第37話 トトという黒魔導士について①
トトという黒魔導士の恐ろしさを知ったのは、初めて彼女とクエストに行った時のことだった。
当時の俺は自身の実力を過信しており、自分と並ぶプレイヤーなどもはやこのゲームには存在しないと思っていた。当然、どんなクエストを受けようとも、どんなモンスターが現れようとも、俺はパーティーの先頭に立って敵を倒し続けていた。
その日もそうだった。コボルトロード討伐と呼ばれれる当時では最高難易度のクエストを受け、俺は仲間たちの先頭に立ってダンジョンを進んでいた。
「いやー、まさか、あのイヨさんとパーティーが組めるとはね。このクエストも意外と簡単にクリアできちゃうかもな」
「たしカニたしカニ。チョキンチョキンってか」
最後尾を任せた二人のお気楽な会話が聞こえてくる。あの様子では後方の守りはほとんど期待できなさそうだ。
「ですってよ。イヨ君は相変わらず人気者だね。こりゃ、ウチも当分は安泰だ」
「やめてくださいよ、ネコさん。別に人気でもないですし」
「またまたー、このこのー、人気者め! 羨ましいぞ!」
隣を歩いていたネコさんが俺の横腹をつついて言った。
ネコさんはその名前の通り自由気ままな人だった。このクエストを取ってきたのも彼女であり、このパーティーを編成したのも彼女だ。何かしらの思惑があるのかないのか、ネコさんはいつも急に俺を連れ回すことが多かった。
「サチさん、これ終わったら俺はログアウトしますよ。勉強があるんで」
「あぁ、ごめんねミツメ君。そろそろ試験の日だったよね。頑張るんだぞ。お姉さん応援してるからね! ファイト!」
「あ、そういうの結構です。逆にやる気なくなるんで」
俺とネコさんの少し後ろを歩いていたミツメが言った。
ミツメは俺の一個上で、少しひねくれた男だった。ギルド内でもほとんど誰とも交流せず、気の向いた時にだけギルドハウスに現れては誰も手を付けないような高難易度のクエストを一人で黙々と片付けていた。
あと、ネコさんのことをなぜかサチさんと呼んでいる。
「ネコさん、今日はどうもすみませんね。ウチみたいな中堅ギルドを誘ってもらっちゃって。今度改めて黒猫さんとこにお礼に伺いますから。いやー、それにしても、黒猫さんとこの三人がいると心強いですよ、あはははは」
最後尾を任せていた男の一人がやってきて言った。名前はトッドと言っただろうか。詳しくは忘れたが、どこぞのギルドのギルドマスターだったはずだ。
俺はゆっくりと足を止め、振り返った。ダンジョン攻略を開始してもなお気が抜ている彼に対し、文句の一つでも言ってやろうと考えていた。
「あー、いやいや、いいんですよ。ウチとしても『白き翼のマカロニ』さんに来て貰えて助かってるんですから。ね、イヨ君?」
俺が口を開こうとした時、ネコさんがすかさず俺の前に出てきて言った。恐らくは何も言うなということだろう。
「いや、まぁ、そうですね」
「って、ことなんですよ。お互い上手くやりましょうね、あはははは」
不服そうな俺を見かねてか、ネコさんは俺を隠すように更に一歩前に出た。
「いや、そう言って貰えるとありがたいですよ。あ、それと、これは本当に些細なことなんですけどね。うちの名前は『白き翼のマカロニ』じゃなくて『白き翼のヘペロニ』なんです。いや、ホント、紛らわしくてすみません」
男が恐縮したように小さく言う。
「ヘペロニ、ですか?」
「ヘペロニ、なんです」
二つのギルドの長同士が困ったように顔を見合わせていた。
「……どっちでもいいでしょ。マカロニでもヘペロニでも」
その時、冷え切った空気を更に冷やすようにミツメが言い放った。




