99. 私たちの普通じゃない週末は、まだ終わらない
いつも応援ありがとうございます!
当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。
最新話までじっくりお楽しみください!
【サクラ視点】
無事、自宅に戻った。玄関のドアを閉めた瞬間、私はその場に座り込みそうになった。今日は、もうクタクタだ。深淵王との戦い。広島県のダンジョンからの脱出。帰りの新幹線。そして、美桜さんからのクロへの質問攻め。分かる。分かるよ。黒狼が喋ったんだから、気になるのは当然だ。でも、私はもう限界だった。
「ただいま…」
誰に言うでもなく呟く。部屋の空気は、いつも通りだった。いつもの机。いつものソファ。いつものカーテン。世界の裏側で何が起きても、家は家のままだった。それが、少しだけありがたかった。
けれど、問題はその後だった。なんと、帰宅直後、うちに羅刹組の首領である鬼塚さんがやってきた。いや、なんで。今日、あれだけ大怪我していた人が、どうして普通に来るの。いや、そもそもどうしてウチを知っているの?鬼塚さんは、私とクロ、鬼塚さんの三人で話したいと言った。正直、少し怖い。いや、かなり怖い。でも、逃げるわけにもいかない。クロは私の足元で、じっと鬼塚さんを見ている。私は深呼吸してから、頭を下げた。
「鬼塚さん。あの時は、ありがとうございました」
鬼塚さんは、ふんと鼻を鳴らした。
「礼なんざいらねえ」
「でも、私の負担を引き受けてくれたのは事実です」
「勘違いすんな。てめえを助けたわけじゃねえ」
「それでも、助かりました」
私はもう一度、頭を下げた。鬼塚さんは、しばらく黙って私を見ていた。その目が怖い。でも、逃げない。逃げたら、たぶんもっと怖い。
「おい、小娘」
「はい」
「羅刹組に来い」
「行きません!」
自分でもびっくりするくらい、即答だった。鬼塚さんが目を丸くする。
「即答か」
「即答です!」
「気に入った」
「ひっ」
思わず変な声が出た。
「何で怯える」
「怯えますよ!」
羅刹組の首領に気に入られるって、普通に怖い。すると鬼塚さんは、腹の底から笑った。
「ガハハハハ!」
部屋が少し揺れた気がした。いや、気のせいだと思いたい。
鬼塚さんは、最後まで豪快に笑いながら去っていった。玄関の扉が閉まる。部屋に、ようやく静けさが戻った。私はその場にへたり込む。
「疲れた…」
クロが足元へ来る。
『よく断ったな』
「断るよ。羅刹組だよ?」
『まあ、そうだな』
鬼塚さんは怖い。でも、悪い人ではないのかもしれない。今日のことも、クロのことも、きっと黙っていてくれる。そう思えた。けれど、安心した瞬間、別のことが胸に沈んできた。藤堂先輩。いや、深淵王。あれは本当に藤堂先輩だったのだろうか。会社でいつも通りに話していた人。私の仕事を見てくれていた人。その人が、もう会社には行けないと言った。明日は月曜日。私は会社へ行く。でも、そこに藤堂先輩はいないのかもしれない。
考えなきゃいけないことは、山ほどある。藤堂先輩のこと。深淵王のこと。クロのこと。
桜さんに、クロが喋ることを知られてしまったこと。若葉さんにも、いつか話さなければいけないかもしれないこと。真里さんのこと。マリーのこと。リフィアさんの願い。ヴァルメリア。大賢者。黒い階段。迷宮核。そして、私自身の深層適性。クロが力を使えば、私に反動が来る。それも、まだ解決していない。ひとつひとつ考えなきゃいけない。逃げていい問題ではない。でも。今日はもう無理。私の頭も、身体も、心も、限界だった。
私はクロを抱き寄せた。クロは、少しだけ身じろぎしたけれど、逃げなかった。黒い毛並みに顔を埋める。温かい。生きている。それだけで、少しだけ安心できた。
「クロ」
『なんだ』
「今日は、もう何も考えたくない」
『そうしろ』
「明日、会社だよ」
『大変だな』
