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100. 月曜日の日常は戻ってきた。でも、同じではなかった

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

 月曜日。サクラのいつもの日常が始まった。いや、始まったように見えた。昨日、深淵王(しんえんおう)を倒した。三大クランの長たちを救い、広島県から新幹線で帰ってきて、鬼塚(おにづか)羅刹組(らせつぐみ)へ勧誘され、美桜(みお)にクロのことを質問攻めにされた。それでも月曜日は来る。そして、月曜日が来ればサクラは会社へ行く。最近の俺は、サクラが仕事へ行っている間、ダンジョンでレベル上げをしていた。だが、今日はついていくことにした。確認するためだ。藤堂悠真(とうどうゆうま)。いや、深淵王。あいつが本当に、サクラの日常から消えたのかを。

「おはようございます」

 サクラが職場に入って挨拶をする。

「おはよう」

「おはようございます」

 同僚や上司から、いつもの返事が返ってくる。変わらない日常。変わらない机。変わらない朝の空気。だが、一つだけ足りないものがあった。いつも誰よりも早く来て、仕事をこなす存在。藤堂主任の姿が、そこにはなかった。


「あれ、藤堂主任は?」

 サクラが、できるだけ自然に聞いた。

 近くの同僚が顔を上げる。

「今日はまだ来てないの。珍しいわね」

「休みの連絡もないから、きっと来るわよ」

 軽い返事だった。当然だ。会社の人間にとって、藤堂はただの主任だ。仕事ができて、いつも早く来て、サクラの面倒も見てくれる先輩。深淵王ではない。ダンジョンを守る者でもない。三大クランの長を殺しかけた男でもない。サクラだけが知っている。いや、俺だけも知っている。藤堂は、もう来ないかもしれない。サクラは「そうですか」とだけ答え、自分の席へ向かった。その背中が、少しだけ硬かった。


 始業時間になった。それでも藤堂は現れなかった。上司が電話をかける。出ない。メッセージを送る。返事はない。

「無断欠勤とは何事だ!」

 上司は怒っていた。

「最近の若い者は、連絡の一つもまともにできんのか!」

 その言葉に、サクラの肩が小さく震えた。たぶん、藤堂は無断欠勤をしているわけではない。もう来られないのだ。だが、それを言えるはずもない。深淵王でした。ダンジョンで倒しました。そんな説明が通るわけがない。藤堂が持っていた仕事は、周囲に割り振られ始めた。しかし、それだけで職場の空気が少し重くなる。できる男が一人いない。それだけで、日常は簡単に歪む。


 次の日。藤堂は、また来なかった。さすがに上司の表情も変わる。怒りよりも、困惑が大きくなっていた。社員の情報が載っている名簿が持ち出され、家族や緊急連絡先が調べられる。だが、すぐに連絡がつく相手はいなかった。

「仕方ない。藤堂の仕事を分担するぞ」

 上司の言葉で、職場の空気がさらに重くなる。藤堂が抱えていた仕事が、共有フォルダから掘り出されていく。そして、全員が固まった。量が多い。しかも内容がえぐい。納期が近いもの。取引先との細かい調整が必要なもの。複数の部署にまたがるもの。どうしてこれを一人で回していたのか。

「藤堂主任、やっぱりすごかったんですね…」

 誰かが呟いた。サクラは手元の資料を見つめたまま、何も言えなかった。会社での藤堂は、本当にできる人だった。それは、嘘ではなかった。


 三日目になると、さすがに社内は慌ただしくなった。上司が警察へ連絡した。藤堂の自宅も確認されたらしい。だが、本人はいなかった。事件か。事故か。あるいは、自分の意思で消えたのか。社内では、いろいろな憶測が飛び交った。

「ダンジョンに潜ったんじゃないか」

 そんな声もあった。だが、警察の確認では、ダンジョン関連の装備も、入場を示すようなものも見つからなかったらしい。その線は薄い。そう報告された。それを聞いた時、サクラの胸の奥が少し沈んだ。

