第34話 サクサク
「もしかして泣いてる? イヨ君」
門兵の男に教えてもらったブルーバードという店を探す道中、事ある毎にトトが俺の顔を覗き込んできた。路地を曲がるたびに「泣いてる?」立ち止まるたびに「泣いてる?」果てには、少し目を擦っただけで「泣いてるね、イヨ君」と決めつけられる始末。
「だから、泣いてないって言ってるだろ。しつこいぞトト」
俺はついに立ち止まって反論した。
「でも、ルイスさんに帰りを待ってるって言われた時、イヨ君、目をウルウルさせてたよ。私見たもん。この目でしっかりばっちりとね」
トトは親指と人差し指で両目をぐいっと開いて言った。
「そう見えただけだろ。気のせいなんだって」
「いーや、イヨ君は絶対に泣いてた! 間違いないよ」
ここにきて再び頑固なトトが顔を出していた。トトが何故そこまで泣いた泣いてないにこだわるのかは分からなかったが、俺は絶対に認めないと心に決めていた。
「素直になればいいのに。私は羨ましいって思ったよ。色んなところに書かれてた落書きとか悪口とか、ずっと待ってくれてる人とか。いいなーって」
そう言ったトトは不貞腐れたように俺の前を歩き始めた。その姿を見て、俺はふと数年前のとある出来事を思い出した。
レジェンドクエスト最強の黒魔導士はいつも一人ぼっちだった。
誰よりも強くて優しかった彼女は、いつも誰かの為にモンスターを倒していた。倒して倒して倒して、それでも彼女の力を求める声は止まなかった。
そういったしがらみに疲れたのかうんざりしたのか、ある日を境に彼女は人前から姿を消した。所属していたギルドを抜け、フレンド登録をリセットし、引退したという噂まで広まっていた。しかし、そんなある日、俺は偶然にも彼女に出会う。
彼女は誰も寄り付かないような最果ての地――古代種のドラゴンが眠る深い森の奥で、一人で泣きながらお菓子を食べていたのだ。
「トトも泣いてたけどな」
「なんの話、イヨ君。全然泣いてないよ私は」
俺がぼそりと零すと、トトがすぐに聞きつけて振り返った。
「いや、なんでもない」
その時、通りの向こうに青い鳥が描かれた看板を見つけた。
「わ、思ってたより全然大きいや。美味しそうだねー」
運ばれてきたイチゴ味のかき氷を前に、トトはすっかり機嫌を戻していた。店に着くまではさんざん口先を尖らせてツンケンしていたというのに、今では口元が緩みっぱなしだ。
「イヨ君のはメロン味だったよね。一口貰っていい?」
「いいけど、食べ過ぎて腹を壊したなんて事になるなよ」
「大丈夫、大丈夫」
スプーンを持った手を伸ばしながらトトが言う。
「この後は、馬車に乗って隣の町に行くんだよね?」
「ちゃんと馬車が動いてたらな。もし動いてなかったら他の方法を考えないと」
「そっかそっか。でも、大丈夫だよ、きっと」
サクサクと軽快な音を立てながらトトがかき氷を食べ進めていく。
「なぁ、トト。この街で買い足していく物とかは特に無かったよな?」
サク。
「うん、大丈夫だと思うよ。お水もまだ十分に残ってるし」
サクサク。
「それじゃ、鑑定屋に寄ってから馬車乗り場に向かうか。ロコンさんに貰ったこの服を鑑定に出したいんだよな」
サクサク、サク。さっきからかき氷の山を崩す音がやけにうるさかった。
「トト、もう少し静かに食べろ……よ。あれ?」
予想とは裏腹にトトはスプーンなど持っていなかった。それどころか、トトは自分の側頭部を両手で必死に押さえながら悶絶していた。状況から察するに、早食いでもしたのだと思う。では、この音はどこから?
サクサク、サクサク。
「いててて、あれ? イヨ君、その子だれ?」




