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98/121

98. 鬼塚さんは黙ってくれた。でも美桜さんは黙ってくれない

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

 鬼塚(おにづか)が目を覚ました。かなり無茶をしたはずだが、さすが羅刹組(らせつぐみ)の首領というべきか、意識の戻りは早かった。サクラが、ほっとした顔で鬼塚の側へ寄る。

「鬼塚さん」

「おう…生きてるな」

「はい。あの、今日のことなんですが」

 サクラは一度、俺を見た。俺は黒狼の姿に戻っている。だが、鬼塚は俺が人型になり、喋り、深淵王(しんえんおう)と戦ったことを見ている。

「クロのこと、内緒にしてもらえませんか?」

 鬼塚は少しだけ目を細めた。

「なんだ。ワケありか」

「…はい」

「今日は助けてもらったしな」

 鬼塚は面倒くさそうに頭をかいた。

「分かった。黙っといてやる」

「ありがとうございます!」

 サクラは深く頭を下げた。

「でもよ」

 鬼塚は、倒れていた深淵王の方へ視線を向ける。

「どうやって説明すっかな〜、あれ」

 俺たちも深淵王の方を見る。そして、気づいた。

「あれ?」

 サクラが目を丸くする。

「深淵王がいない。服だけだわ」

 そこには、深淵王の身体はなかった。ただ、破れた服だけが残されていた。


「ダンジョンに吸収されたか…」

 俺は呟く。ダンジョンの中で人やモンスターが死ねば、肉体はダンジョンに吸収される。武器や鎧、服などは残る。だから、服だけが残っていること自体はおかしくない。ただし、早すぎる。普通は、ここまで早く消えない。深淵王がダンジョンに深く繋がっていたからか。それとも、何か別の理由があるのか。気にかかる。だが、今は考えている余裕がない。鬼塚は、服だけを見て鼻を鳴らした。

「これなら逃げたって言えばいいか」

「逃げた、ですか?」

 サクラが聞き返す。

「目が覚めたら消えてた。そう言っとくわ」

 乱暴な説明だ。だが、この場では一番通しやすい。深淵王を倒したのが、黒狼の姿をした大悪魔だと言うよりは、よほどいい。


 しばらくして、下の階から足音が響いてきた。一人や二人ではない。多数のハンターたちが、階段を駆け上がってくる。

「首領!」

 羅刹組の男たちが、真っ先に鬼塚へ駆け寄った。

「おう。お前たち、無事そうだな」

「首領こそ!」

「総長!」

 天照院(あまてらすいん)の者たちは天羽(あもう)へ。

楼主(ろうしゅ)!」

 月華楼(げっかろう)の者たちは九条(くじょう)へ。それぞれの声が飛び交う。しばらくして、天羽、九条、そして美桜(みお)も意識を取り戻した。

「美桜さん、良かった〜」

 サクラが心から安堵した声を出す。美桜は少しだけ目を開け、サクラを見た。

「サクラちゃん……無事か」

「はい!」

「…あいつは?」

 深淵王のことだ。サクラは一瞬だけ迷った。

「に…逃げた、ようです」

 美桜は少しだけ目を閉じた。

「そうか……無事で良かった」

「はい」

 サクラは小さく頷いた。


「下の階層ですが」

 天照院の一人が報告した。

「階段が現れる前に、モンスターが出ました。レベルの低いアンデッドです」

「アンデッド?」

 天羽が眉を寄せる。

「はい。おそらく、浅い階層かと思われます」

「そうか」

 天羽は周囲を見回した。

「なら、上に上がろう」

 九条も静かに頷く。

「異論ありませんわ」

 鬼塚は腹を押さえながら笑った。

「とっとと出ようぜ。腹減った」

 この状況でそれを言えるのは、ある意味すごい。羅刹組の者たちがサクラの方を見た。

「お前は俺たちが守ってやるよ!」

「え、あ、ありがとうございます」

 サクラが戸惑いながら頭を下げる。そこへ美桜が、少しふらつきながらも前へ出た。

「サクラちゃんは私が守るわ」

 鬼塚が鼻を鳴らす。

「ふん、そうかい。なら任せるわ」

 サクラはそのやり取りを、ハラハラした顔で見ていた。先日の抗争を考えれば、当然だ。だが、少なくとも今この場では、全員が同じ目的を持っている。地上へ出ること。ただそれだけだった。


