐいぐいと距離を詰めてくるタイプのようで、それからもしきりに細々とした話題を話投げかけてきた。

 俺は何度か聞こえないふりをしてやり過ごそうかとも考えたが、先程のネコさんの振る舞いを思い出して適当に返事を返すことにした。



「おーい、ちょっと止まって。後ろから何か来てるよ。みんな準備して」


 少しして、ネコさんの声が全体の足を止めた。

 ネコさんの職業はレジェクエ内でも珍しいと言われる『天使』と呼ばれる職業だった。その職業への転身方法は未だ解明されておらず、一説では数万人に一人の確率で『天使』という職業が付与されるとも言われていた。


「トトちゃんとレイオンさんは私から離れないでね。聖なる盾(ホーリーシールド)


 その特徴は、どの属性とも異なる『聖属性』と呼ばれる魔法が使えることだった。この『聖属性』の魔法は味方へのサポートに特化しており、索敵や防御、回復などをまとめて高水準でこなせる後方支援の万能魔法だった。


「イヨ君とトッドさんは前に出て、ミツメ君はひとまず待機で」


 ネコさんは各自に指示を出しつつ、次々に支援魔法を展開させていった。俺とトッドさんには索敵と魔力感知の能力を上げる付与魔法を、ミツメには移動速度上昇の浮遊魔法を、そして、パーティー全体には防御力向上の付与魔法を素早く唱えていた。


「イ、イヨさん、何かあったらよろしくね」


 少し怯えた声でトッドさんが剣を構える。

 

「頑張りましょう、トッドさん」


 ネコさんの索敵魔法のおかげで視界がクリアになり、まだ遠くにいる敵の姿も明確に捉える事ができていた。

 そいつは茶褐色の短い体毛に覆われた獣人だった。狼を思わせるような細長い鼻先と鋭い牙を持ち、黄色く濁った瞳が獲物を値踏みするように静かに動いている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