『やっぱり藤堂さんが深淵王だったのかな…』

 影の中にいる俺へ、サクラが念話で呟く。

『たぶん、そうだろうな』

『どうして、自宅にダンジョン関連がなかったんだろう?』

『さあな』

 俺は少し考えた。

『ダンジョン大好き野郎だったから、ダンジョンで暮らしていたんじゃないか?』

『う〜ん、それならありそうね』

 サクラは、少しだけ口元を緩めた。

『どこにも黒い階段を使って移動してたっぽいし…想像すると笑えるかも』

 そう言っている。だが、サクラは泣いていた。

『藤堂さんが…』

 それ以上、言葉は続かなかった。


 その日の帰り道。サクラはコンビニへ寄った。何をするのかと思えば、スイーツ売り場の前で立ち止まる。プリン。シュークリーム。チョコ系のケーキ。しばらく真剣に悩んだ末、サクラは小さなカップスイーツを手に取った。うん。いつものサクラだ。こういうところを見ると、少しだけ安心する。会計を終え、コンビニを出た。その瞬間、サクラの足が止まる。

「藤堂さん?」

 声が、震えていた。次の瞬間、サクラは走り出した。

『どうした?』

『藤堂さんがいたの!』

『どこに?』

『あそこ!』

 サクラが指差した先に、一人の男性が歩いていた。背格好が、少し似ている。サクラは迷わず、その人を追いかけた。


 サクラは男性に追いついた。

「あの〜」

 男性が振り向く。サクラはその前へ回り込み、顔を見た。そして、すぐに表情が崩れた。藤堂ではなかった。似ていたのは、背格好だけ。顔も、声も、まったく違う。

「すみません。人違いでした…」

 男性は戸惑ったように頷き、そのまま去っていった。サクラは、しばらくその場に立っていた。手には、コンビニで買ったスイーツの袋。さっきまで少しだけ戻っていた日常が、また遠くなる。

『サクラ』

 俺は影から念話で呼びかけた。

『もう藤堂はいないんだ』

 言葉にしてから、少しきつかったかもしれないと思った。だが、言わなければならない気もした。


 サクラは、少しだけ目を伏せた。

「そう…ね」

 その声は小さかった。

「切り替えなきゃ」

 無理に明るく言ったのが分かった。だが、俺は何も言わなかった。うまい言葉が見つからなかった。藤堂は敵だった。深淵王だった。何人も殺そうとした。サクラも、俺も、殺すか洗脳しようとした。それでも、サクラにとって会社の藤堂は、確かに優しい先輩だったのだ。その事実は消えない。サクラはスイーツの袋を持ち直し、家路につく。足取りは、まだ重い。それでも、止まらなかった。うまいこと切り替えてくれることを、祈るばかりだ。月曜日の日常は、戻ってきた。けれど、同じ日常ではなかった。

【★第100話!いよいよ『第二部』開幕!!★】


お待たせいたしました!

記念すべき第100話より、いよいよ『地球ダン悪魔』【第二部】がスタートいたします!


第一部からずっと追いかけてくださっている皆様も、第一部完結を機に追いついてくださった皆様も、本当にありがとうございます!


第二部では、舞台がさらに大きく広がっていきます!

迫力の「離島編」をはじめ、ついに明かされる未知の「異世界編」など、第一部を超える怒涛のスケールと新展開を用意しております!

主人公たちのさらなる活躍と新たな謎を、ぜひ楽しみにお付き合いください!


【更新ペースについて】

第二部も勢いを落とすことなく、【毎日朝夕(1日2話)】のペースでどんどん更新していきます!


【応援のお願い】

面白いと思っていただけましたら、作品ページ下部にある【★評価(星)】や【ブックマーク】で応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!


それでは、第二部もよろしくお願いいたします!

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