 それから一時間ほどかけて、俺たちは地上へ出た。地上の空気を吸った瞬間、あちこちから安堵の息が漏れる。ダンジョンから出られた。それだけで、今は十分だった。だが、すぐに別の問題が分かった。

「ここ……広島県です」

 誰かがそう言った。サクラが固まる。俺も内心で固まった。広島。遠い。遠すぎる。俺たちは地元の海沿いのダンジョンに入ったはずだ。美桜たちは別の場所から入っていた。三大クランも、それぞれ違う県のダンジョンから繋げられていた。深淵王は、本当にダンジョン同士を繋げていたのだ。その異常さを、地上に出てから改めて思い知らされる。

「さぁ、自宅に戻ろう…」

 サクラが遠い目をした。明日からまた仕事だ。大変だな。俺は心の底からそう思った。


 帰りの新幹線。ようやく一息つけると思った。だが、そう簡単にはいかない。美桜が、静かにサクラへ顔を向けた。

「ねぇ、サクラちゃん」

「はい」

「どうしてクロは喋れるのかしら?」

 来た。当然来る。むしろ、今までよく我慢してくれていた。サクラは、分かりやすく笑った。

「えへへ…クロは賢くて、会話を理解できるんです!」

 無理がある。だいぶ無理がある。美桜は、じっとサクラを見る。

「前に、黒狼は死んだと言っていたわね。その子とは違う子なの?」

「…はい。ですが、亡くなった直後にクロとの契約がうまくいきまして……」

「そう」

 美桜は俺を見る。その目が、やはり鋭い。

「それで、いつから喋れるようになったの?」

「えっと…割とすぐ」

「すぐって?」

「皆さんとダンジョンに潜る前には…」

「へっあの時には…もう」

 美桜の顔が、一気に赤くなった。俺は少し考える。サクラ、美桜、若葉。ダンジョン。夜番。そこで、思い出した。ああ。あの時か。


「あの夜――」

 そこまで言った瞬間だった。美桜の両手が、俺の顔を掴んだ。そして、口を塞がれる。

「ふぐっ」

 声が出ない。美桜の顔が近い。そして、目が怖い。

「クロ」

 美桜は笑っていた。だが、目は笑っていなかった。

「あの時のことは、忘れなさい」

 俺は口を塞がれたまま、ふぐふぐと抗議した。

「わ・す・れ・ろ」

 本気で怖かった。俺はこくこくと頷いた。

「どうしたんですか?」

 サクラが不思議そうに聞く。美桜はぱっと手を離し、何事もなかったように笑った。

「なんでもないの。気にしないで!」

「そ、そうですか…あはは」

 サクラは引きつった笑みを浮かべた。

「そうなのよ」

 美桜はなぜか真剣な声で言った。

「人には、気にしてはいけないことがあるのよ」

 サクラは、それ以上聞かなかった。正しい判断だ。


 そんなこともあったが、俺たちは無事に帰ってくることができた。深淵王を倒し、三大クラン長を救い、遠く広島から新幹線で戻ってきた。その一日としては、十分すぎるほど濃い。家に戻ったあと、サクラが俺を見る。

「クロ」

「なんだ」

「話さなくて良かったの?」

 何を、とは聞かなかった。美桜のことだ。俺が喋れること。召喚直後から意識があったこと。そして、春日皐月かもしれないこと。

「いや」

 俺は首を振る。

「絶対、あのタイミングじゃない」

「そうかな」

「そうだ」

 あの流れで言ったら、どうなる。美桜が夜番の件で顔を真っ赤にして、俺の口を塞いだ直後だぞ。その直後に、実は俺が皐月かもしれないなどと言ったら。たぶん、殺される。別の意味で。

「あのタイミングで言ったら、殺されそうだった」

 サクラは少し考えてから、苦笑した。

「否定できないかも」

 おい。否定してくれ。だが、いつかは話さなければならない。それは分かっている。分かっているが。少なくとも、今日ではない。俺はそう自分に言い聞かせた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第5章執筆の凄まじいエネルギーになります!


実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

ぜひ、お気軽に覗いてみてくださいね!

【https://x.com/WaiWair99】

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