第2話・発想の勝利ってやつ
「爆発と……道具を組み合わせる」
フィリアは、剣が飛んでいった道を見つめていた。
爆発の威力を高めることばかり考えていた。巻き込む範囲が広すぎるなら、使うのを諦めるしかないと思っていた。
それを、剣を飛ばすために使う?
こんな発想……今まで一度もなかった。
「次は君の番だ、やってみな」
ラインに促され、手元の杖を見る。
使う魔法は同じ。さっき見せられた程度の爆発なら、自分にも簡単に起こせる。
しかも、自分ならもっと数を増やせるはずだ。
「……皆さん、剣を貸してください!」
兵士たちが顔を見合わせる。
しかし先ほどの一撃を見た彼らは、すぐに腰の剣を抜いた。
「これを!」
「こっちにもあります!」
かき集めた剣は10本。
フィリアが魔力を通すと、それらがゆっくり宙へ浮かんだ。
横に並んだ剣先を、それぞれ異なる方向へ向ける。
道の中央にいる集団。
窓から身を乗り出した弓兵。
住宅の間へ潜り込み、こちらの隙を窺うゴブリンたち。
「あの建物に住民は?」
「避難済みです! 味方も全員こちらへ下がっています!」
ならば撃てる。
敵が防衛線を作るために陣取った家屋。
その窓や戸口へ、1本ずつ狙いを定めた。
巻き込む人間はいない。あとは剣の後ろで爆発を起こすだけ。
杖を構えたフィリアの周囲で、魔力が膨れ上がった。
「––––『レイドブラスト』!!」
轟音が重なる。
10本の剣は爆発による加速を受け、残像を残して消え去った。
「ガッ……!!?」
先頭のゴブリンが、背後の仲間ごと吹き飛んだ。
窓を盾にしていた弓兵は上半身を貫かれ、そのまま室内へ叩き戻される。
家屋の間で身を低くしていた一団にも、逃げる暇はなかった。
剣は盾を砕き、その奥の鎧を突き破り、さらに先の敵までまとめて薙ぎ払った。
遅れて壁に穴が開き、木片と土煙が噴き上がる。
家屋ごと吹き飛ばしていたはずの爆発が、狙った場所だけに圧倒的な威力を叩き込んだのだ。
「……当たった」
杖を握ったままフィリアの口が開く。
敵の動きを押さえ込むために何度も撃つ必要すらなかった。
たった1度で、前方にいたゴブリンの大半が倒れていたのだ。
「な、何だ今のは!!」
後方にいたゴブリンが叫ぶ。
建物を盾にすれば、あの女は爆発魔法を撃てない。
そのはずだった……!
だが射線を塞いでいた仲間も盾も、まとめて一気に貫かれた。
「退け……一時撤退だ!」
「馬鹿な! もう少しで突破できるんだぞ!?」
指揮を執っていたゴブリンは、食い下がる仲間の腕をつかんだ。
「我々にはここで死ぬ理由がない。……死んではならんのだ」
怒鳴るより低い声に、仲間が口を閉じる。
再び剣を浮かべ始めたフィリアを見て、今度こそ背を向けた。
撤退の声が広がり、残ったゴブリンたちが住宅の陰から次々と走り去る。
「……退いていくぞ」
「やったぞ! 追い返した!!」
土嚢の向こうを見ていた兵士たちが、一斉に歓声を上げた。
「すごいじゃないか……あれだけいたのに!」
「さすがです小隊長! あんな魔法まで使えたんですね!」
次々と向けられる笑顔に、フィリアも口元を緩めた。
自分の魔法で守れた。それも、近接戦闘で部下を危険に晒すことなく。
嬉しくないはずがなかった。
使い道が限られると思っていた力に、こんな可能性があったなんて。
剣だって、これからは振るう以外の使い方ができる。
今まで諦めていた場面でも戦える!
「ッ……」
だが、そのきっかけを与えた男へ目を向けると、素直には喜べなくなった。
今日来たばかりの上官。
前線を数字でしか見ないだろうと、つい先ほどまで決めつけていた相手だ。
その男が、自分でも知らなかった力の使い道をあっさり見抜いた。
こちらが何とかしなければと焦っている間も、まるで困っていなかった。
––––この人は、“別格”だ。
そう思った途端、杖を握る手に力が入った。
あっさり認めてたまるものか。
自分たちが苦しんでいる間、中央はずっとこの町を放置していた。
その中央から来た人間を、たった1度で信用するなんて……!
「見えたね、君の可能性」
ラインは、彼女の複雑な顔を見ても理由を尋ねなかった。
ただ、実際にやってみた感想を待つように笑っている。
その余裕が、今は少し腹立たしい。
「……これで信頼しきったとは思わないでください」
自分でも可愛げがないと思った。
それでも、今言えるのはこれだけだった。
「うん、覚えとくよ」
あっさり頷かれ、フィリアはそれ以上何も言えなくなった。
◇
町中の木組みの家。その一室が、アルテマ駐屯部隊の司令部だった。
壁には周辺の地図が貼られ、机の上には報告書が積み上がっている。
ラインは机の向こうに座る男へ、敬礼した。
「中央参謀本部より参りました、ライン・フォン・シュツットガルト少佐です」
「この町の防衛を任されているボルト・ヴァーニーだ。階級は大佐。一応……一級魔導師としての認定も受けている」
立ったボルトが敬礼を返す。
ラインは手を下ろし、ほがらかな笑みを浮かべた。
「それはすごい! 一級魔導師ともなると数が大変不足していますからね。この町では貴重な戦力でしょう」
「……それはどう返せばいいのかな」
ボルトの口元が、皮肉気味に歪む。
「君の等級を知った人間は、君にこそ同じ感想を抱くと思うが」
「……まあ今はその話は後にしましょう、現状を教えてください」
自分から振っておいて流すのか。
ボルトは小さく息を吐き、机の書類を脇へ寄せた。
下に敷かれていた地図には、町を囲むようにいくつもの印が付いている。
「君が見てきた通りだ。この広さを守るには、圧倒的に兵が足りない……砲台も整備不良で大半が使えんときた」
「部品も不足しているようですね」
「ああ。そして何より……この1週間物資がほとんど届かない。フランキア共和国軍と魔族の侵攻で、輸送路を大半が妨害されている」
ボルトの指が、西と南から延びる道をなぞった。
途中には、敵の進出を示す印が重なっていた。
「安全なルートを使えば運べる。だが、それでは量が減る上に時間もかかる。必要な物を寄越せと催促しても、こちらへ届く頃にはまた次の不足が出ている」
靴下1つに3週間。
フィリアの言葉を思い出し、ラインは地図を覗き込んだ。
「現地での調達は?」
「周辺の穀倉地帯を奪われたままだ。作物を育てる土地すら満足に取り戻せていない。町を守る兵を、奪還のため回すわけにもいかんしな」
守るだけで手一杯。
その間にも、戦うための物資と日々の食料は減っていく。
帳簿の数字が改善しない理由は、実にわかりやすかった。
来る時に見た果物の値段も、納得だった。
「そして目下の課題としては……」
「っと、言いますと?」
ボルトは地図から手を離し、ラインを見た。
「我々は外国のほかに、この町の冒険者ギルドとも戦わねばならない」
ラインは面白そうに笑った。
「まあそうでしょうね」
「冒険者ギルド【ドラゴニア】。戦力においては……軍にも匹敵しうるトップギルドだ」




