母の子守唄
点線を境に場面がかわります。
広島市につづく一本の道。わきに古い大きな木がある
その木は、何十年もの間、いろんなものを見てきた。
子供が側で遊ぶなんて
もう何百回と見てきたし、今でも野球や虫とりをする子供達を見る。
その度に、
木はあのことを思い出す…
最近では夜になっても
木の側の道を通る人が見えるようになった。
とは言っても、
そのほとんどは車だ。
広島の街も、
すっかり都会になってしまい、
木の葉に街の光が反射する。
まぶしいが
あのとき広島を染めていた
赤くおそろしい光よりは、
マシではあったが。
ある夏の夜。
木は子守唄を聞いた。
美しく、優しい歌声だった。
母親が幼い娘に歌っているようだ。
二人は幸せそうだった。
しかし木は、
それをみて悲しくなる。
あのことを思い出したのだ。
辛く、悲しい
ヒロシマの悲劇を。
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その日の朝。
広島は快晴だった。
B−29(アメリカの大型爆撃機)は作戦開始の合図を受けると、
3メートルにおよぶ爆弾を、
広島の街におとす。
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「あさひ!」
母親の声が外から聞こえた。
あさひは家から裸足のまま外に出ると、
母親の指差す空を見た。黒く、大きな鳥のようなものが飛んでいた。
「ひこうき!」
あさひはワクワクした
そんなあさひに母親は
静かに言う。
「お父ちゃん、あれをやっつけているのよ」
「どうして?」
あさひにはわからなかった。
「あの飛行機はね、お母ちゃんやあさひをコロしてしまうの。」
「あさひを?」
「そう。だからお父ちゃんがそうさせないようにやっつけるの。」
「ふ〜ん」
「あさひ、家を燃やされちゃったわよね?あれもあの飛行機の仕業なのよ」
「おうち………」
あさひは、はっと何かを思い出すと、叫んだ。
「かくれなきゃ!」
「大丈夫よ。警報もならないし、またいつもの偵察飛行でしょ。」
あさひには、
警報も、偵察飛行もなんのことかわからなかったが、
大丈夫だと聞かされると、
家にもどり、
支度をして学校に向かった。




