第38話 トトという黒魔導士について②
「いやいや、どっちでもよくないよ! 何を言ってるのミツメ君!」
ネコさんが慌てて訂正に入る。それからネコさんは相手方に何度も「すみません」と頭を下げ、最後にミツメの頭を軽く小突いた。
「それにしても、本当になんでウチみたいな中堅のギルドを誘ってくれたんですか? ウチより強いギルドなんていくらでもあったでしょう?」
今しがたのいざこざもあり、全員で一度休憩を取ることとなった。
現在地は『忘れられた廃坑』と呼ばれるダンジョンの地下三階だ。討伐対象のゴブリンロードは地下六階に棲んでいるという報告を貰っているので、この辺りで丁度折り返し地点を迎えたところだろう。
「討伐クエストっていうのはですね、強さだけじゃないんですよ。人と人の相性だとか、気遣いだとか、様々な要素が噛み合って、それでやっとクエストを達成出来るんです。要はですね、大きな歯車と小さい歯車がこう、ピッタリと――」
白き翼のヘペロニの面々の前で、ネコさんはしたり顔で語りだした。しかし、その内容のほとんどは口からでまかせのようだった。
なぜならネコさんは「強さだけじゃない」なんてことを絶対に言わないからだ。むしろあの人ほど「個人の強さ」を重要視してる人はいないだろう。つまり、あの演説にも何か別の意図があるはずだ。
「イヨ、あれ止めてくれば?」
ミツメが俺の隣にやってきてぼそりと零した。
「いやだよ。どうせ面倒なことになるし」
俺は短く返事をし、軽食に手を伸ばした。それはネコさんがみんなの為に用意してくれた軽食だった。敷き布の上に干し肉、パン、チーズ、ドライフルーツ、クッキーなどがずらりと並べられている。
「あ、すみません」
干し肉を取ろうとした時、誰かの手とぶつかった。
「こっちこそ、ごめんなさい」
その手は敷き布に並んだクッキーを一列まるごと持ち去ってから言った。
なんだか随分と図々しい奴だな。そう思ってゆっくり顔を上げると、そこには銀色の髪を肩で揺らす、柔らかな顔つきの少女がいた。
「えっと、トトさんでしたっけ。白魔導士の」
「はい。たしか、イヨさんでしたよね?」
今回の討伐クエストは『黒猫の尻尾』と『白き翼のヘペロニ』それぞれのギルドから三人を選出して遂行することになっていた。黒猫の尻尾からはギルドマスターであるネコさんをはじめ俺とミツメが選ばれた。一方、白き翼のヘペロニからは同じくギルドマスターであるトッドさん、副ギルドマスターであるレイオンさん、それに加えてこのトトという少女が選ばれていた。
「アレ、聞かなくていいんですか?」
俺は少しだけ意地悪くネコさんの演説姿を指差した。相変わらずネコさんはいい加減なことを熱を込めて話しているようだった。そんなホラ話を至極真面目に聞き入っているトッドさんとレイオンさんも、それはそれで問題なのだが。
「戦いとかクエストとか、私は良く分からないから。こっちの方がいいんです」
トトさんはクッキーを手に取って小さく笑った。
「マカロニも人手不足なんだな」
ミツメが小さな声で言った。ミツメ自身は俺にしか聞こえないように配慮したつもりなのだろうが、そもそもそんなことを口にすること自体が間違っている。
「あとでネコさんに言いつけてやるからな」
俺はそう言い、立ち上がる際にミツメの後ろ頭を叩いた。
「トトさん、お茶飲みますか? 取ってきますよ」
「いいんですか? じゃあ、いただきます!」
実力はひとまず置いておくとして、トトさんは悪い人ではなさそうだった。あとは、クッキーをよく食べる女の子。
それがトトの第一印象だった。