「本当にね」
私は小さく笑った。明日は月曜日。私は会社員に戻る。たぶん、前と同じ日常には戻れない。藤堂先輩はいないかもしれない。美桜さんにも、若葉さんにも、真里さんにも、話さなければいけないことがある。それでも。帰る場所がある。そして、そこにはクロがいる。私たちの普通じゃない週末は、まだ終わらない。そう思いながら、私は目を閉じた。
【■■■■■■視点】
白銀の盤面に、いくつもの駒が並んでいた。黒い獣。桜色の小さな駒。氷の欠片。細い剣。燃え尽きた白い城。青白く脈打つ核。そして、黒い階段。盤面の端で、黒い王冠の駒が倒れている。砕け、ひび割れ、光を失っている。けれど、その駒は盤外へ落ちてはいなかった。完全に消えたわけではない。終わったように見えて、まだ盤上に残っている。
「まあ」
白い指先が、黒い王冠の駒を撫でた。砕けた駒の表面に、細い光が走る。
「まだ、残るのですね」
その声は、喜んでいるようにも、残念がっているようにも聞こえなかった。ただ、事実を確認しているだけだった。ひとつの役割は終わった。けれど、駒そのものは盤外へ落ちていない。なら、まだ次の一手に使える。あるいは、別の形で動くこともある。白い指先は、黒い王冠から離れた。
次に、その指は黒い獣へ触れた。獣は牙を持っている。黒い影をまとい、六枚の翼の名残を盤面に落としている。その隣には、桜色の小さな駒があった。小さい。脆い。触れれば壊れてしまいそうな駒。本来なら、壊れるはずだった。本来なら、喰われるはずだった。迷宮に呑まれ、深層に沈み、黒い獣の力に耐えきれず砕けるはずだった。それでも、その駒はまだ盤上に立っている。黒い獣の隣で。まるで、そこが自分の場所だと言うように。
「面白い」
白い声が、静かに落ちた。
盤面の奥で、黒い階段がかすかに揺れた。祈りも。涙も。戦いも。救いも。破滅も。すべては、盤上に置かれた音にすぎない。駒が進めば音が鳴る。駒が砕けても音が鳴る。駒が誰かを守っても、誰かを殺しても、やはり音が鳴る。白い指先は、桜色の駒を動かさなかった。ただ、そっと触れただけだった。触れられた駒は、わずかに震えた。けれど、倒れなかった。
「続くのなら、続きなさい」
その声に、慈悲はなかった。悪意もなかった。ただ、次の一手を待つ者の微笑みだけがあった。黒い獣。桜色の駒。黒い王冠。青白い核。黒い階段。それらは、まだ盤上にある。ならば、物語は終わらない。白い指先が、盤面から離れる。そして、声が落ちた。
「さあ、次の祈りを聞かせてください」
【★第一部完結!ご愛読ありがとうございました!★】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
本話(第99話)をもちまして、『地球ダン悪魔』第一部完結となります!
突然の地球ダンジョン化から始まり、過酷な戦いと仲間たちとの絆、そして伏線回収……楽しんでいただけましたでしょうか?
毎日のように応援の評価やブックマーク、そして温かいリアクションや感想を届けてくださった読者の皆様のおかげで、一度も止まることなくここまで駆け抜けることができました。心から感謝申し上げます!
【次回予告&第二部スタートのお知らせ!】
ですが……物語はまだまだ止まりません!
本日(8/5)夕方の更新より、そのまま『第二部』がスタートします!!
(※1日2話/朝・夕の更新ペースもこのまま継続します!)
新たな敵、さらなるダンジョンの謎、そして成長した主人公たちの活躍をぜひ見届けてください!
【読者の皆様へお願い】
「第一部面白かった!」「第二部も楽しみ!」と思っていただけましたら、下部にある【★評価(星)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな原動力になります!
引き続き『地球ダン悪魔』をよろしくお願いいたします!




